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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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後継ぎ候補

「年下の娘に、お前が何を負けると言うのだ?」


 レントの祖父(そふ)リートは、言葉を絞り出す様にレントに言う。

 それを受けてレントは、取り敢えず事実を述べた。


「先ずは身長です。1学年下でもサニン殿下に及ばないのは良いとして、ミリ様にも敵いません」

「女の子の方が成長は早いのです」


 小さく左右に首を振りながら、レントの祖母(そぼ)セリがそう言う。

 サニン王子にも身長で負けている事がスルーされたので、レントは少し補足する。


「しかし2学年下のジゴ・コードナ様にもです。多分3学年下ではないかと思われるウィン・コウグ様と、わたくしの身長はほぼ同じでした」


 その言葉にセリは眉間に皺を寄せたが、リートは「心配ない」と肯いた。


「私は学院卒業後にもまだ背が伸びた。レントも今から心配する必要はない」


 レントはもちろん将来の自分の身長も、心配をしてはいる。しかし、この場で会話したいのは、現在の事実に付いてだ。


「身長に付いてはそうかも知れません。では力はどうでしょうか?今時点ではミリ様の方が、体はガッチリしています」


 少女にガッチリとの表現はどうかと思ったけれど、レントは他に良い言葉が浮かばなかった。心の中でレントはミリに謝る。


「押し合えば、わたくしの方が飛ばされます」


 これも謝ろうかと思ったけれど、少女の力が強い事は悪い事ではないと思い直す。自分に力が無い事が言いたい事なのだし、とレントは考えを改めた。ただミリには、褒め言葉としては伝えない様にしようと、レントは心にメモをする。


「大人になれば、男の方が力が出せるものだ」

「それは鍛えれば、ではありませんか?病弱な子供は大人になれても、力が付かないと聞きます」

「レントは健康なのだから問題ない」

「騎士や剣士は、トレーニングで力を付けると言います。それは違いますか?」

「それは、そうだが」


 リートが折れたので、レントは微笑んだ。その表情をセリに向ける。


「念の為に言いますと、剣や乗馬の稽古をしたいから、この話をしているのではありません」

「そうなの?それなら、何の為?」

「見窄らしい男になった時の為の言い訳です」


 レントはそう言って、笑みに苦味を混ぜた。


「見窄らしいって何ですか?そんな訳、ないでしょう?」

「今のガリガリのまま、背だけがヒョロッと伸びたら、男らしいとは言えませんよね?」

「レントはそんな事にはなりません」

「あるいは逆に、太ってプヨプヨとか」

「そんな訳、ないでしょう?」


 セリは表情に怒りを混ぜる。


「お祖父(じい)様も少しお(なか)が出ていらっしゃいますけれど、でもそれなりの筋肉をお持ちなのでプヨプヨにはなりませんが、わたくしが太ったら自分では歩けない体になる筈です」

「そんな訳ないじゃありませんか!」


 セリは前掛かりになって、レントとの距離を縮めた。


「そうならなければ良いのですが、もしそうなった時には、わたくしの力ではどうにもならなかったのだと、判断して頂きたいと思います」

「大人を脅す積もり?」

「いいえ。ですが、後継ぎは他を探して下さい」

「は?」

「何を言っておる!」


 リートがテーブルを拳で叩いた。


「我が家の後継ぎはお前だけですよ!」

「血の濃さならハクマーバ家から養子を取っても」

「ふざけるな!」


 リートが再びテーブルを拳で叩く。


 ハクマーバ伯爵家は、レントの叔母チェチェの嫁ぎ先だ。

 コーカデスが侯爵から伯爵に降爵した時から、ハクマーバ伯爵家には距離を取られている。レントの父スルトが援助を依頼した時も、ハクマーバ伯爵家に断られていた。


「チェチェとは縁を切ったのです!あの子の子供を我が家の後継ぎになどしません!」

「実家より嫁ぎ先を取る様な娘は、私達の娘ではない!」

「そうですか?でも、嫁ぎ先より実家を取ったわたくしの母の事も、お祖父様とお祖母(ばあ)様は普段、非難なさっていますけれど?」


 レントの実母フレンは、コーカデスが伯爵になった時にスルトと離婚して、実家に帰った。


 レントの言葉にリートもセリも、目を充血させて歯を食いしばった。

 レントに何か言ってやりたいけれど、頭に血が上って、二人とも言葉に出来ない。


「後はお祖母様のご実家でしょうか?」

「・・・なにがだ?」

「なんのこと?」

「父上の従兄弟やわたくしのハトコ達は、健康に問題なさそうです」

「・・・だからなんだ」

「健康だからって養子になんて取らないわよ」

「当たり前だ。我が家にはレントがいるのだからな」

「わたくしが当主になると、見た目で家名に傷を付ける事になってもですか?」

「そんな事にはならん」

「ですが、わたくしに万が一の事があれば、養子を取らなければなりません」

「万が一を起こさない為に、剣を習わせないと言っているのよ」

「運動をしていないと、寿命は縮むそうです」

「は?」

「それに男性としての機能も落ちるとか」

「そんな事はないわ!」

「わたくしが後継ぎを儲けない内に、他界する事はあり得ます。やはり保険の為にも、後継ぎ候補は探しておくべきです」

「そんな事、許す訳ないだろうが!」

「スルトだって許しませんよ」


 一瞬、他界を許さないのかとレントは思ったが、後継ぎを探す方かと思い直した。


「そうでしょうか?」

「当たり前だ!」

「それ以外、考えられないでしょう!」

「でも、もしその様な状況で、わたくしがコーカデス家の跡を継いだら、その日の内に後継者に家門と爵位を譲渡します」

「な!」

「そんな事!許しませんよ!」

「ですが、その瞬間はわたくしが当主ですので、どなたにも止める事は出来ません」


 ここまで言う積もりはなかったけれど、先に宣言しておけば、実際に似た様な状況になってもスムーズに事を進められるから、まあ良いか、とレントは思った。


「もちろん、そんな事にはならないかも知れませんけれど」


 しかし、言葉を失くしたリートとセリの姿を見て、二人の事が少し心配になって、レントはそう付け足した。

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