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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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被害を装う罠

「分かりました。王都で通学するとしても、ミリ様とは距離を置く様に心掛けます」


 祖父母のリートとセリに向けて肯きながら、レントはそう言った。

 学年が違うので、実際にはそれほどミリと接触する機会はないと、レントは考えている。校内で偶然出会うのは仕方ないし、そこまで細かく接近禁止は出来ないだろうと、レントは思った。完全にミリを避ける為には、ミリの動向を完全に把握する必要があるし。


「ですけれどもし、学院で暴徒が暴れる様な事があれば、ミリ様に助けられてしまうかも知れない事は、許して下さいね?」

「そんな事は起こらないって言ったでしょう?」

「そうだ。それになんで助けられる前提なのだ?」

「ミリ様が戦っていたら、わたくしはその脇を通り過ぎて、逃げる事になるでしょう」

「なんでミリ・ソウサが戦うのよ?」

「ミリ・ソウサの護衛達の事を言っているのか?」

「護衛も含めてですけれど、ミリ様は護身術や剣術を習っているそうですから、自らも戦うかも知れません」

「さっさと逃げるに決まっている」

「そうよ。他の子達を盾にして逃げるに決まっているわ」

「そうでしょうか?」


 レントは首を傾げて見せる。


「サニン殿下の茶会では、ミリ様は他の子供達の面倒を見ていました。そんなミリ様が緊急事態に、他の子供達を見捨てるとは思えません。率先して助けるだろうとわたくしは思います」

「そんな事、有り得ないわ」

「悪魔の子だぞ?他人を助けるなど、有り得る筈がない」


 ラーラが悪魔と呼ばれたから、ミリは悪魔の子と呼ばれたのに過ぎない筈だった。

 それなのに悪魔の子である事を根拠として話すリートにも、その言葉に肯くセリにも、レントは違和感を覚える。


「そもそもそんな状況に、なる訳がないって言っているでしょう?」


 セリの言葉にレントは、二人から感じる違和感を足掛かりに使って、話を動かす事にした。


「しかし、お祖父(じい)様とお祖母(ばあ)様の言う様に、ミリ様が本当に悪魔の子なら、起こり得るのではありませんか?」

「え?」

「それは・・・悪魔の子なら、騒動を起こすと言う事か?」

「え?自分で騒動を起こすの?」


 レントの言って欲しかったセリフを二人が口にする。


「はい。悪魔の子と言う悪評を上書きする為に、英雄的行動を取りに行くかも知れません。その為の手段として、騒動を起こさせる可能性はあります」

「そんな事をしたら、首謀者として捕まるだけだ」

「しかしお祖父様。例えば神殿の信徒達を経済的に追い詰めるくらい、ソウサ商会には簡単なのではありませんか?」

「ソウサ商会の力など、高が知れている」

「そうですか?先程はお祖父様が、各家の王都邸をソウサ商会に弁償させると仰っていましたが、王都の貴族邸を建て直すよりは、信徒達を苦しめる方が、ソウサ商会には簡単な事なのではありませんか?」

「金額的にはそうかも知れんが、実施するのは困難な筈だ」

「いいえ。神殿の信徒達は未だにラーラ様を悪魔と言っているのですよね?」

「・・・ああ」

「ミリ様を悪魔の子と言っているのも、神殿の信徒達ですね?」

「まあ、そうだな」

「それを理由に、謝罪するまでは神殿関係者には商品を売らない、などと言い出す事は有り得ます」

「そんなのは無理よ」

「それに客が神殿関係者かどうかなど、分からないではないか」

「ええ。ですが神殿に売らないだけでも効果はあります。もしくは、そう宣言するだけでも」

「・・・信徒を怒らせる為か」

「そうです」


 レントは大きく肯いた。


「王都の暴動事件の顛末を見ても、神殿が信徒達をコントロール出来ていないのは明らかです。怒った信徒を神殿は止められないでしょう」

「しかし、そんな自分達の首を絞める様な事を神殿がするとは思えない」

「神殿ではなく信徒です。王都の暴動事件の頃に子供だった信徒達は、大人からラーラ様の事を悪魔と教え込まれている筈です。その子達の中には、大人になっている信徒もいるでしょう。当時に子供だった信徒達は、自分では自分の首を絞めてはいません。子供達の首を絞めたのは大人達です。それなので、自分達の感情と大人達が陥った失敗は、結び付け難いかも知れません」

「しかし、そんな挑発に乗るだろうか?」

「悪役となるのは信徒全員ではなくて良いのです。数人の信徒が騒動を起こし、それを英雄が収めた事が周知出来れば良いのですから」

「しかし、歴史から学ぶと言う事もある。信徒達も暴動で、自分達が何を失ったのか、分からないとは思えない」

「過去を振り返り、ラーラ様とミリ様は悪くなかった、との結論を信徒達が持っていれば良いのですが、そうでなければ反省は、ミリ様達を攻撃したと言う行動に付いてではなく、違う方法で攻撃すべきだったとの、手段に向けてのものになるのではありませんか?」


 レントの言葉にリートは何も返せなかった。


 コウバ公爵家を筆頭にした公爵三家がコードナ侯爵家やラーラを攻撃した際に、悉く目論見が外れていた事をリートは思い出していた。

 それは王家からの反応が想定とは違った所為でもある。しかし上手く逆手に取られていた事もあった。

 あれがコードナ侯爵家やコーハナル侯爵家が仕組んでいた事だったら?


 そう言えば、広域事業者特別税は、コードナもコーハナルもそれらに与した他の侯爵家やその配下も、反対をしていなかった。

 そしてそれを実施した貴族家は、ソウサ商会の撤退を受けて、経済的に混乱をした。それを補うかの様に、広域事業者特別税を施行しなかったコードナ侯爵領もコーハナル侯爵領も他領も、今も好景気に恵まれている。

 広域事業者特別税を言い出したのは、公爵三家だったはずだが、一体誰だったのか?


 もしかしてそれを裏でソウサ家が操作していたのなら?


 リートは背中に寒気を覚えた。

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