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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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レントの帰領

 コーカデス伯爵領の領都邸にレントが帰り着くと、レントの祖父(そふ)リートと祖母(そぼ)セリがレントを出迎えた。


「レント!良く無事で!」


 抱き付こうとするセリをレントは()ける。


「え?レント?」


 レントを抱き締めようとしていた自分の腕で自分を抱いて、セリは見開いた目をレントに向けた。


「申し訳ありません、お祖母(ばあ)様。旅の汚れが酷いので、わたくしに触れられるとお祖母様のお召し物を汚してしまいます」


 レントの言葉に納得をしたセリは、顔に微笑みを浮かべる。


「まあ?構わないのに」

「そうもいかんだろう。お帰り、レント」


 セリの肩に手を掛けながら、リートはそう言った。


「はい。お祖父(じい)様、お祖母様。ただいま戻りました」


 そう答えるレントに、リートは満足げに肯く。一方セリは、眉を(ひそ)め、唇を少し尖らせた。


「王都まで馬に乗って行くなんて、もう心配で心配で、仕方なかったわ」

「ご心配をお掛けして、申し訳ありません。ですがお祖母様、わたくしはこの通り、何事もなく無事に戻って参りましたので、ご安心下さい」

「無事ではないでしょう?こんなに瘦せて」


 セリが手を伸ばして頬に触れる事はレントは避けずに許した。それほど瘦せてはいないし、さっきは無事でと言ってくれたのに、と思いながら。

 その様子を見ながらリートは言った。


「瘦せたのではなく、引き締まったのではないか?ほら?男前が上がっているだろう?」


 セリはリートを一睨みする。


「引き締まったと言うのは結局、瘦せたと言う事でしょう?食べ物や水が合わなかったりしたのではなくて?」


 レントを振り向いて、セリはそう続けた。


「いいえ。その様な事はありません。旅の間の体調は良く、一切問題がありませんでした」

「でも、体調が良いのに瘦せるって、却って何かの病気だったりしない?」


 セリの心配そうな表情に眉根を寄せるレントを見て、リートは小さく溜め息を吐いた。


「セリ、心配し過ぎだ」

「心配なんていくらしたってし足りないわ。やっぱり私も付いて行ったら良かった」


 両手でレントの両頬を挟みながら、セリはそう言う。

 レントもリートもなんと返せば良いのか、直ぐには言葉が出なかった。


 セリが付いて行けば騎馬での移動は不可能となり、馬車での旅程となる。そしてセリの為の侍女達も、一緒に連れて行かなくてはならない。王都までの日数が掛かる上に、一日当たりに掛かる費用も跳ね上がる。

 コーカデス伯爵家としては、今回のサニン王子の友達を探す会にレントを出席させる為に、それだけの金を掛ける事は出来なかった。それなので、馬車での旅もセリの同行も、検討対象にさえされてはいなかった。


「我が家だけではなく、他家も保護者は同行していなかった様に思えます」


 調べてはいないけれど、レントは思い付きでそう言った。


「そうなの?」

「はい」


 そう答えて、レントは力強く肯く。リートも肯いて、レントの言葉を助ける。


「それならセリが付いて行っていたら、レントは恥を掻いたかも知れんな」

「そうですね」

「でも、レントは特別なのだから」


 セリの声は少し小さくなっていた。


「お祖母様。わたくしが王都に行く為に保護者の同伴を必要としたなら、我がコーカデス家も侮られたかも知れません」

「何を言っているのです。私が一緒なら、そんな事はさせません」


 レントは言葉を間違えたと思った。セリの声量が上がっている。家より自分の事で攻めるべきだったとレントは思う。

 しかしセリの言葉にリートは首を振る。


「レントが独り立ちしたら、我々は付いて歩く訳にはいかん」

「だからこそ、今は付いていなければならないのでしょう?」


 リートは「いいや」と口にしながら、再度首を振った。


「だからこそだ。我々が付いていれば言葉には出さないかも知れん。しかしその裏で、レントの評価は下がるだろう。そして我々がいない所で、その下がった評価が使われるではないか」

「それは、そうだけれど」


 リートはセリの肩を引きながら覗き込む様にして、セリの視線を自分に向けた。


「セリは、レントが少し大人びて帰って来て、寂しいのだろう?」

「そんな事はないわよ」


 リートはセリの肩を戻し、微笑みを浮かべた顔をレントに向けた。


「それなら良いが、レントはこれからも日々、大人になっていくからな?我々はそれを喜んで見届けねばならん」

「それは分かっているわ」


 セリの眉間に皺が出来る。


「なら、このレントの変化も喜んでやれ。我々が付いていっていたら、この様には男っ振りが上がってなかったかも知れんからな?」

「確かにそう言う事も、あるかも知れないけれど」

「レントのこの感じ、セリの好きなタイプだろう?」


 リートの発言に、セリは少し早口になって返した。


「そうだけど、そんな事は言わないでちょうだい。どんなレントでも、私の大切な孫よ」

「そうだな。我々の大切な孫だ」


 そう言うとリートはレントの頭を撫でた。


 レントは、髪も大分汚れているのに、とか、大人びて帰って来たと言う割に頭を撫でるのは子供扱いなのでは?とかの思いが浮かんだけれど、抱き付かれたり抱き上げられたりよりはマシですね、と思い直して、大人しく二人がやりたいようにさせた。

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