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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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王家の秘術

 ソロン王太子の「まだ秘密だ」発言に、ミリは体を硬くしたけれど、しかし元王女チリン・コーハナルは動じない。


「そもそもお兄様は王都から出ても良いのに、嫁いだ私が出てはダメだって言うのは、おかしいではないですか?」

「いや、だって、私は男で、チリンは女なのだから」

「だから何ですか?私は王族籍を抜けているのですよ?」

「でも、王位継承権は持っているだろう?」

「継承順位が上のソロン王太子殿下もサニン殿下も王都を離れられるのに、順位が下の上に嫁いで王族籍も抜けている私はダメって、それこそおかしいでしょう?」

「いや、まあ」

「お兄様?おかしいですよね?」

「まあ、そうだね」

「継承権を放棄すればよろしいのですか?」


 ミリはそんな話を耳にしたくないし、そんな会話が進んでいるこの場にいたくない。


「いや、それはダメだろう?サニンに何かあった時に国が困るじゃないか」

「でも私はもう、侯爵家の嫁なのです。臣籍降下と変わらないでしょう?」

「臣籍降下は継承権順位を整理する為のものだから」

「でも、実態は同じですよね?お兄様とサニン殿下に何かあっても、私は王位を継いだりしませんよ?」

「それは分かっているし、そんな事にならないで済む様には考えているよ」

「もし私が男の子を産んだとしても、その子はコーハナル家の跡取りです。違いますか?」

「それはそうだけれど」

「男の子を二人三人産んだとしても、手放しません。王家に差し出したりしませんからね?」

「いや、それはそうなった時の状況次第で、分からないだろう?」


 ミリは不思議に思った。

 最悪の状況でもチリンは、息子を王家に養子に出したりしないのだろうか?

 そして最悪の状況なら力尽くでも、王家は後継ぎを用意するのではないだろうか?だからソロン王太子はここで、その時にならないと分からないなどと正直に言うのではなく、この場を納める言葉で濁して、いざとなったらそれを反故にするのが普通なのではないか?

 ミリは自分が一人っ子だから良く分からないけれど、もしかしたらチリンが甘えて拗ねて見せて、ソロン王太子がそれを宥めているから、こんな会話になっているのかと考えた。

 迷惑な。自分に聞こえない所でやって欲しい。


「いいえ。私の子供には王位継承権を放棄させます。私はもう王家を出たのです。王家は王家で何とかして下さい」


 毅然と言うチリンにソロン王太子は苦笑して、「分かったよ」と答えた。


 ミリはその様子を見ながら、住む地域を変えると妊娠し易いとの話を思い出していた。

 チリンがコーハナル侯爵領に夫のスディオと共に移ったら、直ぐに子供が出来るかも知れないなと、今のこの場の状況から思考を逃避しつつ考える。


 言うだけ言ったチリンは、ソロン王太子が話を受け容れた事で、肩の力を抜いた。


「ごめんなさい。お忙しいのに、無理な事を言って」

「いいや、無理ではないよ。それにこの件は父上の主管だから、チリンの要望を父上に伝えるまでが私の仕事だ。大した手間ではないよ」

「そう・・・お父様なのですか」


 チリンの声に落胆が混ざる。

 それに対してミリは心の中で、気付かない気付かない、と繰り返した。


「もちろん私もフォローをするし、大丈夫だよ」


 ソロン王太子がそう言ってまた苦笑する。

 そのソロン王太子の表情を見て、チリンも苦笑を浮かべた。


「ニッキ王太子妃殿下は、このまましばらくは、王都にお戻りになられないのですか?」

「そうだね。難しいかな」

「難しい?」

「実は何度か流産をしていて、王都を離れているのは、静養の為でもあるんだ」


 これこそ本当に聞いてはいけない事だ、とミリは思った。

 この場での会話を振り返って、これを聞いたか聞かないかに関わらず、これまでの話も聞いてはいけない事だったな、とミリは判断する。

 振り返れる事が出来た事で、少しは慣れたのかも?とミリは自分を評価した。


「それって周りのプレッシャーの所為ですよね?」

「いや、断言は出来ないけれどね」

「お兄様?お兄様はニッキ王太子妃殿下の夫でしょう?そこはニッキ王太子妃殿下の味方になって、キッチリと断言するべきです」

「いや、味方だよ?もちろん私はニッキの味方だけれど」

「味方なのに、別居しているのですか?」

「え?いや、それは、王都にいると色々と言われるし、別居しているなら子供が出来ない事を私の所為に出来るし」

「違います。味方になって一緒に暮らして、ニッキ王太子妃をプレッシャーから守って、一日も早く二人目の王子を産むべきです。たとえ別居していても、二人目の王子を産めない事は、ニッキ王太子妃殿下のストレスになっているのですからね?」

「いや、まあ、解決するにはそれしかないのは分かるけれど」

「お兄様?お兄様は王家の秘術ってご存知ですか?」


 ミリは部屋を飛び出して逃げたかった。

 王家の秘術なんて、国家の機密より、絶対聞いたらダメなヤツだ。


「王家の秘術?・・・いや、聞いた事はないけれど?」


 そう返しながらソロン王太子は、閨房術を思い起こしていた。


 王族男子は年頃になると、男女の交わりを実技付きで習う。

 だがそれは、公にこそされてはいないけれど、秘術でも何でもない、筈だ。他人と比べた事がないから、断言は出来ないけれど。

 ただし、それの王族女子向けがあるのかも知れない。


「どんなものなんだい?」


 イヤ!訊かないで!訊くなら余所で訊いて聞かせないで!とミリは心の中で早口で叫んだ。


「私も聞いただけで、どの様なものなのかは知らないのですけれど」


 ミリは少しホッとした。でも今更油断はしない。


「どこで聞いたんだい?」

「先程、お母様から言われました。そう言うものがあるから、試してみないかと」

「試す?話の流れから、妊娠に関係した術だよね?」

「ええ。妊娠し易くなったり、流産し(にく)くなったりするそうです。お母様が私やお兄様を産めたのも、王家の秘術のお陰だって」

「チリンはまだ習ってはないんだね?」

「はい。今日初めて聞きました」

「そんなのがあれば、さっさと利用するけれど」

「お兄様もニッキ王太子妃殿下も、ご利用なさってないのですね?」

「ああ。母上に聞いてみるかな?」

「ミリちゃんは?」

「え?はい」


 二人の会話に集中していたので、急に名前を呼ばれてミリは()で応えてしまう。


「ミリちゃんは王家の秘術って、知っている?」

「え?」

「いや、チリン。王族の私達が知らないのに、ミリ殿が知っていたらおかしいだろう?」

「いいえ、お兄様。ミリちゃんは男女の仲に付いて、とても詳しいのですよ?」

「え?」


 ソロン王太子が目を見開いてミリを見た。

 ソロン王太子の頭には、ミリの母ラーラに対しての、かなり非道い(かつ)ての噂が思い浮かんでいた。

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