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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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お父様を整理

 育ての母のマイがメイドを辞めてから、ラーラは身の回りの事は全て自分で(おこな)っている。行商中には着替えも入浴も自分一人で行っていた経験があるので、問題は無かった。

 今はパーティードレスを着なければならない様な時にだけ、パノに手伝って貰っている。

 同じく育ての父のガロンが護衛を辞めてから、ラーラは引き籠もっていているので、それで事が足りているのだ。


 今のラーラが言葉を交わす相手は、とても少ない。

 バルとミリとパノを相手とする会話で、ラーラの会話全体の9割以上を占める。後は侍女達と話すくらいだ。馴染みの護衛女性達とも話したりする事はあるけれど、勤務中の彼女達は危険が無い限りは基本は無言だ。

 手紙の遣り取りはしていても、ソウサ家の家族ともコードナ侯爵家やコーハナル侯爵家とも行き来はなくなっている。


 その所為か、精神的な不安定さ、幼さがラーラに現れる時がある。

 それは、バルとの触れ合いが満足に出来ない事が、不安定さの直接の原因になっている。これが一番、ラーラへの影響が大きい。

 そして、遠慮なくスキンシップを取れる相手がミリしかいない事も、ラーラの不安定さの一因にもなっていた。

 ガロンやマイが傍にいても、ラーラがスキンシップを求めるとは限らない。けれど、その様な事を求められる相手がミリしか傍にいない事は、ラーラへのストレスになっている。

 ラーラがミリに触れる事で、それらのストレスは低減するのだけれど、その課程でラーラの中の幼さが表出したりしていた。


 ミリは稀に、ラーラを妹の様に感じる時がある。

 ラーラは未成年の内にミリを産んだので、親子にしては二人の歳はかなり近い。姉妹としてもあり得る年齢差ではある。

 しかしミリがラーラに感じるのは、姉ではなく妹だ。


 サニン王子の友達を探す会からミリが帰って来た後の、ラーラからの纏わり付き様など、妹と言うよりは娘かともミリは思わなくもない。

 もちろんラーラの方が娘だ。



「混乱していますから、整理しますね?」


 ミリはラーラを見詰めながらそう宣言する。


「整理なんて・・・」


 そこでまた言葉に詰まるラーラから、ミリはバルに視線を移した。


「まずは簡単なお父様の方から」

「私から?」

「はい」


 整理するのが簡単なだけではなくて、ミリに取って、攻めるのが簡単だと言う意味でもある。


「お父様は結局、お母様に()れたいのですよね?」

「いや、少し待ちなさい」


 バルがこの()に及んで抵抗するのは、ラーラに味方する為だった。


「良いかいミリ?私はお母様の気持ちを無視してまで、お母様を傷付けてまで、お母様に()れたい訳ではないよ?」

「はい」


 とミリは答えたけれど、心の中では「少しでも傷付ける可能性がある事は、避けて来たのだろうな」と思っていた。そのミリの推測を短く纏めると「ヘタレ」だ。


「つまりもし、お母様がお父様に()れて欲しいと口にすれば、お父様はお母様に()れる事に、躊躇(ためら)いはありませんね?」

「いや、しかし」

「躊躇うのですか?その躊躇いは勇気を出して望みを口にしたお母様を傷付けますけれど、そう言う傷付け方は良いのですか?」

「待ってミリ!お父様は違うのよ」


 ミリはバルに顔を向けたまま、目だけでラーラを見た。


「お母様にはこの後じっくりとご意見を伺います」

「でも、私が一緒に聞いていたら、お父様が本当の事を言えないでしょう?」


 ミリは顔もラーラに向ける。


「お母様?今のお母様の発言は、先程お二人が仰っていた、お父様とお母様は信じ合っていると言う話に付いて、否定する事になりませんか?」

「え?そんな・・・」


 否定する事になるかどうかはミリにも分からないけれど、取り敢えずラーラの思考力をそちらの検証に費やさせる為に、ミリは面倒臭い質問をラーラに投げ掛けた。

 ラーラとバルが言っていた事をラーラが思い出そうとし始めたので、ミリはバルに視線を戻す。


「お父様?」

「あ、ああ」


 ラーラに対するミリの質問に釣られて自分でも検討し始めていたバルは、ミリの言葉に引き戻されて、その視線に少したじろぐ。


「もう一度伺いますから、正直に教えて下さい。お母様が自分から望んでお父様に触れて欲しいと願ったら、お父様はお母様に触れる努力をなさいますか?」


 ミリは状況を少し限定した上に、行動ではなく意向を問う事で、バルに答え易くなる様にと誘導する。


「それはもちろん、その時には努力しよう」


 掛かった。


「お母様が口にしなくても、お母様の心が分かればやはり、お父様は努力をなさって下さいますか?お母様の心にずっと一番寄り添っていらっしゃるのはお父様だと、私は思っているのですけれど?」

「もちろんだよ」

「バル・・・」


 ラーラにはバルがミリの罠に嵌まっているのが分かってはいるけれど、バルの言葉が嬉しくもあって、なんと言ったら良いのか良く分からなくなっていた。

 それはミリが投げ掛けた疑問を考える事で、ラーラの思考が一旦停止してしまっていたのも影響している。


「お父様?」

「ああ、なんだい?」

「私はお父様が、お母様を汚れていないと思っていらっしゃる事を信じます」

「ああ。もちろん、その通りだよ」

「バル・・・」


 バルが思っている事をミリが信じると言うだけなので、ラーラには否定出来ない。

 けれどその発言は、この場でのあやふやなバルのスタンスを固定する効果がある。

 それは、バルがラーラを汚れていないと思っている事だけではなく、ラーラが望めばバルがラーラに触れる努力をする事も固着させた。



 貴族としての遣り取りや事業責任者としての交渉なら、バルももう少し上手く立ち回る事が出来る。

 しかし、愛妻に接する態度に付いて愛娘が訊いて来るなら、脇が緩んでも仕方ない。

 バルは、どちらかと言えば惚気たい方だし。ラーラが戸惑いながらも喜んでいる事も、バルには感じられるし。



 見詰め合う二人の様子を見て満足しそうになったミリは、もう一度気を引き締めた。

 まだ、しつこいし強情な上に理屈も通じない相手を感情的に納得させるのは、これからだ。

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