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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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兄妹と気遣い

「お待たせ致しました」


 そう言って応接室に、元王女チリン・コーハナルが戻って来た。


「そろそろ良い時間ですので、このままお(いとま)させて頂きます」


 チリンはドアの傍に立ったまま、そう室内に告げた。

 ミリはその言葉に立ち上がる。


「まだ時間は残っているけれど、この後に用事でもあるのかい?」


 ソロン王太子の質問に、チリンは少し躊躇(ためら)ってから「いいえ」と答えた。

 その様子を見て、ソロン王太子は側仕えと護衛を下げさせる。

 応接室にはまた、ソロン王太子とチリンとミリの三人だけになった。


 ソロン王太子はチリンに席を勧め、ミリにも着席を促した。



「大丈夫かい?」


 ソロン王太子がチリンに尋ねる。

 チリンは「大丈夫です」と肯いてから、しかし無意識に首を小さく左右に振った。


「母上に色々と言われたのかい?」

「色々でもありませんけれど」

「久し振りなら、お小言も溜まっていただろう」

「お小言なんて、違います」

「ちょくちょくと顔を出して上げなよ。母上も社交の場がなくて、暇を持て余しているのだから」

「わたくしは暇ではありません」


 チリンはツイっと顔を逸らした。


「まあ、そうだろうけれどね」


 そう言ってソロン王太子は苦笑する。


 ミリは、人払いの時に自分も一緒に、応接室を出て行けば良かったと思った。この場でこの兄妹の会話を聞き続けて良いのか、不安になる。


 チリンは顔を戻してソロン王太子を見てから、視線を下げた。


「もちろん、お兄様の方が、私より忙しいのは知っています」

「なんだい?母上には私に会いに来た事を咎められたのかい?」

「違います。それも言われましたけれど。お兄様の邪魔をするなって」

「私は今日、チリンに会えて嬉しいよ。ミリ殿に会えたのもね?」

「光栄に存じます。あの」


 ミリは自分の名前が出た今がチャンスだと思い、口を挟んだ。


「お二人には積もる話もおありでしょうから、わたくしは外でお待ち致しましょうか?」

「いえ、大丈夫よ?」

「気を遣わせてしまったかな?大丈夫だからね?」

「・・・分かりました」


 気を遣いたくないから出て行きたかったのに、との思いをミリは飲み込んだ。


 そのミリの様子を見て微笑んだソロン王太子は、その顔のままチリンを向く。


「それで?違うと言っていたけれど、邪魔するな以外の何を母上に言われたんだい?」

「・・・いつもの繰り返しです」

「・・・ああ・・・まあ、そうか」


 チリンは眉根を寄せ、ソロン王太子は苦笑を浮かべた。


「久し振りに顔を合わせた娘に、他に言う事はないのかしら?」


 ミリは、これは絶対に、自分が聞いてはいけない系統の話だと思った。義理の従姉の実母に対しての愚痴ではあるけれど、元王女の王妃への批判でもあるのだ。

 ミリの背筋には思わず力が入る。


「それはチリンに限らず、貴族に嫁いだ限りは仕方ないよ」

「そんなのは分かっています。言われるのが仕方ないのも分かっているけれど、言われる内容だって改めて言われなくても、充分に分かっているのです」

「王族に嫁いだのよりはまだマシだろう?でも、コーハナル家でも言われるのかい?」

「コーハナルでは言われないわ。コーハナルのお義母(かあ)様もなかなか妊娠しなかったそうだし、お義祖母(ばあ)様もそうだったらしくて、お義母様を()かす事はなかったそうよ。そう言うプレッシャーは却って良くないって仰っていたわ」

「母上はさんざんプレッシャーを掛けられたろうからね。私を産むのもそうだけれど、二人目も」

「それは知っているし、分かっています。私が女だったから、男の子をもう一人産めと、周りに言われていたのも知っているわ」

「私達には、生まれて来れなかった兄弟もいるらしいしね」

「それもこれも、周りがプレッシャーを掛けるからよ。本人だって充分に分かっているのだから、まだかまだかって急かさないで欲しいわ」

「そうだよな」

「お母様ったら頻度まで訊いて来るのよ?もっと増やせとか、スディオだって忙しくて疲れているのに、私から求めたり出来る訳ないでしょう?」

「あ、いや、そうかもな」


 ソロン王太子は少し引いた。

 可愛い妹の夫婦生活の具体的な回数とか、聞かされたなら堪らない。


「私の所みたいに、別居していたら言われないのだろうけれどな」

「スディオ一人、領地に行かせるの?ニッキ王太子妃殿下はサニン殿下を産んでいるから良いけれど、男の子を産んでいない私が、スディオと別れて暮らせる訳ないでしょう?」


 チリンの言葉にソロン王太子は曖昧な笑みを浮かべたけれど、心の中では話題が逸れそうな事に安堵していた。


「ニッキ王太子妃殿下も、二人目の男の子を産めと言われていないの?」

「まあ、色々とあって」

「もしかしてお兄様、上手くいってないの?」


 今度こそ聞いたらダメだ、とミリは体を硬くする。耳を塞ぎたい。


「ちゃんと会いに行っているよ。王都にいてもそれこそ社交が出来ないだろう?だからニッキは直轄地で、周辺の領地の夫人達との交流を中心に行っているんだ」

「そう。でもお兄様?早く二人目の王子を産んで下さいね?」

「それはまあ。でも、授かり物だから」

「お兄様に二人目の王子が生まれるまで、私は王都を離れられないのよ?」

「それはそうだけれど」

「そのお陰で、本来なら領地で経営を実践している筈のスディオも王都で暮らしているし、代わりにコーハナルのお義父様が一人で領地に出向いているし」

「分かっているよ。それも何とかしようと思っているから」

「何とかって?」

「二人目が男でも女でも、チリンの王位継承順位は下がるだろう?だから、生まれたのが女の子でも、チリンへの王都への縛り付けをなくそうって、父上と準備を進めているんだ」

「そうなの?」

「ああ。まだ、秘密だけれどね」


 これこそ聞いてはいけない事だ。油断していたミリはショックを受けた。

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