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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
187/645

普通

 ミリの曾祖母(そうそぼ)フェリは、仕切り直す。


「ミリ。やる気とか誠実さとかも商売には必要だけど、それも才能って言えば才能だし、目利きも才能じゃないって言えば才能じゃない」

「どう言う事?」


 ミリはフェリが結局何を言いたいのか、良く掴めなかった。

 ミリの母ラーラがフェリの事を評して、よく「言いたがりぃ」と言っている事をミリは思い出す。


「必要としてる人に、必要な物を売る。商売に必要なのはそれだけさ」


 ミリには必要なものがそれだけとも思えない。もしそれが本当なら、ソウサ商会で自分が普段している勉強は一体何なのだ、とミリは思う。

 しかし今はまず、才能の話だ。


「じゃあ才能は何に使うの?」

「才能があれば店を大きく出来たりもするけど、それよりは、より多くの人に必要な物を売ったり、より多くの種類を売ったりする事が、商売の才能の本質だね。後は商品を求められた時に、どれだけ早く用意出来るかとかにも才能が影響する」

「やっぱり、才能が必要なんでしょ?そうじゃなきゃ、淘汰されちゃうんじゃない?」


 ミリは経営の勉強で、経営破綻とそれにいたるまでの経緯に付いても学んでいた。実際に潰れた店を見た事はないけれど。


「そんな事はないよ」

「そんな事ないって、ソウサ商会の様な大きな店を取り仕切っている、才能がある人達に言われても、説得力がないよ」


 フェリは言葉に詰まった。過去にも同じ様な事を言われた覚えがある。

 そしてフェリが思い出すのは、相手が怒り出すか会話を諦めるか、あるいは自分の方がそうしてしまったかの状況ばかりで、上手く伝えられた記憶はなかった。

 その隙にミリの伯父ヤールが口を挟む。


「ミリ?」

「なに?ヤール伯父ちゃん?」

「才能があるとか言ったって、ここにいるソウサの人間はみんな、結局は普通だろ?」

「普通って?」


 普通とは?

 ミリは哲学を論じる心積もりをした。


「普通にメシ食って普通に寝て起きて、普通に仕事してるだけだ」

「普通ってなに?」


 しかしヤールは、そんなミリの肩を透かす。


「え?ミリだって他の人と同じ様に、やってるだろう?みんながやってて、自分もやってる事の事だよ。ミリはまだ子供だから、仕事じゃなくて、遊びだな。あ、あと勉強」


 勉強はそんな、序でに思い出した様に言われる程しかやってない訳じゃない、とミリは思った。子供の仕事は勉強だと言われたら、これくらい仕方ないのかも知れないけれど。

 でも遊び?自分が認識している遊びって、ソウサ商会から脱走して空き地でみんなと遊ぶ事だけだけど?

 しかしそれをバラしてしまうのは拙いので、ミリは会話を続ける事にした。ヤールなら脱走自体が遊びだとか言いそうだ、と思いながら。


「ソウサ商会の仕事は普通なの?」

「普通だよ。普通だろ?」

「普通じゃないよ。規模がかなり大きいじゃない」

「いや。さっき祖母(ばあ)さんが言った通り、欲しがってる人に商品を買って貰う。その為の商品を仕入れて運ぶ。商人としたらごく普通さ」

「そうだな」


 ミリのもう一人の伯父ワールが、ヤールの言葉に肯いた。フェリも同意する。


「ヤールにしては、まともな事を言うじゃないか」

「してはって何だよ?」

「そうだね」


 ミリの祖父ダンも同意した。


「そうだね?そうだねって、父さん、どこを言ってるんだ?」

「ヤールにしてはまともな事を言ったなってとこだね」

「そっちかよ。分かってたよ」

「だけど、そもそもミリに確認したいのは、違う事だった気がするけど」

「どう言う意味だい?ダン?」


 フェリの視線を受け流して、ダンはミリを見た。


「ミリ?」

「なに?お祖父ちゃん?」

「ミリは商人にはならないんだね?」

「うん」


 ミリはハッキリと肯いた。


「そうか」

「父さん。そうかじゃないだろう?」


 ワールの言葉にダンは「いや」と首を振る。


「ミリに才能があろうがなかろうが、ミリが商売を好きだろうが楽しく感じようが、ミリが商人にならないなら関係無いじゃないか」

「でも、そんなの、もったいないじゃない?」


 ミリの祖母(そぼ)ユーレの意見にヤールも肯く。


「そうだよ。ミリ?バルが商人になるのを反対してるんじゃないのか?もしそうならおれがバルを説得して、ミリを商人にしてやるから諦めるなよ」

「お父様は確かに反対してるけど」

「え?ホントに反対してんのか?」


 自分で言って置きながら、ミリが肯定したのでヤールは驚いた。


「お父様は、私には仕事をさせないって言ってる」

「仕事なんてしないで貴族に嫁げって、バルは言ってんのかい?」


 フェリの質問にミリは「ううん」と首を振る。

 それを見てワールが「そうだよな」と肯いた。


「バルはミリを嫁に出さないって、ずっと言ってるもんな」

「嫁に出さないって言うか、ミリを結婚させないってバル様は言ってるわよね?婿取りもダメなんでしょ?」


 ユーレが厳しい表情を見せる。ヤールも顔を蹙めた。


「可愛いラーラの娘のミリが、こんなにも可愛いんだから、ミリの娘もきっと可愛いのに間違いないのにな」

「ホントだよな。バルはその辺、分かって無いんじゃないか?」


 そう言うワールに合わせて、ヤールもうんうんと肯く。

 そこへダンが「でも」と口を挟む。


「結婚しなくても、子供は出来るからね」

「ダン!」

「バカ言ってんじゃないよ」


 ダンの言葉をユーレとフェリが責めた。


「そうよダン!曾孫が抱きたいからって、ミリの人生を狂わす様な事、間違っても口にしないでちょうだい!」

「いや、可能性の話で」

「言い訳すんじゃないよ」

「そうよ!間違っても口に!しないでちょうだい!」

「はぁ、分かったよ」


 フェリとユーレの言葉に、ダンは肩を竦める。

 ワールとヤールはダンを援護する事なく、口を閉じていた。

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