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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ダンスの授業で身に付く事

「それより、ダンスはどうなの?」


 レントの祖母(そぼ)セリは、レントの体力作りの手段を思い付くと、明るい声でそうレントに言った。


「ダンスですか?」


 レントはセリの言葉に小首を傾げる。

 そのレントの様子を見て、セリは眉根を寄せた。


「リリから習っているでしょう?」

「はい」

「ダンスは結構、体力を使うわよね?」

「その様ですが」


 レントの反応が今ひとつ鈍い事で、セリの心に僅かな不安が生まれる。


「ダンスの練習を続ければ、体力は付くのではない?」


 普通に練習をしているなら、ダンスでどれ程体力を使うかレントが気付かないのはおかしい、とセリは思う。


「今はわたくしの体力がなさ過ぎるので、叔母上からは基本的なステップを少し習った程度です」

「え?定期的にレッスンしていないの?」

「して頂いています。座学を中心に教わっています」

「座学?」


 レントの祖父(そふ)リートが口を挟んだ。


「ダンスで座学か?」

「はい」

「ダンスに座学なんてあるのか?何を習うのだ?」

「ダンスの種類ですとか、歴史ですとか、ステップの種類ですとか、叔母上には教えて頂いています」

「それはダンスを覚える上で、何か役に立つのか?」

「ステップの種類は役に立つのではないでしょうか?名称を覚えた全てのステップをわたくしが使える様になるとは、今のところ思えませんけれど」

「しかしそんなのは、直ぐに習い終わるだろう?」

「そうでもありませんけれど、でも、わたくしの体力が1曲通して踊れる様になる前には、座学で習う事はなくなりそうではあります」

「1曲?今は1曲も踊り通せないのか?」

「はい。直ぐに息が切れてしまいますので」

「そんなになのか」


 リートの呟きは耳に入ったけれど、リートのその厳しい表情を見て、レントは言葉を返さなかった。リートに状況の深刻さを意識付ける為には、レントの言葉よりもリートの想像力に頼った方が良い、とレントは考えたからだ。


「でも、毎回少しは体を動かすのでしょう?」

「はい」


 レントの肯定にセリは微笑んだ。


「それなら大丈夫よ。レントが成長すれば、1曲を通して踊れる様になるわ」


 レントは、そんな低い目標で良いのか、と思ったけれど、取り敢えず一旦は「そうですね」と、微笑みを浮かべて応える。


「ダンスを習っても仕方ないかと思っていたのですけれど、体力作りの為だと思って、叔母上に教えて頂き続ける事にします」

「仕方ない?仕方なくはないでしょう?ダンスは社交に必要よ?」


 レントは「しめた」と思った。


「しかし、剣も使えず馬にも乗れず、ダンスだけ出来る様な男に対して、女性がダンスに応じてくれるとは思えません」

「そんな事、ないわよ」


 セリの即座の否定に、レントは疑念を抱く。ダンスが上手か下手かならまだしも、ダンスが出来る出来ないだけで、女性が男性に対するの評価を変えるほど重要視されているとは、レントには信じられない。

 それなのでセリの続きの言葉に、レントは納得した。


「あなたは由緒あるコーカデス家の跡取りなのだし、あなたが誘えばみんなが応じるわ」

「・・・そうですね。わたくしは気の利いた会話も出来る様にはなりそうにありませんので、地位でしか女性に評価して貰えるポイントはありません」

「そんな事ありません!レントは賢いのだから、会話なんていくらでも出来るでしょう?」

「そうでしょうか?ダンスの歴史でしたら他の子よりは、多少は詳しく話せる様になるかも知れませんけれど」

「そうではなくて、なにかあるでしょう?」

「そうですか?そう言えば、お祖父様とお祖母様は、どの様なお話をなさっていたのですか?」

「どの様なって若い頃なら、流行りのお店の事とか、学院での思い出話とか、劇の感想とか、将来の事とか」

「将来・・・それはお祖父様とお祖母様が、婚約なさってからの事ですか?」

「もちろんよ。婚約するまでは、家族以外の男性と話したりなんて、した事がなかったもの」

「ダンスは?ダンスも家族とだけですか?」

「ええ、婚約前はもちろんそうよ。でも家族だけとは言っても、一緒に暮らしていない叔父様や従兄弟達も含むわよ?」

「なるほど。わたくしに取っては、お祖母様と叔母上と言う事ですね」

「え?・・・ええ」


 セリはレントの世界が急にとても小さく感じた。

 レントはそのセリの表情から、セリの心情に効果があった事を読み取る。


「でも、今は学院でも、婚約者ではない男女が会話したり出来るから、レントにも直ぐに知り合いが増えるわ。きっと」

「その際にわたくしは、伯爵家の跡取りと言うアピールポイントを使うのですね?」

「使うと言うか、男の子の友達が出来れば、その子の姉妹や従姉妹とも知り合えるわ」

「男子とも、話が合うとは思えません。今回のサニン殿下の茶会でも、ミリ様とは会話出来ましたが、後はサニン殿下とジゴ様と挨拶以外に少し言葉を交わしただけですので」

「そうなの?」

「それにわたくしは学院には通わず、この領地で課題だけ熟して、卒業する事になりますよね?」

「え?なんで?」

「え?王都で暮らすのは、かなりの費用が掛かります。コーカデス家には王都邸もありませんし」


 セリがその認識ではない事に、レントは少し驚く。レントが学院に入学しても通学しない事は、決定事項だとレントは思っていた。


「何かの切っ掛けで知り合えたとしても、わたくしには大した話題も提供出来ないので、会話は続きません。男子相手でも、友人と呼べる仲になるのは、難しいと思います」


 そう言いながらレントは、ミリへの手紙に書く話題がなさそうで、少し不安になる。


「そもそも、友人と言うものを持った事がありませんので、どうやって友人となるのかも、良く分かりませんし」


 それは単なる事実なのだが、レントは自分の言葉に心細さを感じた。

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