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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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レントの評価

 レントは夕食を祖父(そふ)リートと祖母(そぼ)セリと摂りながら、硬い空気を感じていた。

 邸に帰った時に迎えてくれた二人とは、かなり雰囲気が違うけれど、それに付いてレントには心当たりがあった。


 食事が済んで退室しようとするレントに対して、セリがお茶に誘う。

 レントの想定通りだ。セリの声が少しぎこちない理由も、レントには思い当たる。



 お茶を淹れると使用人は下げられた。

 茶室にはリートとセリとレントの三人だけとなる。


 二人が何も言わない内に、レントから話を切り出した。


「お祖父(じい)様、お祖母(ばあ)様。もしかすると、ミリ・コードナ様の件で、話があるのでしょうか?」


 リートとセリは顔を上げてレントを見た後、お互いを見て肯き合うと、再びレントに顔を向けた。

 リートが口を開き、いつもより低い声を出す。


「そうだ」

「コードナ様の馬車に同乗した事に付いてですね?」

「それもそうですけれど、そもそも何故、コードナの人間と一緒だったの?」


 セリは乗り出すように上半身を傾け、少し早口でレントに尋ねる。


「サニン殿下の茶会で、コードナ様とは席を譲り合ったのです」

「まず、相手の確認だ」


 レントの話をリートが遮る。


「相手は悪魔の子のミリ・ソウサだな?」

「悪魔の子?コードナ様はその様なあだ名で呼ばれているのですか?」

「ラーラ・ソウサは悪魔だろう?その子供であるミリ・ソウサは悪魔の子だ」

「それは、まだ子供のミリ様に対して、随分と酷いあだ名ですね」

「あいつらがした事を考えてみろ。正体を的確に言い表している、当然の呼び名だ」

「ラーラはコードナ家の者ではありません。よってミリもです。コードナと呼ぶのも様を付けるのもお()めなさい」


 リートの言う「あいつら」にはミリを含むのかも知れないけれど、ミリはコーカデスに何もしていない事を思って、レントは指摘するか迷った。その隙にセリが命じたので、取り敢えずそちらにだけ、レントは反論をする。


「そうは参りません。ミリ・コードナ様はわたくしより、立場が上です」

「何を言っているのです。違いますよ」

「その通りだ。あいつらの事など貴族としては認めん」

「お祖父様とお祖母様が、その様に考えていらっしゃるのは知っています」

「なら様付けなど、お止めなさい」

「悪魔の子と呼べば良いのだ」


 セリとリートの言葉が想定通りだったので、レントは父スルトの事を話に出した。


「しかしコーカデス伯爵家の当主である父上は、コードナ侯爵家との和解の際に、ラーラ様を貴族と認め、バル様の妻である事も受け容れています」

「それは、仕方ないのよ」

「間違いであっても、飲み込まなければならない事が貴族にはあるのだ」

「はい。そしてわたくしは父上の子であり、コーカデス伯爵家の一員です。当主である父上が飲み込んだのです。わたくしが否定する事は出来ません」

「レント!」


 セリがソファから立ち上がり、レントの名を叫んだ。


「悪魔の子に何を吹き込まれて来たのです!」

「レント。良く考えて答えろ。お前なら何が正しいのか、分かる筈だ」


 リートも声を一段と低くして、レントに迫る。 


「お祖父様、お祖母様。わたくしはミリ様とそれほど会話をしておりません。一緒にいた時間もほんの僅かです」

「それだから何だと言うの?」

「ミリ様が本当に悪魔の子だとしても、お祖父様とお祖母様に育てて頂いたわたくしが、その様な短時間に誑かされると、本当にお考えですか?」

「そんな事は、ありませんけれど」


 見詰めるレントの目の力に、押さえ付けられる様に萎れる様に、セリはソファに腰を下ろす。


「それなら何故だ?何故、悪魔の子の肩を持つ?」


 問い掛けたリートに視線を向けて、レントは答えた。


「肩を持つ訳ではありませんが、ミリ様は将来、我が国に影響を与える人物になるのではないかと感じました」

「国に影響?お前より小さい小娘がか?」


 ミリの背の高さを思い出して、レントは自分の方が小さいと思い、リートの表現には引っ掛かりを覚えた。

 王都に行って、自分より年下の子が自分より大きかった事は、自分はちゃんと成長できるのかと、少しレントの不安の種になっていた。

 そもそもどんな歴史上の偉人でも、自分と同じくらいの身長だった事があるはずだ、とレントは自分に言い聞かせてはいる。


「父親も分からない女が、国に影響を及ぼす訳がありません」


 セリの言葉にレントは根拠が見付けられない。

 父親がいないデメリットは経済的に不安定になる事と、社会に出た際の後ろ盾が弱くなる事だ。

 レントにはミリが、周りの人間に愛されて育っている様に感じられた。それなら本当の父親がいなくても、後ろ盾となってくれる家はあるだろう。

 後ろ盾の候補はコードナ侯爵家であり、コーハナル侯爵家であり、ソウサ家だ。景気の悪いコーカデス伯爵家とは比べ物にならないとレントは思ったけれど、もちろん言葉にも顔にもそれを表したりはしない。


「サニン殿下の茶会の参加者は、私以外は皆、ミリ様より年下ではありましたが、礼儀作法や会話の進め方などの差は、年齢ばかりが理由だとは思えませんでした。ミリ様はわたくしより、1年近く誕生日が後ですけれど、とても良く教育されているご令嬢です」


 まだ子供なのにその様な評価を下せるレントもレントなのだが、そのレントの言葉の内容にだけ反応して、リートもセリも顔を(しか)めた。


「教師が教師だからな」

「型に嵌めるのがお得意な方達ですものね。型が外れるまでは、それらしく見えるのでしょう」

「お祖母様の仰る通り、ミリ様に嵌められている型は、いずれ外れるのかも知れません。しかしそれまでの間にミリ様は、大勢の味方を作っていくと思います」

「あいつらに味方など、簡単に出来るものか」

「そうよ。味方と同じくらい敵も生まれるわ」

「敵?」


 レントはわざとらしく首を傾げる。


「敵は新たに生まれないかと思います」

「その様な訳、ありません」

「何故、その様に思うのだ?」

「ミリ様の敵とは、我がコーカデス家や公爵三家、そしてそれらの配下の貴族ですよね?」

「そうよ」

「もちろんだ」

「そうすると、もう既に敵なのですから、増えた事にはなりません」

「私達の味方を増やすのに決まっているでしょう?」

「どうやってでしょうか?」

「どうって、社交とか、色々と方法はあるわ」

「なるほど。しかし、社交にしろ、領地間の提携にしろ、あるいは政略結婚にしろ、今の我が家には難しいのではありませんか?」

「いえ、そんな事はありません。今もあなたの父上が、頑張ってくれているではありませんか」

「それはお祖父様もお祖母様も、同じではありませんでしたか?味方を増やす為に、様々な手段を取って、最善を尽くしたのではないでしょうか?」

「それは、もちろんよ」

「それはそうだな。私達は最善を尽くした積もりだ」

「しかし、現実には味方は増えておりません」

「でも今、父上が一所懸命に努力なさっている事は、レントも分かっているでしょう?」

「はい。しかし父上と同じ様に、コードナ侯爵閣下もコーハナル侯爵閣下も、努力をなさっていると思います。あちらにとっては良い状況にも関わらず、それに慢心する事なくです。その為に、我がコーカデス家の味方は減りこそすれ、増やす事は出来ていないのです」


 レントの言葉にリートもセリも、反論を返せなかった。

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