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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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褒めないで

「皆様にお願いがあります」


 茶会をそろそろ終える頃合に、ミリは曾祖母デドラと祖父ガダ、祖母リルデに声を掛けた。


「どうしたの、ミリ?」

「なんでも叶えてやるぞ?」

「あなた。そう言うのはミリの為にならないわよ?」

「そうですね。先ずはミリ、望みを言ってご覧なさい」


 ミリは敗北感から立ち上がる為に、自分を奮い立たせる。


「わたくしを褒めるのは、お()め頂けないでしょうか?」

「え?なぜなの?」

「いや、しかし、ミリは褒められる事をしているぞ?」

「いえ」

「いいえ、そうよ。しているわよ?私達は無理をして褒めているのではないわよ?」

「その通りだ」

「ミリが素晴らしいから、みんな褒めるのだから」

「ああ。今日の事だけを取っても、ミリは大したものだった」


 うんうんと肯くガダとリルデに、ミリは言葉を返せなかった。


「ガダ、リルデさん。ミリの話を聞きましょう」

「話も何も、母上だってミリは凄いと思うでしょう?」

「あなた、そうだけれど、お義母様(かあさま)の言う通りだわ。ミリが何を考えて発言したのか、私は聞かせて欲しいわ」

「うん?ああ、そうか。そうだな。今度はどんな話をしてくれるのか、是非聞かないとな」


 三人が聞いてくれる態勢になったのは良いけれど、不必要にハードルを上げられて、ミリは言い淀む。

 その様子を見て、デドラが助けを出した。


「ミリ」

「はい、(ひい)祖母様(ばあさま)

「無理に纏めなくても構いません。思い付いた事を話しなさい」

「はい・・・」


 ハードルを下げて貰ったけれど、だからと言ってミリは、グダグダな話はしたくはない。しかし、三人の期待に応える話をしてしまい、また褒められるのも回避したい。いや、褒められたりしないかも知れないけれど。

 こうやって、話し始めるのに時間を掛けている間に、また三人の期待が高まってハードルが上がりそうだ。

 ミリは、間違っても三人を傷付ける様な言い回しにならない様にだけ注意して、考えた事を口にする。


「わたくしは、自分が褒められる様な事をしていないと考えていました」

「え?そんな事ないわよ?」

「リルデさん。先ずは聞きましょう」

「あ、そうですね。ごめんなさい、ミリ。続けてちょうだい」

「はい・・・それなので、皆様に褒めて頂いていたかも知れない事に、少しも、気付かなかったと言うか・・・いえ、褒められていなかったかも知れませんが、褒められなくて当たり前と思っていたので、もし褒められた事があったとしても、わたくしには感知出来ませんでした」


 ミリは一旦言葉を切って、三人に通じたかを確認した。

 三人共、疑問を顔に浮かべてはいないので、ミリはそのままの感じで、話を続ける事にする。


「わたくしは、褒められ慣れていないので、ではなくて・・・褒められては頂いていた様なのですけれど・・・褒められ、慣れて・・・褒められられ?・・・褒められ・・・褒められられ慣れてはいないので、たとえ褒めて頂いていても気付きませんでした」


 ミリの話をデトラは表情を変えずに聞いている。

 けれどガダは、こんな様子のミリを見た覚えがなくて、おかしくなって来て、笑いそうだった。

 リルデも見た事のないミリの様子に、可愛さが湧き上がって(あふ)れそうだった。


「お父様とお母様はそれに気付いて、わたくしにも分かる様にとはっきりと言葉を使って褒めて下さいました。その事が皆様にも伝わったのだと思います」


 デドラは小さく肯いた。ガダとリルデはうんうんと肯いた。


「けれど、もし褒めて頂けるのなら、褒めて頂くのは、今まで通りで結構なのです」


 ミリは自分の言いたい事がやっと掴めて、自分の言葉に肯いた。


「今のわたくしに必要なのは、褒めて頂いた事をしっかりと感じ取る事なのです。その為には、皆様には今まで通りに接して頂いて、褒めて頂くにしても、今まで通りのやり方で、褒めて頂きたいのです」


 言いたい事を口に出来たミリは、三人を見る。

 デドラはやはり、小さく肯いた。

 ガダはミリの一所懸命な話を聞き終わると、片手で顔を隠して肩を震わせ始めた。

 リルデは今のミリをまた褒めたいけれど、大袈裟に褒めてしまわない様に我慢する為に、うんうんと何度も肯く事でミリの話への共感を表しながら、なんとか気持ちを落ち着かせようとした。


 デドラはガダとリルデの様子を横目で見て、二人が言葉を口にしそうにないのを確認して、ミリに返した。


「そうですね。それなら今まで通りに、普通に褒めるのは構わないのですね?」

「はい。それでお願いします」

「分かりました。しかし今まで通りですと、褒められているかどうか、ミリには分からないのではありませんか?褒める側から、何らかの合図が必要ではありませんか?」

「でも、合図を頂いたら、褒めて頂く事を自然に感じ取る練習にはなりません」

「そうですね。では、ミリが気付いていないと感じたら、後から褒めた事を伝えましょうか」

「そうですね。はい。それなら大丈夫ですので、それでお願いします」

「分かりました。しかし、褒められる事の練習を行うなどとは、良く思い付きましたね」

「はい。褒めて頂いた事に気付かないのは、失礼に当たりますので、なんとかしたいと思いました」


 デドラは微笑みを浮かべてミリを見詰める。

 ミリも微笑みを返した。


「ミリ」

「はい、曾お祖母様」

「いま、わたくしはあなたを褒めた積もりなのですけれど?」

「え?ええ?いつの間に?」


 ガダはとうとう、声を上げて笑った。

 リルデもガダを窘めながら、自分でも笑っていた。

 デドラにも笑みを向けられて、ミリは焦りながらこの短い時間内の事を詳細に思い出そうとしていた。


 デドラが良く思い付いた事を褒めたのだとタネ明かしをすると、キョトンとした表情をしたミリを見て、ガダはもちろんリルデも笑い声を出す。

 デドラも「ふふっ」と声を漏らした。

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