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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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朝のソウサ邸で

 ミリがソウサ邸の玄関先で馬を降りると、ソウサ家の男性達が出迎えた。

 先ずはミリの祖父ダンが腕を広げて近付いて、ミリを抱き締める。


「良く来たな、ミリ」

「おはよう、お祖父ちゃん。今朝はどうしたの?みんなも」


 そのミリの言葉に、ミリの伯父ワールが答えた。


「ミリが父親の事を知ったと聞いて、本当はミリの家を訪ねようかと思っていたんだ。ほら、父さん、いつまでも抱いてないで、ミリを貸して」

「いや、まだだ」

「いいから、ほら」

「そうだよ父さん。ミリも嫌がってるじゃないか」


 ミリのもう一人の伯父ヤールが口を挟んだ。


「なに?」

「嫌がってないよ、お祖父ちゃん。ヤール伯父ちゃん、変な事言わないで」

「そうだぞ、ヤール。ミリの言う通りだ。ほら父さんも、いい加減にミリを放せって。ほら、ミリ、おいで」

「うん、ワール伯父ちゃん」

「行っちゃうのか、ミリ?」

「よし、良く来たなミリ」


 そう言うとワールはミリを高く持ち上げた。


「うん。おはよう、ワール伯父ちゃん」


 ミリを持ち上げたまま、ワールはその場でクルクルと回り始める。


「ほら、次は俺だ。おいでミリ」

「うん、ヤール伯父ちゃん」


 ワールはミリをヤールの腕に渡した。


「ミリは会う度に美人になるな」


 ヤールのこれは、褒め言葉だ、とミリは考えた。


「ありがとう、ヤール伯父ちゃん」

「ほら、次は私だ」

「父さんは一番最初に抱いたろう?」


 ミリに付いて来たコードナ家の護衛女性達は、ミリを奪い合うソウサ家の男達を少し呆れて見ていた。気持ちは分からないでもないけれど。


「良いから、ミリを寄越せ。ほら、ミリ、おいで」

「あ、うん、お祖父ちゃん」

「このまま、運んでやろう」

「いや、父さん、それは狡い」

「父さんだと足下(あしもと)が危ない。ミリを抱いたまま転んだら大変だ。ほら、俺に寄越して」

「いや、ミリ、俺が運んでやるから、俺のとこにおいで」

「お前は今、抱いてたろう?父さんの次は俺の番だ」

「いいや、俺は直ぐに父さんにミリを取られたんだから、俺が抱いて連れて行く。こればかりはワール兄さんに譲れない」

「お前は大概の事を俺に譲らないじゃないか」

「だったらなおさら、ミリの事をワール兄さんに譲る訳ないだろう?」

「お前達、いつまで玄関でごちゃごちゃやってんだい」


 そう言いながらミリの曾祖母フェリが、玄関に姿を現した。


「でも、祖母(ばあ)さん」

「でもじゃないよ」

(ひい)祖母(おばあ)ちゃん、おはよう」

「ああ、おはよう、ミリ。ほら、ダン、早くミリを下ろしな」

「いや、私が連れて行く」

「良いから下ろしな。ほら寄越せ」


 そう言うとフェリは、ダンからミリを奪い取る。ワールとヤールは、ミリを抱いたままフェリが倒れないかと、二人の周りに腕を伸ばして不測の事態に備える。

 しかしフェリは、危なげなくミリを抱き抱えると、下に下ろした。


「ミリ」

「なに?」

「今日は帳簿付けは中止だ」

「うん」


 いつもならソウサ商会の王都本社で授業を受ける。それなのに今日はソウサ邸に来る様に言われたので、その時点でミリは帳簿付けは行わないと思っていた。

 今日は子供達が集まっている広場にも、脱走して向かうのは無理だろう。


「その代わり、少し話をするよ。お前達はどうする?」


 フェリはミリから視線を外して、男性達に顔を巡らせる。


「私は同席するよ」

「俺も同席する」

「俺も同席するけど、父さんもヤールも仕事は大丈夫なのか?」

「問題ないよ」

「俺も。午後頑張るから、問題ない」

「ダメだね。ヤールは仕事を片づけてから来な」

「え?なんで俺だけ?」

「ダンもワールも昨日のうちに仕事を前倒してんだよ。お前も少なくとも午前の分を済ませてから合流しな」

「じゃあ同席するかなんて、訊くなよ」

「ヤール伯父ちゃん、待ってるから、お仕事頑張って」

「ああ、分かった、ミリ。ミリが応援してくれたから、仕事が頑張れる。直ぐに終わらせるから、待っててくれ」

「うん」


 ミリに手を振りながら仕事に向かうヤールに、ミリも手を振り返した。

 そのヤールにフェリが言葉を投げる。


「ミリに応援されなくても、仕事は頑張んな」


 ヤールは変な顔を向けて来るけれど、ダンとワールはその通りだと思った。

 ミリもその通りだと思ってはいたけれど、それを態度には出さず、ヤールに笑顔を向け続けた。



 馬を預けると、護衛達はミリと別れて控室に向かう。

 ソウサ家の三人とミリが邸内を進むと、途中でミリの祖母ユーレと行き会った。


「ミリ」

「おはよう、お祖母(ばあ)ちゃん」


 ユーレはミリの傍に跪き、ミリの体を抱き寄せる。


「おはよう。色々大変だったね」


 ミリはユーレの言う大変が何の事を指すのか分からなかったけれど、色々と言うのだから普通とは違う事全般を示していると考えて、「うん」と答えた。


「これからミリと話すって言うけど、ユーレも来るかい?」


 ダンの言葉にユーレはチラリとミリとフェリを見てワールを見て、ダンに視線を戻して「ううん」と首を左右に振った。


「仕事を片付けてから、まだ話が続いていたら参加するかも」

「そうか」

「ミリ?今日はお昼、ここで食べるの?」

「え?どうだろう?どうするの、曾お祖母ちゃん?」

「そうだね。ミリもたまにはこの家で食べるか」

「うん。だって、お祖母ちゃん」

「じゃあ私も遅くてもお昼には帰って来るから、みんなで一緒に食べましょう。ね?お義母(かあ)さん?」

「ああ。じゃあユーレが帰って来るのを待ってから、昼にしよう。話はそんなに掛かんないけど、やる事は色々とあるし、それで良いね」


 その場で使用人を捕まえて昼食の指示をし始めたユーレを残して、四人は廊下を先に進んだ。

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