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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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サニンはどう?

「ところで」


 ソロン王太子のその一言に、ミリは警戒レベルを上げる。


「先日の茶会にミリ殿も参加していた訳だけれど、どうだったかな?」

「はい。とても有意義な時間を過ごさせて頂きました」


 ミリは淀みなくそう答えた。


「その割には早く帰宅したみたいだよね?」

「お兄様」


 元王女チリン・コーハナルがソロン王太子に非難の視線を向ける。

 そのままチリンは続きを口にせず、ソロン王太子も何も返さないので、ミリは答えた。


「わたくしは、あの様な場に参加させて頂く事が初めてでしたので、色々と緊張してしまい、早目に退席させて頂いたのです」


 疲れたと言ってはダメだろう、とミリは考えて言葉を選ぶ。


「そう?ミリ殿は、他の出席者の面倒を良く見ていたとの報告が、上がって来ていたよ。周囲に気を配っていたとの話からは、ミリ殿が緊張していた様子は窺えなかったのだけれど?」

「お兄様?」


 またソロン王太子が意地悪モードになったと、ミリは判断した。

 チリンとの会話で、実はソロン王太子にストレスが溜まったのではないかと、ミリは推測する。


「戸惑っている方がいらしたので、声を掛けた事はございました」


 ソロン王太子の意地悪に足掛かりを与えない様に、ミリは枝葉の付け(にく)い最低限の説明で返した。


「面倒見が良いんだね?」

「お褒め頂き、光栄に存じます」


 ソロン王太子のその、返しの面倒臭い言葉にも、手を掛ける場所を与えない様にミリは応える。


「手強いね」


 しかしミリはそのソロン王太子の呟きに、やり過ぎたのかも知れないと思い至る。

 大丈夫、チリンがフォローしてくれる、と思いを起こして、ミリは気持ちを立て直す。

 そのチリンが小声で「ミリちゃん」と呼び掛けた。

 その声を断ち切る様に、ソロン王太子が次の問いをミリに投げ掛ける。


「ミリ殿はサニンとも話をしたのかい?」


 ほら来た。

 伝統のビスケットの話をしたのだから、サニン王子とミリが会話していた事は、ソロン王太子は当然把握しているだろう。

 それをわざわざ自分に質問するのは何か狙いがある筈だ、とミリは改めて警戒したけれど、そこでサニン王子が直ぐに王都から王家直轄領に帰った話を思い出す。

 もしかしたらソロン王太子とサニン王子は話す時間もなかったとかで、単にサニン王子の様子を知りたいだけなのかも知れない、とミリは考えた。


「はい。サニン殿下にはお声を掛けて頂きました」

「そうか。ミリ殿はサニンをどう思った?」

「お兄様!」


 チリンがソロン王太子とミリの間に手を出して、二人の視線が交わるのを遮った。


「なんだいチリン?随分と不調法な真似をするじゃないか?ミリ殿の前で、兄として恥ずかしいぞ?」


 チリンの指の間から見えた、ソロン王太子が浮かべた表情は、恥ずかしがっている様にミリには思えなかった。少し怖い。


「お兄様こそ、何を仰る積もりですか?」


 そのソロン王太子の顔にも、チリンは全く怯まない。


「一人の父親として、自分の息子の評判が知りたいだけだよ」


 そう言ながらソロン王太子は、チリンに手を下ろす様に手振(てぶ)りで促す。

 チリンは一拍置いて、ソロン王太子の表情が戻ったのを確認してから手を戻した。


「それで?ミリ殿の目にはサニンはどう映ったかな?」


 ソロン王太子が微笑みを浮かべてミリに尋ねる。


「サニン殿下は周囲に良く注意を向けていらっしゃっていて、周りの方達の意見も良く汲み上げていらっしゃいました」


 そのミリの返しにソロン王太子は笑みを深めてみせた。


「そう?どう?ミリ殿はサニンを気に入ってくれたかい?」

「お兄様!」


 話をまた妨げたチリンに対して、ソロン王太子は今度は苦笑で済ませた。


「大丈夫だよ、チリン。そう言う意味ではないよ。バル殿はミリ殿を嫁に出さないと言っているのだろう?それに正面から挑む気はないよ」

「バルさんが言っていなくてもダメですけれど、ではどう言う意味で仰っているのですか?」

「ミリ殿にサニンの側近になって貰えないかなと思ってさ」


 そう言って微笑みを浮かべると、ソロン王太子はミリに「どうだろう?」と尋ねた。


 どうもなにも。

 ミリは断っても良いのかとチリンを窺うけれど、チリンはミリの視線に気付かないまま、困惑を浮かべた顔でソロン王太子を見ている。

 仕方ないのでミリは、ソロン王太子に自分で答えた。


「わたくしはまだ、何も修めてはおりませんので、サニン殿下の側近として頂く事は出来ません」

「もちろん今すぐにではないよ」

「お兄様?学院卒業後だとしても、未婚の女性が王子の側近になれば、あらぬ噂を立てられます」

「ああ、そうだね」

「そうだねではありませんよ」

「だからミリ殿が子育ても済んで、落ち着いてからで構わないよ」


 子育て?と思い、誰かの子供を育てるのではなく、ミリがミリの子供を育てる事をソロン王太子が言っている事に気付いて、ミリは少し呆れた。気が早いと言うか、気が長いと言うか。

 さっきはバルがミリを嫁に出さない件を口にしていた。それなのに子育てなんて、とミリは思う。


 もしかしたらソロン王太子の話は未婚の母になる事を前提にしている?

 そうだとしたら、先日の両親との会話をソロン王太子に知られている様に思えて、ミリは背中に寒気を感じた。

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