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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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跡継ぎに必要

 レントは顔を上げ、祖父リート、祖母セリ、父スルトを見る。


「お祖父様。お祖母様。父上。わたくしは寝た切りでも、執務の手伝いが出来ると思います」

「レント・・・」


 リートは眉間に皺を寄せ、レントの名を呼ぶだけで言い淀んだ。

 セリが首を左右に振りながら、レントの言葉の前提を否定する。


「あなたは治ります。だから寝たきりなんて言わないで」

「ですが、わたくしが治ると言ったのは、あの医者なのですよね?」


 レントは主治医を「あの医者」呼ばわりした。


「他の医者を探しますから」

「そうだとも。もっと信用できる医者を王都から連れて来る。スルト、構わんな?」

「え?医者に何かあったのですか?」


 話の見えないスルトに訊かれ、リートが答える。


「あのヤブが出した薬で、レントが酷い目にあったのだ」

「そうですよ。レントが上げたり(くだ)したり、大変だったのだから」


 レントを診ていたコーカデス家の主治医は、レントの体調が戻らない為、効き目の強い薬を処方した。それを弱っていたレントの体が、受け付けられなかったのだ。確かにヤブ医者と評価されても、仕方のない状況だった。


「でもね、レント。必ずあなたは治りますから、跡を継がないなんて言わないで」

「お祖母様?お祖母様の仰る治るとは、わたくしがどんな状況になる事を想定していらっしゃるのですか?」

「それは、元通りに、元気に立って歩いて、幸せに暮らせる事ですよ」

「ダンスは習わないのですよね?」

「え?ええ、もちろん。もうダンスを踊ってはなりません」

「そうするとわたくしは、体を動かすのが邸の中の移動だけになります。今の状態からですと健康は望めませんが、ただ生きていれば良いのですね?」

「何を言っているの!」

「良い医者を探してやるから心配するな」

「お祖父様。どうせ探して頂くのなら医者よりは、健康な跡継ぎの方がよろしいかと思います」

「私の実家を頼るなんてダメよ!」

「え?」


 脈絡の分からないセリの発言に、スルトは眉を(ひそ)めた。


「母上の実家を頼るとは、なんの事ですか?」

「なんでもありません。レントが以前、その様な事を言っていただけです」

「お祖母様の実家を頼らないのでしたら、父上が再婚なさるのでも良いと思います」


 リートとセリは言葉が出ない。そして内心ではレントの言う通りだと思っていた。


「父上?付き合っていらっしゃる方と、結婚なさったりはなさらないのですから?」

「え?何故レントが彼女達の事を知っているんだ?」


 スルトに(そと)に女性がいてもおかしくはないと、レントは考えていた。それなので、いてもいなくてもどちらでも通じる様な、訊き方をしたのだ。

 しかしまさか複数人の女性がいるとは、レントは思っていなかった。

 そして、リートもセリもスルトに女性がいるだろうとは思っていたし、二人はスルトの相手が複数でもそれほど驚かなかった。


「その方達に跡継ぎを産んで頂けば、よろしいのではありませんか?」

「・・・彼女達には子供を産ませない」


 その答えでレントは、スルトの相手の女性が平民なのだと確信する。もっとも相手が貴族女性なら、婚約話が出ている筈だ。それにそもそも貴族女性が相手なら、複数人と付き合う様な、トラブルしか招かない危険を犯す筈もない。


 でもそれなら自分に都合が良い、とレントは考える。

 つまりスルトに取ってレントは、唯一の子供でいられる。少なくとも今日のところは、それを前提として話を組み立てて良いのだ。



「もしわたくしに跡を継がせるのなら、その為にはわたくしが健康にならなければならないと思います」

「もちろんよ。直ぐに良くなるわよ」

「いえ。領主となるのでしたら、邸内を歩ければそれで充分とはなりません。父上の様な、領地内の視察はどうするのですか?」


 スルトが女性と付き合っている話が出た直後なので、視察先に女性を囲う事をレントが言っているのかとリートもセリもスルトも思い、三人は直ぐに言葉が出なかった。


「わたくしは馬車にも乗れませんので、代わりの人に各地に行って貰う事になるのでしょうか?それでしたらその人を領主とするのでも、良いのではありませんか?」


 続いたレントのその言葉で三人共、自分の誤解を悟る。

 スルトが眉根を寄せて、レントに尋ねた。


「馬車に乗れないとはどういう事だ?」

「王都でコードナ様の馬車に同乗させて頂きましたが、乗っているのがとても(つら)かったのです。長い距離は乗れそうにありません」

「コードナ家の馬車が?」

「コードナと言っても侯爵家のではなく、バルの馬車だろう?」

「そうだとは思いますが、乗せていただいた馬車は、とても立派な物でした」

「王宮に乗り付けたのですよね?バルの馬車だとしても、お金を掛けているのではない?」

「それに王都ですので、路面は整備されているのだと聞きました。それでもわたくしの体では、揺れに耐える事が出来ませんでした」

「え?レント?まさかその馬車の中で粗相なんてしなかったわよね?」

「はい。コードナ様と別れるまで、無様な姿を見せてはいません」


 レントは馬車から馬に乗り換えて、風に当たったら気分の悪さが治まった。


「いや、だが、レント?王都には騎馬で往復したのだよな?」


 スルトが眉間の皺を深くしてレントに訊く。


「はい」

「それはどうやったのだ?馬車より揺れるし、体力も使うだろう?」

「わたくしの乗馬は見様見真似です。ですのでわたくしには堪えられても、馬には負担を掛ける乗り方だそうです。ただわたくしの体重が軽いので、馬が何とか耐えてくれた様でした」


 リートが「だが」と口を開く。


「旅立ちを見送った時は、ちゃんとしていたではないか?良い姿勢で乗っていたぞ?」

「礼儀作法のお陰で、上半身の姿勢は長時間保つ事が出来ます」

「それはつまり、騎馬なら領地も回れると言う事か?」

「今のまま、体重が軽ければ可能な筈です」


 口を閉じている三人をレントは見回した。


「コーカデスの領主になる人にはじっくりと領地を見て回って貰って、私は領都で執務の補佐をするのが、我が領の将来に取っては理想的ではないでしょうか?」


 レントの言葉に三人は、言葉が出ないままだった。

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