表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
202/645

足りないもの

 レントの祖父リートは、コーカデス家が伯爵に落ちた事に付いての責任を感じていた。

 今日のレントとの会話の中でも、今のコーカデス家の窮状に責任を感じ、何度も胸が痛んだ。


 もちろん領地を治める事には全力を尽くしていたと、自分では思っている。手を抜いた事など一切ない。

 それにコードナ家やラーラに取った対応にも、後悔は一切していない。

 しかし領地の財政を立て直す事が出来ず、コーカデスを伯爵に落としたのは間違いなく自分なのだ。


 そしてその苦しい領政を一緒に支えてくれた息子のスルトは、伴侶に出て行かれてしまった。その離婚の原因には、政務の忙しかった事が多くの割合を占めている様に、リートには思えていた。

 一方で、伯爵に落とした自分の事は、妻のセリが今も支えていてくれる。そしてセリは、このコーカデス家を由緒ある家と呼んで、今でも大切に思ってくれている。


 リートは、スルトの幸せも何とかしてやりたいし、間違っても孫のレントにスルトと同じ思いをさせたくはなかった。


「セリ」

「・・・何?」

「アルトが亡くなってから私達は、スルトに対して過保護にし過ぎたんじゃないか?」

「え?・・・だって、跡を継げるのはスルトしかいなくなったのだもの。気を配るのは当然じゃない。それを過保護とは言わないわ」

「ああ。スルトは小さい頃から大人しかったのもあるし、跡継ぎ教育を始めたのが遅くなったのもあるから、社交もそんなに熟さなかった。領地経営の勉強が忙しくなったから、剣術も乗馬もダンスも中途半端だったな」

「だって、落馬したりしたらどうするのよ?剣で怪我をしたりも」

「ああ。分かっている。しかしレントもスルトと同じ様に育てば、スルトと同じ様に伴侶を失くすのではないか?」

「そんなの、あんな嫁を選ばなければ良いのよ」

「フレンの事だって、あんな嫁だと思って選んだ訳ではないじゃないか?」

「だからこそ今度は、レントにはちゃんとした娘を嫁に貰うのよ」

「セリ」


 セリの言葉には返さずに、リートはただセリの名を呼ぶ。


「・・・何?」


 リートの穏やかな表情に、セリは少し怯んだ。それはリートの顔が今日見た、王都から戻って少し変わったレントの顔を思い出させた所為でもある。

 そしてセリは今のレントの顔が、若い頃のリートに似ている事に、今更ながら気付いた。


「私はセリに感謝をしているんだ」

「え?どうしたの?私もリートには感謝しているわよ?」

「そうか。ありがとう」


 リートの笑みに儚さが隠れている気がして、セリは落ち着かない。

 そのセリの様子を見て、安心させようと笑みを重ねるリートに、セリはますます気持ちを揺さ振られた。


「私はコーカデス家を伯爵家に落としたし、今も領地の景気は悪い。王都邸の再建もままならない状態だし、もうずっと切り詰めた暮らしをセリには()いている」

()めてよ。贅沢できないのは、私だけじゃないでしょう?」

「ああ。それでもコーカデス家を見捨てないで、私を見限らないでいてくれて、セリ、ありがとう」


 セリの胸がキュウッとなる。

 若い頃なら胸キュンで済んだかも知れないけれど、もう加齢による不整脈とかを疑わなければならない年齢にセリは達していた。


「そんなの、当たり前じゃないの」

「そう言ってくれる君と結婚できて、私は本当に幸せだった」

「なに言ってるの!」


 セリは思わず立ち上がってそう言うと、リートの顔を見下ろして両手の拳を握った。


「これで終わりではないでしょう?これからもっと幸せになるんじゃないの?」


 そのセリの様子を見てリートは「ああ」と呟いて、自分も立ち上がる。


「君を幸せにするし、私も幸せになろう。もちろん、レントもスルトもだ」


 セリを見詰めてそう言うと、リートは両腕でセリの体を包んだ。


 セリは不意に抱き締められて、体を硬くした。リートに抱き締められるのなんて、どれ位振りだろう?恥ずかしさが込み上げて来て、反射的に突き飛ばさなかったのは良かったと、セリは思考を逸らして自分を誤魔化す。


「レントをスルトの二の舞にしない為にも、レントには男としての魅力を磨かせないか?」


 逃避気味な事を考えていたので、セリはリートのその言葉に、うっかりと肯く所だった。


「待って。男としての魅力って、何の事を言ってるの?」

「女性から見て、魅力的に見える事なら何でも良い。別に剣や乗馬の事だけを言っている積もりはないんだ」

「本当に?それならダンスとか、楽器の演奏とか」

「演奏か・・・ダンスはダメそうだったから、演奏だな。後は歌とかもか?」

「そうね。演奏しながら歌うのは、かなりポイントが高いと思うわ。でも、何でダンスはダメなの?」

「レントの体力では、1曲通して踊れないと言っていたじゃないか」

「練習が足りないんじゃない?」


 そのもっともなセリの意見に、リートは苦笑する。


「そうだな。練習をする為の体力がないと言う事だから、レントが言っていた様に、まず体力作りが必要だろうな」

「それは邸の中を歩けば良いのでしょう?」

「まあ、それもそうだが・・・」


 レントと同じ様に、リートにも邸の中を歩き回って体力を付けるイメージはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ