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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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切り札、決心

 バルもラーラも、ミリになんと説明すれば良いのか、考え倦ねていた。

 なんでウチの娘はこんなに頑固なのだろう、と二人揃って考える。ついさっきまで、親の言いなりになる事を心配していた筈なのに。

 いや今も、結婚するな、家を出るな、と言うバルの言う事はきく様だけれど、どう見てもそれを逆手(さかて)に取って、ゴリ押ししようとしていた。

 思わず二人揃って小さな溜め息を漏らす。


 ミリはそれを見逃さずに、畳み込む好機だと捉えた。


「お母様は私が生まれてから、社交をなさっていませんよね?」

「それは、あなたを産んだからと言う訳ではないわよ?」

「我が家は貴族家と言っても傍流だから、社交は必須ではないんだよ」

「はい。それでも人前に一切出なくなりましたよね?」

「一切と言う事はないけれど」

「そうですか?」

「ミリ?また変な事を言おうとしてないだろうね?」


 バルはミリを睨んだ。ラーラの耳に入らない様にしている他の噂の事も持ち出されては困る。


「いえ。護衛に付いてです」

「護衛?護衛がどうかしたのかい?」

「私が生まれた時には、お母様の育てのお父様が、お母様の護衛をなさっていたのですよね?」

「ええ」


 ラーラは警戒を目に浮かべながら肯いた。

 バルは懸念していた内容ではなかったので、少し体の力を抜く。


「ガロンさんの事だね?それが何か?」

「お母様が人前に出なくなったのは、お父様がお母様を守れないからではないのですか?」

「ミリ!なんて事を言うの?!」


 ラーラがきつくミリを睨むけれど、今はテーブルを挟んで座っているから、いつもよりミリには効果がなかった。


「ガロンさんはお母様に(さわ)れると聞いています。ガロンさんが護衛なら、いざと言う時はお母様を抱き抱えて逃げられますけれど、他の人だと無理ですよね?」

「抱き抱えてられなくても、自分で走って逃げるわよ」

「でも、お母様が人前に出なくなったのは、ガロンさんが護衛を辞めてから。ガロンさん以外の男性はお母様に(さわ)れない。近付く事も出来ないから、お母様を背中に庇う事さえ難しい。長くお母様に付いている護衛女性ならお母様に(さわ)れるけれど、一人ではお母様を運べない」

「それは、そうだけれど」

「社交が必須ではないとは言え、パノ姉様に頼んでお父様のパートナーを勤めて頂いたりもしています」

「ミリ」


 バルが小さいけれど鋭い声で、ミリの名を呼んだ。

 ミリはそれに微かに肯き返す。


「それはひとえに、お母様の安全が確保出来ないからではありませんか?」

「それは、そうだけれど」

「そうですけれど、もし、お父様とお母様が本当の夫婦なら、お父様がお母様に()れる事が出来るなら、お母様の事はお父様が守って下さいますよね?」


 そう言ってミリはバルに顔を向ける。その顔には、無邪気に見える笑みを浮かべていた。


「それは、もちろんだけれど」


 バルはそう答えるしかない。


「お父様は護衛の指導をなさっているだけではなく、常に鍛錬も欠かしていらっしゃいませんから、お父様に守られるなら、お母様は一切心配がないと私は思うのですけれど、お母様はいかがですか?」

「それは、もちろんだけれど」


 そうバルと同じ言葉を口にしながら、ラーラはミリの誘導から抜け出す道を探っていた。

 その横で、妻と娘の信頼が嬉しいバルは、ちょっとニヤけている。


「お母様はお父様を怖くはないのですよね?」

「そうだけれど、違うのよ」


 ラーラは強引に道を変えようとする。


「何がですか?」

「私はお父様に触って頂く訳にはいかないの」


 ラーラの言葉にバルが驚く。


「それは、どう言うことだい?」

「後で説明するわ」

「いや、だって」


 ミリを誤魔化す積もりが、バルが引っ掛かってしまった。

 ラーラは手を伸ばして、バルの手に手を重ねた。それでバルを黙らせる。

 けれどそれだけでは少し不安を感じて、バルを見詰めてラーラは言った。


「バル?私を信じて」


 その言葉にバルは戸惑った。

 その言葉にミリは、ラーラが何を言い出すのか予想が付いて、うっかり僅かに口角を上げてしまう。

 しかしバルを見詰めていたラーラは、それを見逃した。


「ラーラ?」

「大丈夫よ」


 不安に瞳を揺らすバルの手をラーラは今度は両手で包むけれど、バルは尚更落ち着かない。

 これまでの経験から、ラーラがろくでもない事を言い出す予感が、バルの心に浮かぶ。

 これまでの経験から、バルが邪魔をして来そうな雰囲気を感じ取ったラーラは、さっさと済ませようと顔をミリに向ける。


 ラーラは切り札を切る事を決意した。


「ミリ?」

「はい、お母様」

「私はお父様に触って頂く訳にはいかないの」


 ラーラはもう一度、同じ言葉を口にした。


 ミリは考えた。

 お母様が言い出す言葉は予想が付く。それは自分から言った方が良いのだろうか?自分が言った方が、お父様もお母様も傷付けそうだけれど、どうせこの後、自分からも同じ様な事を言わなければならない。話が二段階になるより、自分が口にして一段の方が良いだろうか?けれど自分が先に言葉にすると話が長引いて、それこそ却って余計なダメージを与えるかも?


 秘密の秘密を伝える場面は何度もシミュレートしていたミリだけれど、今のこの状況は事前検討が足りていなかった。

 浮かれて弟妹が欲しいと言ってしまったのは、少し早まったかも知れない。


 そんなミリの逡巡の(あいだ)に、ラーラは覚悟を決めていた。


「それは、辱めを受けた時に、私の体が汚れてしまったからなの」


 その言葉に反応したのは、ミリではなくバルだった。

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