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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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知っているのを知られたら

 朝。

 ミリが出掛ける為に玄関に向かうと、廊下でパノと行き会った。


「ミリ!」


 パノは両腕を広げ、ミリに抱き付く。


「え?パノ姉様?コーハナル侯爵邸に泊まったのではなかったの?」

「連絡を受けて、直ぐに帰って来たのよ」


 そう言ってパノは束縛を(ほど)き、ミリの両頬を両手で包んだ。


「知っていたのですって?」


 パノの勢いに飲まれ掛かっていたミリは、一拍置いて「ええ」と答える。そのミリをまたパノは抱き締めた。


「良く頑張ったわね」


 パノのその言葉が何に対してなのか思い当たらず、ミリは首を傾げたいけれど、パノの腕で頭が固定されていてそうもいかない。はいもいいえも、抱き締められているから声に出来なかった。

 パノが束縛をまた少し緩める。


「今のは褒めたのよ?」


 そう言うとパノはまたミリを抱き締めた。

 その話も伝わっているのかと思いながら、ミリもパノの背中に手を回して、返事の代わりに抱き締め返す。


 モゾモゾするミリに、ハッと我に返ったパノが腕の力を緩める。ミリはハッと息を吸い、ゆっくりと吐いた。


「ゴメンね?大丈夫?」

「ええ。大丈夫です」

「今日はこれからデドラ様の授業を受けに、コードナ侯爵邸に向かうのよね?」

「はい」

「帰って来たら時間をちょうだい。良い?」

「もちろんですけれど、何かありましたか?」


 ミリの頭には、パサンドと関係のあったメイドの件が浮かぶ。けれどソウサ商会やミリの祖父ダンから、そんなに早く報告が届く筈はないと考えた。


「何かじゃなくて、今までミリに伝えられなかった事が色々とあるじゃない?」

「はい。ですけれど、私はかなりの範囲を既に知っていますけれど?」

「そうらしいわね。でも、私から見た事実は、私の口からミリに伝えたいわ。それに事実を伝えるだけではなく、ミリに謝罪もしたいし」


 謝罪と言われると、ミリが生まれた事が誤りだと指摘されている様で、ミリは少しモヤッとする。けれど会話を通してパノの認識を改めて貰えば良いかと判断して、ミリは「分かりました」と肯いた。


「ありがとう。引き()めてゴメンね。行ってらっしゃい」

「はい。行って参ります」


 パノはミリの体を放すと、手を振って「気を付けて」と言いながらミリから離れて廊下を進んで行く。

 ミリはパノがバルとラーラの所に向かうのだろうかと思い付いて、声を掛けようとしたけれど、思い(とど)まった。


 今朝はまだ、バルとラーラは起きて来ておらず、ミリは二人と顔を合わせないまま出掛ける事になった。いまパノが二人に会いに行っても、まだ起きていないかも知れない。

 その説明を自分の口からする事は、ミリには憚れた。

 昨日、バルとラーラを焚き付けた自覚がミリにはあるけれど、二人が昨夜のあの後どうなったのか、ミリは一緒には寝ていないので分からない。

 昨日の事情を大まかに知っている使用人達も、気を利かせて、朝になっても寝室を覗いていないので、ミリの手元には何も情報がなかった。


 さすがにパノが二人の寝室に突撃する事は無いだろうから、まあ良いか、とミリは納得する事にしておいた。


 実際にはバルもラーラも、昨日のミリとの遣り取りで色々と頭を悩ませていたし、何年か振りの二人きりの夜にも緊張していたので、明け方まで眠れなかっただけの寝坊だった。

 だから誰かが二人を起こすべきだったのだけれど、誰も起こさなかった事で、この後二人は周囲の誤解を解くために、必要以上の言い訳を口にする事になる。

 そして二人とも、「ミリが一緒に寝ていたら、こんな事にはならなかったのに」と思う事になるのだ。



 ミリがコードナ侯爵邸に着くと、コードナ侯爵夫妻である、血縁はない父方の祖父ガダと祖母リルデが、車寄せで出迎えた。


「いらっしゃい、ミリ」


 直ぐにリルデが声を掛けたので、ミリは慌てて馬車を降りて礼を取る。


「おはようございます、お祖母様(ばあさま)、お祖父様(じいさま)

「おはよう、ミリ」


 そう言うとガダは歩み寄って、ミリを抱き上げた。リルデは腕を伸ばして、ミリの頭を撫でる。


「あなた。ミリを独り占めしないで下さいよ?」

「分かっているよ」


 そう答えてガダはミリのお尻を自分の腕に載せたまま、ミリの上半身をリルデの胸に寄り掛からせた。

 リルデは両腕でミリの体を(つつ)む。


「ミリ」

「はい、お祖母様」

「色々と知っていたのですってね?」

「はい」

「ミリ?」

「はい、お祖母様」

「何があろうと、あなたは私の孫ですからね?」

「・・・はい」


 リルデの言葉に「ありがとう」と返すのは違うかも知れないと考えて、ミリの返事は1テンポ遅れた。


「私もだよ、ミリ。私も君の祖父だからね」


 片腕にミリを載せたまま片手で頭を撫でながらそう言うガダに、ミリは同じく「はい」と返事をした。


 ガダとリルデには、女の子の孫はミリしかいない。

 二人と血が繋がっている孫は今のところ男の子しかおらず、皆、領地で両親と暮らしている。その孫達には年に数度も会えない。ミリの従弟のジゴ・コードナも、サニン王子の友達を探す会が終わったら、領地に帰ってしまっている。

 それなので、孫で唯一の女の子だし頻繁に顔を合わせられるミリは、ガダに可愛がられていた。

 それがリルデは少し面白くない。ラーラがミリを産む事に自分は賛成していたけれど、ガダは反対していたのに、とリルデは思っている。ガダがミリに甘い事にヤキモチを焼いているのも、ほんの少しはあった。



 ガダとリルデに手を繋がれてコードナ侯爵邸の離れに向かうと、いつも勉強に使っている居室で、曾祖母デドラが待っていた。

 ミリはガダとリルデに手を放して貰い、デドラの傍まで進んで礼を取る。


「おはようございます、(ひい)祖母様(ばあさま)。本日もご指導をお願いいたします」

「おはようございます、ミリ。今日は場所を変えますので、付いて来て下さい」

「はい」


 たまに本邸の資料室での授業になる事もあるけれど、その場合は大抵難しい課題が提示されるので、ミリは心の準備をした。

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