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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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否定できない

 好きだ愛している、と言う言葉が免罪符になるわけではない。しかしその気持ちが行動の原動力にはなり得る。


 ミリはバルとラーラの長年の問題に、愛の名の(もと)にメスを入れた。



「まずお母様。お父様が特別と言う事は、お父様と他の男性を比較していると言う事ですか?」

「比較?比較ってどう言う意味?」

「普通に、他の男性と比べてお父様は特別なのでしょうか?と言う意味なのですけれど?」

「ええ。もちろんそうだけれど?それがなにかしら?」

「男性は自分が自信のない分野で、他の男性と比較されるのを嫌がります」

「え?そうなの?でもそれは女も同じではない?」

「そうですか?そうかも知れません。しかし未経験の分野での比較は、女性はそれほど気にしませんが、男性は嫌がります」

「そうなの?未経験なら比較も何もないと思うけれど?」

「いいえ。お母様は誘拐された時に、望まぬ結果とは言え、何人もの男性を相手にしましたよね?」

「え?ミリ?何を?」

「その事が、お母様が自分が汚れていると仰る根拠なのではありませんか?」

「それは・・・そうだけれど」

「お母様がお父様を特別と言う時に、他の男性と比較しているならば、お父様はお母様との間の男女の営みに(うれ)いを感じると思います」

「ミリ・・・」

「・・・ミリ」

「どこでそんな話を仕入れて来るのよ?」

「断片的な情報を繋ぎ合わせました」

「それだからと言って、そんな結論を見付けるなんて・・・」


 そう言うバルの様子を見て、ミリは推測がそれほど外れてはいない様だと感じる。

 バルには黙っていて貰う積もりだったけれど、これくらいは良いかとミリは妥協した。


「私はフェリ(ひい)祖母(ばあ)ちゃんに、世の中には情報が(あふ)れている事を教わりました。そしてピナお養祖母様(ばあさま)に、情報を見逃してはいけない事を習いました。デドラ(ひい)祖母様(ばあさま)には、情報の活用の仕方を教えて頂いています。それらは自然に組み合わさりますので、結論を見付けると言う程の事はしていません」

「あの人達か・・・」

「・・・仕方がないって思っても、良いのかしら?」


 バルもラーラもミリを見て、小首を傾げながら、小さく息を()いた。


「ミリ?」

「はい、お母様」

「アクセサリーって、小さい子のおもちゃから、王族が代々受け継ぐ様な逸品まで、様々でしょう?」

「はい」

「でも一律、アクセサリーと言われるわよね?」

「はい」

「それと一緒で、お父様も他の男性も一律男性だけれど、全然違うのよ」

「全然違うのは、お母様に取っても私に取っても、その通りだと思います」

「比較していると言っていたけれど、比較と言うより区別ね。お父様かお父様ではないか」

「そう言う事ですか」

「ええ。分かって貰えたかしら?」

「はい。つまりお父様はお母様と夫婦の営みをする時も、余計な憂いも不安も感じる必要はないって事ですね?」

「え、いえ、それは」

「お母様?お父様には憂いが必要なのですか?」

「いいえ、その必要はないけれど、そうではなくて」

「そうではなく?もしかしたら、お父様はご自分に自信が持てる様にする為に、どこかで練習してからお母様と営むべきですか?」

「違うわよ?そうじゃないのよ?」

「・・・ミリ?」

「違うと言うなら、お父様が女性経験がないままでも」

「ミリ?」


 ミリは睨むバルと目を合わせない様にして、そのまま言葉を続けた。


「構わないのですね?」

「それは、ええ」

「これまでの話だと、きっとお母様は、構わないどころか、お父様に他の女性と男女の関係にはなって欲しくないのですよね?」

「・・・それは・・・」

「それは?」

「・・・そうだけれど・・」

「けれど?」


 待ってもラーラが続きを言わないので、ミリは睨み続けているバルに視線を向けた。


「お父様?」

「ああ、何かな?」


 バルは低い声で返す。


「お父様は子供の頃にお母様に会いたかった、子供のお母様を見てみたかったと思った事はありますか?」

「え?それはもちろんだよ。もっと前に会いたかったとは、良く思ったよ」

「私はお母様にそっくりだと言われますが、私が育って行く様子を見て、お母様の子供の頃を思い浮かべたりする事もありましたか?」

「ああ、あるね。あるよ」

「私がお母様とそっくりで良かったですか?」


 実はミリの眉の形は、どちらかと言うとバルに似ていた。

 けれどミリはそれに気付いてから、眉の形をラーラに寄せて整えている。


「ああ。ミリがお母様にそっくりなのは、お母様の子供の頃を見る事が出来ているみたいで、とても嬉しいよ」


 そう言ってから、バルは慌てて訂正した。


「もちろんミリが可愛いのは、お母様に似ているからじゃないからね?いや、お母様に似ていても可愛いけれど、それはそれとして、ミリはそれだけで可愛いのだから」


 思いだした様にバルに褒められて、褒められ慣れていないミリはスルーしそうになり、慌てて「ありがとうございます」と礼を述べた。


 ミリはラーラを向く。


「お母様?お母様は小さい頃のお父様を見たいと思った事はありませんか?」

「それは、あるけれど」

「やっぱり、そうですよね?私も小さい頃のお父様はどうだったのか、見てみたいと思います」

「そうかい?でも二人に比べたら、見応えはないよ?」

「いいえ、見応えなんて要らないのです。ねえ?お母様?」

「ええ、そうね。小さいバルに、私も会ってみたかったわ」

「そうか。本当に、幼い頃に出会えていたら良かったね」

「ええ、本当に」


 また見詰め合う二人に、流れを切らしたくないミリが「お母様?」と呼び掛ける。


「お母様はお父様にそっくりな子供を見てみたいと思いませんか?」

「え?」

「お母様?お父様は、他の女性を相手にするのは嫌だと、言っていますよね?」

「え?ええ」

「お父様が他の女性を相手にするのは、お母様も嫌なのですよね?」

「・・・ええ」

「そうすると、お父様そっくりのお父様の子供を産める可能性があるのは、お母様だけですよね?」

「でも、私はお父様に触れて頂く訳にはいかないのよ」

「それは何度も聞きましたけれど、可能性の話です。お父様の子供が産めるのは、よその女性とお母様と、どちらが可能性がありますか?」

「それは・・・」

「それは?」

「・・・私だけれど」

「そうですよね?よその女性には可能性なんて、ない方が良いですよね?」

「ええ、まあ」

「よその女性には可能性は要りませんよね?どうですか?要りますか?」

「それは、要らないけれど」

「そうですよね?私もそう思いますし、それを望みます」


 そう言ってミリは大きく肯いた。


「私は先程は、異母弟妹でも良いと言いました。でも本当は、お母様以外の女性に、お父様の子供を産んで欲しくはありませんし、お父様の子供の母親は、是非お母様であって欲しいです。もしお父様の子供が産まれるとしたら、お母様もそう望みますよね?」

「それは、でも」

「お母様はお父様の子供を産むのが嫌ですか?」

「嫌だなんて、そんな」

「もしかして、私を産んだ所為で、もう子供を産むのは嫌になりましたか?」

「それはないけれど、そうではなくて」

「私を産んだ事、お母様は後悔していますか?」

「してないわ。してる訳無いじゃない。当たり前でしょ?」

「良かった」


 そう言ってミリは笑った。

 それに釣られてラーラも硬かった表情を緩める。

 それを見たミリは、ラーラを囲い込んだ。


「お母様に取ってお父様は、他の男性と比較することなく特別に区別され、お母様は小さい頃のお父様を見たいし、お父様そっくりの子供も見たいし、お父様の子供を他の女性が産むのは許せないし、お母様は子供を産む事自体は嫌ではないし、お父様の子供を産む事も嫌ではないし、お母様が汚れていないならお父様に触れられたい。そうですよね?」


 汚れが囲いの唯一の出口になっている。


 一つ一つはそうだけれど、そうやって並べられると、ラーラは肯く事が出来なかった。

 だからと言ってラーラは、否定する事も出来なかった。

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