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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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返礼品はどう?

「わたくしはミリ様にお礼の手紙を書こうと思っています」


 そのレントの発言に、祖父リートも祖母セリも目を見張って息を詰めた。

 その様子に構わず、レントは続ける。


「王宮からの帰りにミリ様に馬車に乗せて頂いた時、お土産としてお菓子を頂きました」

「なに?どう言う事だ?」

「まさかそのお菓子を食べたの?」


 セリは前のめり気味の体勢で訊く。


「食べましたけれど、大丈夫です。お菓子を頂いたのは、わたくしがお菓子をあまり食べた事がない事を知って、ミリ様がお薦めの物を贈って下さったのです」

「え?お菓子を食べた事がないなんて話したの?」

「はい」

「なぜそんな、弱点を曝すような真似をしたんだ?」


 リートが疲れた声を出す。


「弱点ですか?」

「レントの言葉を聞いた人間は、コーカデス領の経済状況と結び付けて考えるだろう」


 結び付けるも何も、原因そのものなのに、とレントは思う。


「サニン殿下の茶会で出されたお菓子は、わたくしが知らない物ばかりでした。それですので、わたくしが言葉にしなくても、周りには気付かれたと思います。それなら数人にわたくしから正直に告げて教えを乞う方が、印象が悪くはならないと判断しました」

「数人とは?後は誰だ?」

「実際にはジゴ・コードナ様とミリ様の二人だけです」

「選りにも選って、なぜその二人なの」


 セリの呟きは聞こえたけれど、独り言だとして扱って、レントは聞き流した。

 もしかしたら、ジゴから他の人に話が広がっているかも知れないと、レントは思ったけれど口にはしない。


「お菓子を頂いたお礼をしなければなりませんので、無事に帰領した報告を兼ねた手紙を送ろうと思います」

「菓子などなぜ受け取ったのだ?」

「ミリ様がどの様な物を薦めるのか、興味がありましたので」


 リートは頭を抱え、セリは片手で顔を覆う。

 頭を抱えたリートが唸る様に言う。


「返礼品はどうするのだ?」

「不要かと思います」

「そんな訳にはいきません」


 セリが顔から手を離してレントを睨む。リートも顔を蹙めてレントを見た。


「お返しもしない様だと、我が家が見くびられてしまいます」

「そうだな。我がコーカデス家は由緒ある家柄だ。返礼をしない様では、貴族としての体面に傷を付ける事になる」


 リートとセリがそう言う事を言うと言う事は、二人とも無意識にはミリ・コードナを貴族の一員として扱っているのだとレントは思った。もちろんそれを指摘したりはしない。


「しかし、頂いた物に見合う物を贈る事が出来なければ、却って我が家の評価を下げるのではありませんか?」

「貰った菓子の値段はいくらなのだ?」

「分かりません」

「大体でも良いのよ?」

「見当も付きません」

「何と言う店で買ったのかは覚えている?」

「どこで買ったかは分かりません。複数の店かも知れませんね」


 レントは店名を覚えていたが、敢えてそう答える。


「一つだけ名前が分かるお菓子があります。伝統のビスケットも頂きました」

「あれは幾つもの店で売っていたろう?」

「そうね。それに素朴なお菓子なので、どの店で買っても大した値段はしない筈だわ」

「仮にもコードナを名乗る娘だ。あのレベルの物だけではないだろうな」

「伝統のビスケット以外は、ミリ様のお薦めの品だそうです」

「何品あったの?」

「伝統のビスケット以外に10種類です。日持ちしない物から日持ちする物まで、選んで頂いてありました。どれも美味しかったです」


 レントののんきな声の答えに、再びリートは頭を抱え、セリは再び片手で顔を覆う。


「ですのでここは、子供のわたくしが勝手に、我が家に内緒で手紙を出した事にするのはどうでしょう?」

「勝手にだと?」

「返礼品はどうするの?」

「何でもある王都に住んで、何でも扱っているソウサ商会の血を引くミリ様が、貰って嬉しい様な物を我が領で用意できるとは思えません」

「だからといって、何も返さない訳にはいかないのよ」


 ここでレントは賭けに出た。


「それでは特産品の干し魚でも贈りますか?」


 コーカデス伯爵領の一部は海に面していて、いくつかの漁村がある。

 その村々で唯一の現金収入源となるのが、干し魚だ。


「何を言ってるの!」

「王都の近くの港は貿易港で、漁をしていないそうですから、ミリ様にも干し魚は珍しく思って貰えると思います」

「馬鹿な事を言うな」

「そうよ!魚なんて貴族の食べ物じゃないわ!」

「レントにだって魚なんか食べさせた事はないだろう?」


 セリは眉尻を上げて、リートは逆に眉尻を下げて、レントを見た。


「はい。一度も」

「そんな物を渡したら、何を言われるか分からんぞ」

「まさか王都で、干し魚がコーカデス領の特産品だとか、言って来なかったでしょうね?」

「はい」


 レントは笑みを浮かべた。

 リートとセリが、平民のミリには干し魚が向いてると言い出す可能性もあった。しかし二人は、貴族の食べ物ではないからミリには贈らせないと、反対したのだ。

 レントは賭けに勝ったのだ。もちろん、負けないとは思っていたけれど、嬉しさからの笑みをそのまま零した。


「それではやはりわたくしが、家には内緒で手紙を送った事にしましょう。コーカデス家は、それを知らなかったので止められなかった、とすれば良いのです」

「いや、しかし」

「でも、それは」

「その場合も、わたくしに教育が出来ていなかった事を指摘されるかも知れません。けれど子供のやった事です。その点を責め過ぎれば、攻撃した方が恥を掻きます」

「それはそうだけれど」

「お前の評価はどうなるのだ?」

「その後、わたくしの評判が上げられれば、取るに足らない過去の問題になります。それに、見合わない物を返礼品とする事と、コーカデス家が知っていて何も返さない事は、我が家には選択できないと思いますが、いかがですか?」

「それはそうだけれど」

「その話、スルトにも了承を取らなければならんぞ?」

「はい。お礼状は直ぐに送る必要がありますので、それと一緒に父上宛てにも手紙を届けさせます。父上が連絡を受け取るのは事後にはなりますが、父上も了承して下さるでしょう」

「大丈夫なの?」

「はい」


 レントは話を思った通りに進められた喜びの笑みを浮かべる。


「他に良い手が無い事は、父上も納得して下さると思います」

「・・・そうね」

「そうだな・・・」


 自分の言葉に肯くリートとセリの姿を見て、レントは勝利に笑みを深めた。

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