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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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出来る人、出来ない人

 ミリの曾祖母フェリが、ミリに向けて話す。


「私はね、ミリ。好きで商人になった訳じゃないんだ」

「え?そうなの?」


 ミリだけではなく、ミリの二人の伯父、ワールとヤールも驚いていた。

 ミリの祖父母は知っていた様で、祖父ダンは特に表情を変えず、祖母ユーレは少し困った様な顔をしている。


「ああ。商人になったのは成り行きで、曾祖父(ひいじい)さんと出会ってからだしね」

「そうなの?(ひい)祖父(じい)ちゃんはその頃もう、商人だったの?」

「そうだね。ソウサ商会は昔からあったろう?」


 フェリに言われてミリは、ソウサ商会の歴史を思い出す。その中にはミリの亡くなった曾祖父(そうそふ)ゴバも出て来ていた。


「あ、そうだったよね。それなら曾お祖母ちゃんは、その前は何をしてたの?」


 フェリが学校に通っていたとは、ミリは聞いた事がない。

 さきほどフェリにも美少女だった時代があったと聞いたけれど、ミリは今のフェリから学生の頃の姿を想像出来なかった。


「私は金具職人のところで、仕上げ磨きの下働きをしてたんだ」

「働いてたの?」

「ああ。今のミリくらいの時にはもう、働いてたからね」

「凄いね」

「食べる為だよ。その仕事だって食べる為。好きでやってた訳じゃないさ。村で私が選べた他の仕事も、似たり寄ったりだ。だから家から一番近い職人の所に勤めただけさ」

「そうなの?それで?曾お祖母ちゃんの勤め先とソウサ商会が取引してたの?」

「当時はね。今はもうとっくになくなっちまってるけど」

「そこで曾お祖父ちゃんと出会って、仲良くなったんだね?」

「出会ったは出会ったよ」

「両思いだったの?一目惚れ?」

「まさか。出会いはしたけど、そんな訳あるかい。そこじゃあ()い加減な仕事をするヤツがデカい顔をしてて、曾祖父(ひいじい)さんはそいつの作った物を言い値で買い取る様なマヌケだったんだ」

「え?曾お祖父ちゃん、目利きが出来なかったの?」

「全然だ。なってなかったよ。だから腹が立って、曾祖父さんに文句を言ったんだよ。ちゃんとしたヤツを買えって。少なくともちゃんと見てから買えってね」

「それで曾お祖父ちゃんは?ちゃんと見る様になったの?」

「いや、全然。どこをみたら良いのか分かんない様だったから、ざっくりとは教えたんだけど、ダメだったね」


 普段のフェリの教え方は、かなりザックリとしているとミリは思っていた。そのフェリが言うザックリとは、どれ程のものか分からないとミリは思う。


「それで曾お祖母ちゃんの目に曾お祖父ちゃんが惚れたの?」

「そうじゃないよ。文句を言った所為で職場をクビになって、家からも追い出されちまったんだ。職場と実家は近所付き合いがあったからね。それで曾祖父さんに責任取れって言ったのさ」

「それで結婚?」

「そんな直ぐに、なる訳ないだろう?王都に連れて行って仕事を紹介しろって曾祖父さんに言って、王都に来るまでにも曾祖父さんに教えながら、代わりに目利きをしてやって、それで当時の商会長、お前の曾々々祖母(ひいひいひいばあ)さんに私の目を買われて、職人のとこじゃなくてソウサ商会に勤める事になって、それで先ず仕入れを手伝わされたのさ。商人としての勉強はそれからだよ」

「え?それじゃあ帳簿をパッと見て、不備を見付けられる様になったのは?どれくらい掛かった?」

「そんなな直ぐだよ」

「え?」


 フェリのここまでの話から、商人になるのに苦労した、と言う結論なのかとミリは思っていた。


「えってなんだい?目利きと一緒だろう?変な所があれば、そこだけ目立つじゃないか」

「お義母(かあ)さん。そんな訳ないから」


 ミリの祖母ユーレが口を挟む。


「ユーレは目利きの様なざっくりした事が苦手だから、そう思うんだよ。ミリくらい出来てたら、帳簿の間違いが分かんない方がおかしい」

「違うわよ、お義母さん。それはそれ、これはこれだって」

「何言ってんだい。ミリが帳簿の見分けが苦手なのは、まだ数を熟してないからだ。ウチの子達みたいに毎日一日中やってりゃ直ぐさ」

「そうじゃないわよ、お義母さん。ダンにしろ子供達にしろ、出来る方がおかしいからね?」

「子供達が出来るんだ。ミリが出来ない方がおかしいだろう?」

祖母(ばあ)さん。出来たら行商に連れてってやるって言われたから、それこそ必死で俺は練習したぜ?」


 今度はヤールが口を挟んだ。ワールも肯きながら口を開く。


「そうだな。兄さんが簡単にやってたから、出来るもんだとは思ってたけど、結構苦労した気がする」

「ワール兄さんはまだ良いよ。俺なんか練習始めた時にはもう、ザール兄さんは完璧に出来てて、なんで出来ないんだって、心底不思議そうな顔をされたからな?」

「ああ、そうだったかもな」

「だからラーラが練習始めた時には、ザール兄さんの暴言から守ってやる積もりだったのに」

「ラーラ?そう言えば、ラーラはいつ練習してたんだ?」

「始めたのはかなり遅かったよ。ずっとガロン達と暮らしてたから」

「ああ。俺達が嫌われてたあたりか?」

「そう。それでラーラを助けて好感度を上げようと思ったら、なんか、いつの間にか計算も帳簿付けも覚え終わってて、行商に行き始めてたし」

「そうだったかもな。ラーラは行商もガロン達と一緒だったから、いつのまにか始めてた気がするし、その辺りは良く覚えてないな」


 うんうんと肯くワールとヤールを見て、ミリが疑問の声を上げる。


「つまり、普通はあんな一瞬で、帳簿の確認なんて出来ないって事?」

「何言ってんだい」

「う~ん、普通は出来るんじゃないかな?」

「まあ、少しやれば出来るな」

「いやいや、ご褒美がなければ出来ないって」


 出来る四人の意見を聞いて眉根が寄ったミリが最後にユーレを見ると、ユーレも眉間に皺を寄せてミリを見ていた。

 ミリと目が合うとユーレは困った表情を浮かべてから目を閉じて、首を小さく左右に何度も振った。

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