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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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なりたいかも

 ミリの祖母(そぼ)ユーレは、ふと思い付いてミリに尋ねた。


「ミリ?」

「なに?お祖母(ばあ)ちゃん?」

「もしかして、船の上で商売する積もり?」

「船?なんで?」

「だって港町によく行っているでしょう?船員達とも仲が良いし、他国の言葉もよく知ってるし」

「ううん。お父様が私を働かせる気はないって言ったでしょう?船での商売もやらないよ?」

「そう。それなら良いけど」

「良いけど?船はダメなの?」

「ダメじゃないけど、船での商売は難しいから」

「そうなの?なんで?」

「商品を持ち込むなら重さや大きさの制限があるし、運賃も取られる筈。それに必需品は船主が船員に提供するから売れる物も限られるし、品切れしても海の上では仕入れが出来ないし」

「そうか。そうだね」

「商売じゃなくても、他の国に行っちゃったりもしない?」

「旅行じゃなくて、他の国で暮らすって事?」

「ええ」

「訊いてないけど、それもお父様が許さないと思うよ?」

「そう?そうね。バル様は許さないか」


 ユーレは納得して、小さく肯いた。

 ミリにミリの曾祖母(そうそぼ)フェリが話し掛ける。


「ミリ」

「なに?(ひい)祖母(ばあ)ちゃん?」

「理由はともかく、商人になる気は無いんだね?」

「うん」

「じゃあ、商人になる為の勉強も()めるかい?」

「え?祖母(ばあ)さん?」

「正気かよ?祖母さん?」


 ミリの伯父のワールとヤールがフェリに向けて言った。


「止めたら、ここまでミリが学んだ事が無駄になるじゃないか?」

「そうだよ。それにミリがソウサ商会にもう、顔を出さなくなっちゃうって事だろう?」

「ワールもヤールもうるさいよ。ミリの時間だ。どう使うかはミリが決めりゃあ良いんだ。今までやってた帳票付けだって、きっとどっかで何かの役に立つだろうさ。なんにも無駄になんてなんないよ」

「そうだけど」

「そりゃそうだけどさ」

「それでミリ?どうする?止めるんで良いかい?」

「少し、考えさせて」

「構わないよ。ミリの時間だ。好きなだけ考えな。だけどお前は、これから忙しくなるんじゃないのかい?曾祖父(ひいじい)さん達の資料を読んだりもしなくちゃなんだろう?」

「うん。そうなんだけど」


 言葉を濁すミリに、今度はミリの祖父(そふ)ダンが話し掛ける。


「ミリ?」

「うん?お祖父(じい)ちゃん、なに?」

「しばらく休んで、時間が出来たら勉強再開でも良いんだよ?」


 ダンの言葉にワールとヤールが肯く。


「確かにそうだな」

「ああ、ホントに。ミリ?そうしろよ?」

「一旦休みにして、そうするかどうかも、後から考えても良いから。考えた結果、止める事になっても良いし」


 ソウサ商会での帳票付けを止めると、ミリは脱走して空き地で子供達と遊ぶのは不可能になる。


「取り敢えず、一旦休みにして、時間が出来た時にやらせて貰うんでも良い?」

「やる時は予め連絡寄越すなら構わないよ。好きにしな」

「うん」


 ミリは空き地で遊ぶ為の代替手段を思い付くまで、帳票付けを保険に取って置く事にした。


「ミリ?」

「なに?お祖母ちゃん?」

「商人にならない、結婚もしない。それで貴族にもならないのよね?」

「うん」

「そうしたらミリは、何になるの?」

「確か、文官になりたいんだったよね?」

「え?文官?」


 口を挟んだダンの言葉に、ユーレが驚く。


「ミリがなりたいの、商人じゃなかったの?」

「文官になろうとは思ってた。でも結局、お父様は私が働くのは許さないから」

「でも、ミリがやりたいなら、応援するよ?」


 ダンの言葉にワールとヤールも肯いて続けた。


「そうだぞミリ?応援だけじゃなく、手伝ったりも出来るぞ?」

「そうそう。バルの説得が必要なら任せとけ」

「うん。ありがとう」

「ミリ」

「なに?曾お祖母ちゃん?」

「文官には、なりたかったんかい?それとも結婚しないなら仕事をしなけりゃだから、仕方なく選んでたのかい?」

「そうなのか?ミリ?」

「だったら、商人でも良いじゃないか?ミリ?」

「仕方なくじゃないけど」

「それでもあんたは、商人を選ばなかったんだね?」

「うん」

「なんでだよ?ミリ?」

「うるさいよ、ヤール。ミリ?やりたい事が出来たら教えな。商人じゃなくても文官じゃなくても、私達が助けてやれる事もあるかも知んない」

「そうだぞ、ミリ?」

「そうだね。商人以外でも、相談には乗れると思うよ?」

「なんでも?」

「もしかして、何かあるのかい?」

「あるのか?あるなら教えてみろよ?ミリ?」


 みんなの視線を受けて、ミリは身動ぎした。


「あの」

「うんうん」

「さっき」

「うん」

「少し思ったんだけど」

「うんうん」

「うるさいって、ヤール」

「ミリが言い(づら)そうだから、話し易い様に合いの手を入れただけだろう?」

「却って話し(にく)いよ。ほら、ミリ、続けて」

「うん。単なる思い付きなんだけど、お医者さんになるのって難しい?」

「医者かぁ」

「医者になるのは金が掛かるって聞くな」

「そうね。弟子にして貰うのに、かなり支払うって言うものね」

「そうなの?」

「なりたいなら費用は出してあげるよ?」

「待ちなよ、ダン。ミリ?なんで医者になりたいんだい?」

(ひい)祖父(じい)ちゃん達が亡くなった流行病の時に、お医者さんが足りなかったんでしょ?」

「そうだね」

「ウチは金があったから、診て貰えたけど」

「まあ、それでも、祖父さんは死んじまったけどさ」

「そうだな。クスリも効かなかったしな」

「そうなんだ。お医者さんが足りなかったのかと思ったんだけど、いてもダメだったのね」

「あと、女の人は医者になれないんじゃないの?」

「確かに聞いた事がないよな」

「結婚したら辞めなくちゃだからじゃないのか?」

「それだと掛かった費用が回収出来ないだろうね」

「そんなな関係ないよ。ミリ?やりたいなら手伝うよ?」

「いや、俺だって手伝うよ?」

「そうだな。女性で最初の医者になるなんて、良いんじゃないか?」

「可愛い医者なら、患者も集まりそうだよね」

「費用の回収も早そうだ」

「不埒な患者は追い返すけどな」


 ヤールの言葉にダンとワールはうんうんと肯き、それをフェリとユーレは呆れた表情で見ていた。


 ミリは思い付きで口にしたのだけれど、医者は良いかも、と思う。

 特に船医なら他の国にも行けて楽しそうだな、と考えたら、ミリの気持ちは浮き立った。

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