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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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手紙と魅力

 自室に戻ったレントは、ベッドやソファに倒れ込みたかったけれど、その気持ちを何とか抑えて、机の椅子に腰掛けた。


 ミリに手紙を書く積もりだし、レントの父スルトにもそれを報告する為の手紙を送らなければならない。

 レントはミリへの手紙を書き掛け、()めて、スルトへの手紙に着手した。


 スルトへの手紙には、サニン王子の茶会でミリと出会った事、伝統のビスケットの件、馬車に同乗した経緯、そして鼻向けとしてミリお薦めのお菓子を貰った事を書き、それに付いての礼状をレントが家に内緒で送った事にして、返礼品をミリには贈らず、その事を指摘されてもコーカデス家は一切知らなかった事にする事に付いて祖父母と合意した事を記した。

 また祖父母とは学院への通学に付いて、認識が違っていた事も書いた。そしてレントが王都には常駐せずに、コーカデス領から課題を提出して学院を卒業する事でも、祖父母と同意した事も記した。


 それらに加え、ミリが大切に育てられていると感じられた事、しっかりとした教育を受けている事、頭の回転が速い事、気遣いも出来る事、そしてレントが好感を(いだ)いた事も書いた。

 これは、ミリに好感を抱いた事をスルトに認識して貰って置いた方が、楽だとレントが考えたからだ。

 レントが祖父母と同じ様に、ミリの事を悪魔の子として扱うとスルトに思われると、レントが手紙を出す事も馬車に同乗した事も、祖父母に説明したのと同じ様に細かくスルトに説明しなければならない。

 ミリに好感を抱いたと書いて置けば、多少の誤解はあっても大きな食い違いは起こらないと、レントは考えていた。


 その上で、ミリが応じるならミリとの文通をしたい事も、レントはスルトへの手紙に書いた。

 これは祖父母には話さなかった。祖父母に話せば祖父母と揉めるし、手紙を送る事自体を反対されるとレントは思ったからだ。

 そしてスルトには、文通を通じて王都やコードナ侯爵家やソウサ商会の情報を手に入れられないか、試す積もりである事も伝える。コーハナル侯爵家に嫁いだチリン元王女を通せば、王家の情報さえ掴める事が出来るかも知れない。


 レントはミリに好感を抱いたのは本当の事だけれど、それはそれとして、ミリを情報源とする下心もあった。

 レントはミリとの付き合いを通せば、自分の世界の狭さを解消できると、世界を広げていけると考えていた。


 ミリがレントに対してどう思ったのか、レントには分からなかったし、それを考えると不安が心に広がりもする。

 しかし、ミリが優しい少女である事は、僅かな時間を共にしただけでも充分にレントには分かっていた。

 優しいのではなく、優しく振る舞っているのだとしたら?そんな懸念もあるにはあるけれど、それなら振る舞いの範囲内で、付き合って貰えば良い。レントはそう割り切って考えながら、本当にそうだった時に自分が傷付かない様に保険を掛けた。

 それなので、その優しさに目一杯付け込んで、自分を成長させる為の糧になって貰おうとレントは思っている。


 レントに悪意はない。

 ミリを利用する積もりだけれど、ミリから何かを奪う積もりはない。

 もし自分の行為がミリの負担や不利益になったとしても、その経験自体はミリの成長に繋がると、レントは信じていた。もちろんレントはミリの不利益を狙ってはいないし、負担だと分かったら押し付ける積もりはない。


 ただ、ミリの利益となる様なものをレントが直接提供出来るとは、レント自身、思っていないだけだった。自分は伯爵家の跡取りと言う以外、何も持っていないので、何も直接には与えられないとレントは思っている。

 そしてその事に付いても、ミリは既に色々と持っているのだから、ミリも気にしないし構わないと思ってくれる、とレントは判断していた。


 何せ、あの日初めてあったばかりで、お互いの家族には深い負の因縁がある自分に対して、ミリはお土産としてお薦めのお菓子を贈ってくれて、見返りはいらないと言っていたのだから。



 その夜、寝室でレントの祖父リートと祖母セリは、話をしていた。

 話題はレントだ。


「ねえ、リート?レントを学院に通学させなくて、本当に大丈夫だと思う?」

「やはり心配か?」

「それはそうよ。ここに引き籠もっていたら、社交は難しいけれど、それはどうするの?」

「スルトや私達がレントの縁談を調えるなら、社交をしていなくても構わないじゃないか。そうだろう?」

「そう言われると、そうなのだけれど」

「由緒ある我が家の跡取りなのだから、レントに見合う嫁を選りすぐってやれば、社交なんて不要だ」

「そうは思っているけれど」

「不安か?」

「だって・・・私達の子供達は、正直、良い縁に巡り会えていないでしょう?」


 リートは眉間に皺を寄せる。

 その通りだし、それは思っていたけれど、そして確かにレントを王都にはやらないと先に判断したのは自分だけれど、由緒ある跡継ぎなら縁談の心配はないと言う様な事をセリも言っていたじゃないか、とリートは思った。それを今更なんだ?


「その失敗をレントに活かせば良いだけだ」

「失敗って・・・」


 失敗は失敗だろう?と、リートは眉間の皺を深くした。


「だが、良い縁談も良い将来に繋がらなくてはならない」

「それはもちろんよ」

「その為に私は、レントは剣や乗馬を習うべきだと思っているんだ」

「なんで?さっきは習わない事に賛成していたのに、どうしたの?」

「賛成はしとらんよ」

「してたわよ。忘れたの?」

「セリの言葉を邪魔しなかっただけだ」

「後からなんでそんな事を言うのよ?」

「セリ。お前から見て、スルトはどう見える?」

「え?スルト?レントではなくて?」

「ああ。女性から見たスルトは、頼りなさそうだったり、魅力が無かったりしないか?」

「そんな事ないじゃないの。スルトは優しい良い子じゃない」

「その優しさも、女性の目には頼りなく映らないか?」

「それは、でも、あの子も一所懸命やってるじゃないの?リートも知ってるでしょう?」

「知ってはいるが、そうではなくて、スルトがもっと男性的な魅力を持っていたら、フレンも離婚して我が家を出て行ったりはしなかったのではないか?」

「あれはフレンが目先の事しか考えられない、薄情な恩知らずだからよ」

「いや、まあ、そうだし、フレンの実家の裏切りもあるが、それでもスルトにもっと魅力があれば、フレンは我が家に留まったのではないか?」


 リートは息子スルトの元妻フレンの話をしながら、嫁ぎ先に残る為に実家であるコーカデス家との縁を切った自分の娘チェチェとその夫を思い浮かべていた。


「別に、フレンが他の男が良くて、スルトと別れた訳ではないでしょう?」

「しかしだな、出て行って直ぐに再婚したが、出て行く時には次が決まっていたんじゃないか?」

「それはそうかも知れないけれど」

「相手とは面識があったろうし」

「同じ時期に学院に通っていた筈よね」

「それなので、スルトと比較して、再婚を選んだのではないか?」

「・・・なんとも言えないわ。相手は前妻に子供が出来なくて離婚していたそうだから、子供を産んだ事がある実績で、再婚相手にフレンを選んだとは思うけれど」

「スルトは忙しくて、フレンの相手も全然していなかった様だしな」

「今と同じで、ほとんど邸には帰って来なかったしね」


 会話は途切れ、二人の寝室は静寂に包まれた。

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