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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ソウサ邸での昼食

 午前中の仕事を終えたミリの祖母ユーレと、かなり仕事を前倒して片付けて来たミリの伯父ヤールもソウサ邸に戻り、ミリ達と合流しての昼食となった。


 ユーレが皆に尋ねる。


「ミリが商人にならないって話は、もうしちゃった?」

「え?なんで?どう言う事?」


 ユーレの質問にヤールが慌てる。

 それに対してミリの祖父ダンが、ユーレの質問にだけ答えた。


「いや、まだだよ。一緒に聞きたいだろうと思って、話題にしてなかったから」

「そうなのね?ありがとう。じゃあ今訊いて良い?ミリ?」

「うん、お祖母(ばあ)ちゃん。商人にならない理由?」

「ええ。ソウサ商会に迷惑が掛かるからって聞いたけど、そうなの?」

「それはなくもないけど、商人になって私に何が出来るかを考えたら、私じゃないと出来ない事は特になくて、それだとやってもやらなくても一緒だから、やらない方が良いかなって」


 質問をしたユーレは、想定と全然違うミリの答に言葉を詰まらせる。

 代わりに口を開いたのはミリのもう一人の伯父ワールだ。


「ミリは商売は好きじゃないのか?」

「そうだよ。行商、楽しかったんじゃないのか?」


 ワールの質問にヤールが被せた。


「楽しかったし好きだよ?」

「そうだよな」

「じゃあなんでさ?」

「好きなだけじゃ、商売は出来ないでしょ?」


 もっともなミリの答に、ワールもヤールもまた、言葉を継げなかった。

 代わりにダンがミリに尋ねる。


「行商だけではなく、好きは好んだね?」

「商売自体?」

「ああ」

「うん」


 ミリの返事に、ユーレとワールとヤールがホッと息を吐いて肩の力を抜いた。


「そう。好きは好きなのね」

「それなら良かった」

「でも、行商であれだけ売り上げたのに、商人にならないのか?」

「でも、利益はほとんど出せなかったし」

「日帰りは効率が悪いからな」

「護衛費も経費計上したんだろう?」

「薄利で多売を狙ったのよね?」

「うん。馬車に積めるだけ積んで、半日で売り切れる様に」


 ユーレとワールとヤールは、今度は揃って溜め息を小さく漏らす。


「なんでミリは商人を目指さないんだ?」

「好きだと言うし、考えもしっかりしているから、向いてると思うけど?」

「他になりたいものがあるのか?」

「貴族として生きるのかい?」


 その言葉を言ったダンを三人が振り向いた。そして直ぐに三人は、ミリを振り向き直す。


「そうなの?ミリ?」

「貴族になっちゃうのか?」

「なっちゃうって、ミリは今も貴族だろ?でも、もしかして、縁談があったのか?」

「縁談はあったけど」

「なに?!」

「本当か?!」

「どちらの(かた)となの?!」


 立ち上がってテーブルに手を突いて、乗りださん程の三人の勢いに、反射的に体を引きながら、ミリは答える。


「パサンドさんからだけど」

「なんだ」

「あの件か」

「ビックリしたわ」


 三人はまたホッと肩の力を抜いて、椅子に座り直した。


「その話もあったな」

「忘れてたよ」

「貴族の(かた)からは縁談が来てないのね?」

「うん。他には聞いてない」


 三人が取り敢えず落ち着いたのを見て、ダンが言った。


「それで?ミリは大人になっても、貴族として生きるのかい?」

「ううん。私が貴族で居続けるには、貴族と結婚しなくちゃだから、それは無理でしょう?」

「無理って、なぜだい?」

「だって、私には貴族の血が流れてないから」

「ラーラにも貴族の血は流れてないけど、バルさんの奧さんになったよ?」

「それは知ってるけど、お父様とお母様は例外でしょ?」

「まあ、そうだね」


 それらの遣り取りに、ミリの曾祖母(そうそぼ)フェリが「血筋じゃないよね?」と呟く。


「血筋?(ひい)祖母(ばあ)ちゃん、何の事?」

「あんたの母さんも、同じ様な事を言ってたからね」

「なんて言ってたの?」

「バルと結婚できないとかなんとかさ」

「え?お母様がごねた話?私、そんな事言った?」

「貴族の血が流れてないから貴族になれないとか、好きなだけじゃ商人になれないとか」

「だってそうでしょ?」

「じゃあミリ、お前は、何ならなれんだい?」


 フェリの問いに、ミリは咄嗟に答を返せない。


「ミリ。私はこの歳まで、自分が商人だと思ってたけど、お前から見るとどうだい?違うかい?」

「え?そんな事ない。私から見ても誰から見ても、曾お祖母ちゃんは立派な商人だよ?」

「それは私が商人の資格を持ってるって事かい?」

「資格って言うか、だって曾お祖母ちゃんは商人なんでしょう?」

「だからお前のその判断は、何を根拠にしてるかって事だよ。私が訊きたいのは」

「だって、曾お祖母ちゃんには経験も実績もあるし」

「根拠を訊いてんだよ。商人でなけりゃ、商人としての経験も実績も積めないだろ?じゃあ私にはどんな資格があって、商人なんだい?」

「だって、実際、現に商人だし」

「ミリ、お前、私が生まれた時から、婆さんだったとは思ってないよね?」

「え?なんで?」

「なんでって、ミリだって生まれた時から、今の大きさじゃなかったんだよ?最初は赤ん坊で、大きくなって今みたいになって、やがてラーラの様になってユーレの様になって、いつか私みたいになるんだよ」

祖母(ばあ)さんみたいはねえよ」

「うるさいよ、ヤール」

「私はそうだけど、曾お祖母ちゃんも?」

「当たり前じゃないか。私だって生まれた時は赤ん坊だし、ミリくらいの美少女だった事だってあんだよ。周りからも可愛がられたもんさ」

「そんな訳、ないだろう?」

「聞こえてるよ、ヤール」


 ヤールの呟きを拾って、フェリは睨む。

 ミリは気を逸らして、「ミリくらいの美少女」が自分への褒め言葉に当たるのかどうか、悩んでいた。

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