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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ミリの恋愛観

「ミリ?男性だって浮気をするわよ?」


 ラーラのその言葉にバルは、自分達の娘に聞かせるセリフじゃないと思う。いや、誰であろうと子供に聞かせる話ではないと、バルは思い直す。

 バルがそんな事を考えている間にも、ラーラとミリの会話は進む。


「複数の女性を相手にする男性は、一定以上の力を持っていると自分で思っています。そう言った方は結婚していても、奧さんを愛してはいません」

「愛人を愛しているって事?」

「愛人を愛している場合は、愛人は一人だけで、奧さんには冷たく接しているでしょう。奧さんが出て行ったら、愛人と暮らすと思います」

「それなら、愛人が二人以上の場合は?」

「どの女性も愛してはおらず、欲求解消の為と言うよりは他の男性へのステータス誇示の為の愛人達です。その場合には奧さんに優しく接しているとは思いますけれど、理解のある妻を持つと言うのも男性のステータスになりますので、何かにつけて愛人達よりは奧さんを優先して、奧さんにもアピールしている筈です」

「多くの男性は、女性を心から愛していないって事?」

「女性は男性の浮気に警戒していますので、浮気する男性の数が実数より多く思われている可能性はあります。浮気するかしないかの比率は分かりませんが、『真実の愛』を見付けた男性は、それ以前は愛してはいなかったと考えられます」


 バルがラーラと付き合う前に、リリ・コーカデスを好きなのに他の少女にも声を掛けていた事が、バルとラーラの頭に浮かぶ。


「一定以上の力って、経済力って事かい?」


 少しでもラーラとミリの会話のブレーキになればと、バルが口を挟んだ。


「経済力もそうですし、見目が良いとかもそうですね。あとは武力とか軍事力とかもそうだと思います」

「軍事力?」

「軍を統括する将軍ですとか参謀ですとか、多くの人を支配する男性の場合には、本人の武力とは別に配下の力も評価に加算されます」

「そうなのか。武力とかはなんとなく分かるけれど、見目の良し悪しもかい?」

「力を持っていると言うのは、女性の評価がポイントになります。女性から高い評価を受けている事を力と例えました。それなので、見た目が魅力的である事も力になります。女性にモテない人が、複数の女性と付き合ったり出来ませんよね?」

「そこは金の力とかで、ってそれも経済力があるって事か」

「はい。それと、いくらお金を積まれても、断られる事はあります。女性から見ると、何か一つだけ秀でている事よりも総合ポイントでどうかになりますし、男性の将来性もかなり重要になると思います」

「それはそうだろうね」

「はい。子供が独り立ちするまでが女性の評価基準になりますので。子供が独り立ちするまで支えて貰えるなら、パートナーが誰もいないよりは愛人の立場の(ほう)がマシだったりします。独り立ちまでに落ちぶれそうだと思われた男性は、今がどれだけ良くても選ばれないと思います。お金を持っていても年配男性が選ばれにくいのは、子供の独り立ちまで見守れる可能性が低いからですね。権力にものを言わせて若い女性を娶る事はありますけれど、その場合は男性が亡くなった後の権力を子供が引き継げれば問題ありません。遺言や遺産で揉めるリスクはありますが、それをどう評価して備えるか、受け入れるか、ですね」

「そう言うものか」

「はい。そう言う基準で女性に評価されて、自分が高評価だと思っている男性だけ、複数の女性と付き合います」

「なるほど」


 バルはミリの説明に納得してしまった。

 ラーラがミリに質問を投げる。


「愛している人がいる男性が、他の女性に近付かないのはどうして?」

「他の女性に近付けば、愛している女性に嫉妬されて、見限られる事があります。よそ見をして隙を見せれば、愛している女性が他の男性の所に行くかも知れません」

「女性だって、そんなに簡単には気持ちを移さないわよ?」

「一夜の過ちで他の男性の子供を授かる事も、男性は防がなければなりませんから、油断はしません。それに女性としては好きな相手を変えるのは大事件ですけれど、男性から見たら簡単に男性を捨てている様に見えると思います」

「え?なんで?」

「男性の愛情は執着を基盤としています。愛しているのなら、閉じ込めたい、までは思わなくても、離れたくないとは思っています。それは女性に他の男性と関係を持たせない為の手段でもあります」

「独占したがるって事?」

「はい。男のヤキモチと言うやつですね」

「それがなんで、女性が気持ちを変えるのを男性が簡単だと思う事に繋がるの?」

「男性は一度に愛せるのは一人の女性だけですし、その女性の過去も縛りたがります」

「複数の女性と付き合う男性は、一人の女性も愛していないって言っていたわよね?」

「はい。一方で女性は、同時に複数の男性を比べています」

「同時に?」

「はい。愛している男性がいても、条件が良い男性が視界に入れば、パートナー候補として意識はしなくても、観察したり調査したりします」

「調査?」

「はい。その男性の噂を集めたり、男性の周囲の人に尋ねてみたりですね。興味を持つと言う状態です」

「確かに、やるかも知れないわね」

「それでその男性の行動に付け込む隙があるなら、それを頼って会話をしたりして相手と知り合っていきます」

「え?付け込むの?」

「相手がその気でないなら、付け込んでいると言えます。例えば相手が商人なら、扱っている商品をその男性から買い求めたりします。騎士なら親族で騎士に関係する人を探したり、新たに友人を作ったりして、用事を作って会うチャンスにします。貴族なら、出席するパーティーに自分も参加したり、ですね」

「それが隙なの?」

「はい。男性側が自分を拒めない状況で接触しますので、隙を突いていると言えると思います。何度も会っていると男性との間に直接の繋がりが出来て、そうなれば隙は広がってますます会いやすくなります。そして何度も会っていれば、男性も意識して来ます」

「そんなに上手く行くのかしら?」

「みんながみんな、上手くは行かないと思います。しかし何もしなければ、何も変わらないですから」

「それは、まあ、そうよね」

「それで今のパートナーより有望だと分かって、相手が受け入れたなら、女性は男性を乗り換えます」

「え?そこに愛はあるの?」

「はい。新しい男性への好感度が上がるのに比例して、今の男性への不満を自覚して行きます」

「徐々に心変わりすると言う事?」

「はい。女性の愛の根幹は、産んだ子供が独り立ちするまで育てられるかどうかです。子供がより良い生活やより良い教育を受けられるとなれば、そちらの男性を愛する事を選ぶのは当然です」

「え?それ、妊娠していない時も?」

「はい。より良い出産と育児の環境を選ぶのは女性の本能ですから、妊娠前でも機能しています」


 ラーラは反論したいけれど、その手掛かりが見付けられなかった。

 バルが恐る恐るミリに訊く。


「それだと女性は皆、王妃様になりたがっていると言う事かい?」

「力の観点からみると、そうですね。王子様に憧れる女性は多いです。しかし王族は制約も多いので、それも評価するなら、みんながみんな、王妃様になる事を望むとは思えません」

「そうなのか」


 バルはそう返したけれど、安心して良いのかどうかは分からなかった。


「それに自分と子供を大切にしてくれる男性でなければ、選ぶ価値はありませんし」

「え?価値がない?」

「はい。その女性に興味を持たなかったり、他に愛している人がいたり、暴力を振るったりする男性は、どれだけ力があっても選ばれません。子供の独り立ちが保証されませんから」

「でも、他に愛している女性がいても、掠奪愛ってあるわよ?」


 娘に何を言っているんだと、またバルは思った。


「男性がパートナーの女性を愛しているなら、掠奪は起こりません」

「女性を近付けないから?」

「はい」

「妻の妊娠中に夫が浮気し易いのも、実は夫が妻を愛していないからなの?」

「もちろんです。妊娠中の女性には命の危険もあります。その女性を守らずに他の女性の元へ出向いているなんて、愛がある訳ありませんから」


 娘の辛辣さにバルは怯んだ。

 このままだと謂れのない事で責められそうな、責められなくても自分で勝手に苦しみそうなので、バルは話題をずらしてみる。


「逆に、子供の独り立ちが保証されるなら、数いる愛人の一人でも良いのかい?」

「それでも良いと選ぶ女性はいます」

「そうなのか」

「そもそも女性に取って、パートナーの男性が、子供の父親でなくても構わないですし」

「え?そんな事・・・」


 そこまで言ってバルは言葉をなくした。

 自分とミリは血が繋がっていない。


「相手の男性がそれを受け入れるかどうかの問題は大きいですけれど」

「それって、お母様は私がミリを独り立ちさせられると思ったって事?」

「そうですね。はい。信じたのでお父様と結婚なさったのだと思います」

「つまり、私より条件の良い男性が現れたら、お母様は乗り換えるかも知れないって、ミリは言っているのかい?」

「ちょっとバル!」

「可能性はありますが、実現は難しいです。何故なら私がお父様を父親だと思っている様な事も、お母様の評価には入りますし」

「え?ミリがいなかったら、危なかった?」

「そんな訳、ないでしょう!」

「不安定だったとは思います。私が居るならお母様としては、お父様に縋るしかありませんでした。妊娠したら出産まで待ったなしですし、私を妊娠した事で出産自体の不安がかなり強かったでしょうから、お母様はお父様に捨てられるかも知れない不安を抱えていてもそれに構ってはいられなかったと思います。もし私がいなければ、お母様はお父様に捨てられる恐怖を常に感じていたかも知れません。そしてそれから逃げる為に、お父様との別れを選んだ可能性もあります」

「いや、でも、捨てるなんて、そんな」


 バルに取ってはまるで冤罪だった。そんな事は考えた事もない。


 しかしミリは、ミリが出先から帰るとラーラがくっついて離れないのは、この辺りも理由だろうと思っていた。ミリが邸にいない事でバルとの関係に不安を感じ、ミリが帰って来るとその不安を解消する為に、ラーラがミリから離れないとミリは考えている。

 ただしこれについては、ラーラがバルとスキンシップを取れる様になれば、解放されるとミリは予想していた。


「お父様の愛が(つら)いと考えた事はお母様にもあると思いますし」

「え?そんな事・・・いや、確かに、結婚をごねていた時にも言われた気がする」

「ごねてないってば」

「お父様?お母様はお父様を愛していますし、信じています。それでも不安が浮かぶのは、本能なのだから仕方がありません。特にお父様とお母様はスキンシップさえ行っていないのですから、お母様の気持ちが不安定になるのも仕方ないのです」

「違うわよ、ミリ。バル?確かに申し訳ないと思う事はあるわ。でも捨てられるなんて思っていないわよ?そんな本能なんて、動物じゃないのだから」

「そうか。そうだな。俺もラーラを信じているし、ラーラが俺を信じてくれているとも思っているよ」

「私もよ。バルを頼りにしているのは本当だけれど、バルを信じているし、バルが信じてくれていると思っているわ」

「・・・ラーラ」

「バル・・・」


 動物と違って発情期がなかったり、子供の独り立ちに多くの年数が掛かるからこそ、人間には男女の恋愛戦略が生まれたのに、とミリは思ったけれど、両親の様子を見て、まあ良いかと、訂正するのは()めておいた。

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