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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
181/647

宣告

 ミリはチリンに促されて、スディオの様子を窺いつつ、説明を続ける。


「貴族男性の場合は、サンプル数が少なくて、良く分かりません」

「そうなの?」

「はい」

「それなら平民の話で構いません。男性に一番愛されているのは、一番最後に愛した女性と言う事なのね?」

「そうとは限りません」

「あら?それってつまり、一番がいるのに、他の女性に乗り換える事があると言う意味かしら?」

「はい。一番の女性に振られて、次の女性と付き合う事がありますから」

「振られたらもう一番ではなくなると言う事ね?」

「そう言う事もあるかとは思いますけれど、一番の女性を愛したまま、次の女性と付き合う事の方が多いです」

「それは、次の女性は愛されないと言う事?」

「最初はそうですね。しかし、男性は過去に引き摺られますから、付き合っている内にその女性との間に歴史が出来て、いずれその女性を愛する様になる事があります」

「そうなって初めて、前の女性を忘れるのね」

「それが、そうとは限りません。男性は過去に縛られるので、今のパートナーを愛していても、前に愛した女性への思いは残り続けています。そして普段は仕舞われている思いが切っ掛け次第では復活し、今のパートナーを捨てて昔の女性と縒りを戻す事があります」

「その切っ掛けとはどの様な事かしら?」

「良くあるのは昔の女性が子供を連れて現れ、あなたの子よ、と言った場合とかですね」

「なるほど」

「いや、なるほどではないよ、チリン。ミリもちょっと待って。そんなの、良くはないでしょう?」

「スディオ、邪魔をしないでちょうだい」

「いや、子供に何の話をさせているのさ」

「何の話って、聞いていたでしょう?いま、大事な所なのだから。ミリちゃん?それで?」


 ミリはチラリとスディオの様子を見たけれど、そのまま続きを口にした。


「女性は常に、恋愛対象の男性を比較しています。意識していない事も多いと思いますけれど、特定のパートナーがいる場合でも、他の男性に乗り換えた方が良いか、未来に向けての比較をします」

「ええ」


 スディオが「ええって」と呟くけれど、チリンはそれをスルーして、ミリに「それで?」と先を促す。


「それに対して男性は、過去との比較をします。これまで付き合った相手だけではなく、付き合っていなくても好きだった相手と、いまの恋愛対象との比較です」

「え?それ、昔の女性の方が良いとなったら付き合わないって事かしら?」

「いいえ。男性は、子孫を残す為だったら、女性なら誰でも良いと言う面もありますので、昔の女性の方が良くても、手近な女性で良しとする事はあります」

「それはかなり、非道いのではない?」

「しかし、多くの子孫を残す為には、男性に取っては有効です。女性は妊娠したら、少なくとも出産までは子供に掛かり切りになります。けれど男性はその間に、他の女性を妊娠させる事も可能です。愛していないどころか初めて会った様な女性相手でも、男性は欲求解消が出来る事からこそ、風俗店が存在出来る訳ですので」

「いや、ちょっとミリ」

「スディオ、後にして下さい。ミリちゃん?男性が一度に愛せる女性は一人と言っていたけれど、つまり男性は、愛している女性がいても、愛していない女性と関係を持つの?」

「政略結婚の妻に隠れて愛人を持つ場合も、妻との間には跡取りを作ると思います」

「そうね。愛していない妻とも関係を持つけれど、愛しているのは愛人と言う訳ね」

「チリンさん」

「はい、お義祖母様(ばあさま)

「ミリ」

「はい、お養祖母様(ばあさま)

「ここまで来るとさすがに、今日のお茶会の話題には相応しくないのではありませんか?」

「申し訳ありません」

「そうですね。つい色々と尋ねてしまい、皆様を置き去りにしてしまいました。ミリちゃん?」

「はい、チリン姉様」

「今度また、時間を作って、続きを聞かせて貰えますか?」

「はい、チリン姉様」

「いや、チリン、続きって」

「スディオも一緒に聞きましょう」

「そんな、聞くのは怖いよ。チリンにだけ聞かせる方が怖いけれど」


 スディオは少し項垂れてそう言いながら、首を左右に振った。


 ピナは話題を変える。


「ミリ」

「はい、お養祖母様」

「あなたは学院では平民のクラスを選択すると聞いたのだけれど、本当ですか?」

「はい。文官になろうと思いましたので」

「あなたは結婚しないと決めているのですか?」

「してもしなくても良いなら、しないと思います」


 ピナはパノが結婚していない事を頭に思い浮かべていた。パノの影響でミリがそう答えたのか、ピナは確認したかった。


「それは、先ほど述べていたあなたの考えの影響ですか?」

「考えとは、男女の関係に関する考えに付いてを仰っていますか?」

「ええ」

「わたくしがどう思っていても、わたくしが結婚しないのとは関係ないかと思います」


 ミリの答からピナが受けた感触では、パノの影響ではなく、別の理由がある様に思えた。


「それなら、貴族子弟との縁談があったらどうします?」

「結婚します」

「貴族相手なら良いのね?」

「平民相手でも構いません。縁談が来たと言う事は、お父様が結婚を認めたと言う事ですから」

「バルさんが認めた相手となら結婚するの?」

「はい」

「ミリが結婚したくないと思った相手でも?」

「わたくしはお相手の方に、結婚したくないなどとは思いません」

「そう・・・そして、結婚したいとも思わないのね?」

「はい」


 そう返事をするミリをピナはしばらく見詰めた。


「ミリ」

「はい、お養祖母様」

「あなた、社交をなさい」

「社交と仰いましても、わたくしが参加出来る、先日のサニン殿下の懇親会の様な集まりは、しばらくはないかと」

「サニン殿下の誕生日の祝いがあるでしょう?」

「そうなのですね。パーティーを行うのでしょうか?」

「行われます。招待状は届いていないのですか?」

「はい。わたくしの手元には」

「バルさんは参加させない積もりかしら?ドレスやらなにやら、用意しないと間に合わないわよね?」


 着た事のないドレスをいくつも持っているので、特に用意はいらないな、とミリは考える。


「パノは何か聞いていますか?」

「コードナ家に招待状は届いていないと思います」

「そんな筈はないでしょう?」

「ですけれど長い間、バルさんとラーラ義叔母様(おばさま)は社交の場に姿を現していないので、招待状が送られて来る事は普段から滅多にありません」

「それはそうなのでしょうけれど・・・バルさんはミリをこのまま、社交界にデビューさせない積もりなのかしら?」

「バルさんはミリを結婚させないと公言をしていますので、社交界には出す積もりもないかと思います」

「そう・・・」


 ピナはしばらく思案を巡らせてから、ミリを見る。


「ミリの社交については、デドラさんと話してみます。ミリ」

「はい、お養祖母様」

「コードナ侯爵家の意向に因りますけれど、社交をする積もりでいなさい」

「はい」


 ミリの返事は若干低い声になった。


「どうしたの?気が乗らない?」

「どの様な事をすれば良いのか、イメージが湧きません」

「どの様な事も何も、我がコーハナル家で学んだ事をそのまま活かせば良いのです」

「はい」

「まだ、ピンと来ていない様ね」

「お義祖母様?最初は王族との昼餐会はどうですか?」


 チリンの発言にスディオが慌てる。


「え?いきなり王族を相手にするのは、ミリが可哀想ではないか?」

「最初に王族を相手にしておけば、後は誰を相手にするのでも、平気になるでしょう?」

「確かにその通りだけれど、落ち着いて考えてみてよ?」

「ミリちゃんなら大丈夫よ。それにサニン殿下の会にも出席したのだし、いきなりではないわ。私が同席出来れば気も楽になるでしょうし、大丈夫でしょう?ね?ミリちゃん?」

「はい」

「いや、チリン、本当に?ミリ、大丈夫かい?」

「はい。わたくしはまだ礼儀作法が全然身に付いておりませんけれど、他の子達よりは出来ている様でしたので、不調法をチリン姉様が庇って下さるのなら、それほど目立たずに済ませられるかも知れません」


 そのミリの応えに、一同が微妙な表情を浮かべる。

 チリンがミリに語り掛けた。


「ミリちゃん?ミリちゃんの礼儀作法は素晴らしいと私は思うわよ?」

「ありがとうございます」

「・・・その返事、分かってはいなさそうね?ピナお義祖母様は、礼儀作法に厳しいので有名なのよ?」

「はい。わたくしもそう聞いています」

「その授業に付いて行っているのだから、もっと自信を持ちなさい」

「はい」

「これは確かに、分かってなさそうだね」


 ミリの返事を聞いたスディオは肩を竦めてそう言った。


「ミリ」

「はい、お養祖母様」

「私はいつまであなたに教えられるか分かりません。年齢的にも限界は近いでしょう。今日が最後になる事だって、ないとは言えません」

「そんな、お養祖母様・・・」

「いつかは終わりが来ます。そして回を重ねる毎に、確実に終わりは近付いて来ています。時間が残り少ないと思うからこそ、あなたには厳しく接しているのです。けれど、あなたはどれも良く学んでいます。素晴らしい成績ですよ?」

「お養祖母様」

「しかし教えなければならない事は、まだまだまだまだあります。その為には実践も必要です。ミリ」

「はい、お養祖母様」

「結婚しても良いのなら、王族に嫁ぐ積もりでいなさい」

「え?でも、さすがにそれは、あり得ません」

「いいえ。私は王妃を目標にあなたを教育して来ました」

「あの、わたくしは、貴族の血が流れていないのですが?」

「ええ。ですのでミリには、そのハンデを覆せるだけの教育をしているではありませんか」

「いえ、でも」

「サニン殿下の妃になれと言っているのではありません。しかしサニン殿下の妃になる令嬢に、負ける事は許しません」

「それは・・・いくらなんでも」

「ミリ。私の教育が信じられませんか?」

「・・・いえ。お養祖母様の事は信じています」

「結構です。ミリ。社交をしますよ」

「はい」

「王族との席は調整が必要ですけれど、その積もりでいなさい」


 有り得ない事に向けて厳しい勉強させられるのは堪らないとミリは思う。それこそ時間の無駄だと思った。

 けれどそんな口答えはピナに出来ないし、相談できる相手も思い浮かばなくて、取り敢えずミリは「はい、お養祖母様」と答えるしかなかった。

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