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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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三種類目の資料

 自分の寝室にミリ達を連れて入ると、ミリの曾祖母フェリはその奥にある扉に鍵を差して開けた。


「私一人だからこんな広い寝室は要らないんだけど、この続き部屋があるんで使い続けてたんだよ」

「え?この部屋に祖父(じい)さんとの思い出があるからじゃないのか?」


 フェリの言葉にミリの伯父ワールが疑問を投げ掛ける。


「思い出って言っても、この部屋を使い始めたのはソウサ商会の実権をダンに渡してからじゃないか」

「そうだっけ?」


 首を傾げるワールに、ミリの祖父ダンが肯く。


「父さんは廊下から隣の部屋への出入りを出来なくして、わざわざこの扉を作らせていたよね」


 ミリが奥の部屋の中を覗くと、書棚に資料が並んでいるのが見える。


「さあ、お前達。先ずは掃除からだよ」


 三人は反射的に半歩下がったけれど、フェリに奥の部屋に押し込まれた。



 掃除が済んで、休憩にお茶を飲みながら、ミリがフェリに尋ねる。


(ひい)祖母(ばあ)ちゃん。この部屋は何なの?」

「お前の曾祖父(ひいじい)さんが使っていた部屋さ」


 そう言うとフェリは鍵を二つ、テーブルの上に出してミリの前に置いた。


「私の寝室とこの部屋の鍵だ。ミリにやるから好きに使いな」

「もしかして書棚にある資料、(ひい)祖父(じい)ちゃんが私に遺したの?」

「ああ、そうだよ」

「何かの調査資料?」

「お金や物の流れらしいけれど、詳しい事は自分で確かめな」

「何の為?」

「それも自分で確かめたら良いさ」


 ミリは書棚を見渡しながら「う~ん」と唸る。


「昨日コーハナル侯爵邸で、コーハナルのお養祖父様(じいさま)の遺した資料を見せられて、一昨日はコードナ侯爵邸で、コードナの(ひい)祖父様(じいさま)の遺した資料を頂いたんだけど」

「あのお二方(ふたかた)もミリ宛てに?」


 ダンがミリに確認の言葉を向ける。


「うん」


 肯くミリの様子を見て、ワールも肯いた。


「ゴバ様とルーゾ様とウチの祖父さんは、仲良かったからな」

「そうだな。示し合わせていたのかも知れないね」

「いくら仲良いからって、ホントに示し合わせたみたいに、同時期に次々と亡くなる事はないんだよ」

「それは祖母(ばあ)さん、流行病だったんだから、仕方ないじゃないか」

「そうだな。あれでは年配の人が何人も亡くなったからね」

「三人とも、同じ病気だったの?」

「そうだよ、ミリ。前の国王陛下もだし、多くの平民も同じ流行病で亡くなったんだ。知らなかったかい?」

「ううん。流行病の事は習ったけど、曾お祖父ちゃんもそれに(かか)ったのは知らなかったから」

「そうか」

「大勢罹ったよな。でも亡くなったのは年寄りばかりだったけど」

「私が知ってるのは、不思議と男ばかりだ。私やコードナのデドラ様やコーハナルのピナ様は症状が軽かったってぇのに」

「他国からの感染経路が疑われたけど、若いやつらは少し咳が出るとか喉が痛いとかくらいだったから、普通の風邪と区別付かなかったよね」

「港町付近は、たまに変な病気が流行るしな」

「ミリ?」

「なに?お祖父ちゃん?」

「外から帰ってから、うがいや手洗いはちゃんとやってるかい?」

「うん。忘れずにやってるよ」

「そうか。偉いな」


 そう言ってダンは手を伸ばし、ミリの頭を撫でた。


「ミリ?」

「なに?ワール伯父ちゃん?」

「特に港町から帰ったら、直ぐに風呂に入って、体の汚れを落とすんだぞ?」

「うん。ちゃんとそうしてるよ?」

「そうか。偉いぞ」


 ワールもテーブルの向かい側から手を伸ばして、ミリの頭を撫でる。


「ミリ」

「なに?曾お祖母ちゃん?」

「私が死んだら、寝室とこの部屋、お前にやるから、好きにしな」

「え?そんな事、言わないでよ」

「直ぐに死にゃあしないよ。いつかの話だ。ダンもその積もりでいな」

「良いけど、部屋を貰っても、ミリが困るんじゃないか?中身だけ渡せば良いのに」

「要らなきゃダンにでもザールにでも返しゃ良いのさ。それをミリが選べるのが大切なんだよ」

「はいはい」

「それまでだって、ミリの好きに使って良い。だから鍵を渡したんだからね?」

「うん」


 ミリはテーブルの上の二つの鍵に、両方の手で触れた。


「祖母さん?もしかして、ミリに泊まりに来て貰おうとしてるのか?」

「なるほど!それが母さんの狙いか」


 ワールの言葉にダンは手を叩いた。


「アホ言ってんじゃないよ」

「でも、ミリが泊まりに来たら、祖母さんだって嬉しいだろう?」

「だったらなんだってんだい」

「そう言えばミリ?バルさんとラーラとは、別の部屋でミリは寝始めたんだって?」

「え?そうなのか?ミリ?」

「あ、うん」

「ミリがどこで寝ようが、構わないじゃないか。やいのやいの言うんじゃないよ」

「ミリ。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの部屋に泊まりに来ても良いからね?」

「俺の所も良いぞ?」

「いや。ワールやヤールの家は、警備上や教育上の問題があるからダメだな」

「この邸の部屋を使えば問題ないだろう?」

「それなら私達の部屋で良いじゃないか?わざわざワールの部屋を使わなくても」

「父さんと母さんと三人だと、ミリには窮屈さ」

「この邸のワールのベッドだって、ミリと寝るには窮屈だろう?ワール一人でもベッドが狭いって、文句を言ってたじゃないか?」

「それならベッドを買い換えるから、大丈夫だ」

「それを言ったら私と母さんのベッドも買い換えるさ」


 ダンとワールが言い合うの姿をミリは、眉根を寄せて見ていた。

 その様子を見て、フェリがミリに告げる。


「ミリ。ダンの所もワールの所も、どっちかに泊まるともう一方も泊まらなければならなくなるよ」

「うん」

「ヤールも泊めたがるだろうし、ザールとカンナだって帰って来たら同じさ」

「うん」

「だから、泊まんなら、私のとこだけにしときな」

「ちょっと、祖母さん!」

「いや、母さん」

「うん、そうする。曾お祖母ちゃんのベッドは広いし、直ぐ隣はこの部屋だから」

「ちょっと、ミリ!」

「そんな、ミリ」

「泊まるとしたらね?泊まらないかも知れないからね?」

「いや、泊まれよ、ミリ」

「そうだよ、ミリ」

「男は口出すんじゃないよ。女は女同士だ。そうだろう?」

「そうだね、曾お祖母ちゃん」


 普段、ソウサ家の男性達のミリへの態度を冷ややかに、フェリは見ている。

 しかし、ラーラとたわいもないお喋りをしたり、構ったりしたいのは、フェリも一緒だった。

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