血の繋がりと噂
ラーラは顎に拳を当てて、ミリの秘密について考えた。
「船員達のお使いをしたりしていたわね?それとアクセサリーを売り買いしていたとの報告もあったわ」
ラーラの言葉にミリは微笑みを返す。
使用人や護衛達から報告が行っている事には、ミリも気が付いていた。
「どうやら当たりみたいね。でもそれでは大した投資額にならないのではない?」
「どこで金を稼いだのかなんて、どうでも良いだろう?」
ラーラの推察をバルが遮る。
「どうでも良くはないわよ」
「それより、子供を産むって方が問題だろう?」
「お金が足りなければ子供は産めないわ。それをミリに分からせなければダメよ。いざとなったら周りが助けてくれる、なんて思っていたら問題じゃない」
「問題なのは、結婚もしないで子供を産もうとする事だろう?」
バルはラーラからミリに視線を移した。
「ミリ。そんな状況で産んでも、子供は幸せにならないよ?不幸になるのが目に見えているのに、子供を作る事には賛成出来ない」
「お父様。それは、片親だと子供は幸せになれないと、仰っているのですか?」
「それもあるが、周りから祝福されなければ、その子が可哀想じゃないか」
「その分は私が祝福しますし、二親分を私が愛します」
「いや、そう言う事ではないよ」
「お父様が心配なさっているのは、もしかして噂に付いてですか?」
ミリの質問にバルは言葉を失い、ラーラが「噂?」と呟いた。
「ミリ?噂って何の事?」
「いや、ラーラが気にする話じゃないよ。ミリ。その話は止めなさい」
ラーラが一睨みするのをバルは感じたけれど、バルはラーラに視線を向けない。
「ミリ。話しなさい」
「ラーラ」
今度はバルがラーラに顔を向けるけれど、ラーラの方が視線を合わせない。
「ミリ?お父様が私に聞かせない様にしている理由は、ミリは分かるの?」
「はい」
「つまりあなたはお父様が止めるのを分かっていて、わざと話に出したのね?」
「え?」
バルはミリを振り返った。
ミリは少し躊躇ってから、ラーラに向けて小さく「はい」と肯く。
「そうなのかい?ミリ?」
「はい」
ミリの返事を聞いて、バルはソファにドサリと座った。
バルの様子を横目で見てから、ラーラはミリに視線を戻す。
「ミリも座りなさい。座って話しましょう」
ミリにそう促すと、ラーラは腰を下ろした。
ソファの後ろに立っていたミリは、「はい」と肯いて回り込み、二人の向かいのソファに座る。
ミリは、噂の存在を自分が口にした理由に付いて、ラーラが感付いたかも知れないと思う。
「ミリ?どんな噂なの?」
「ラーラ。俺から話すよ」
「え?そう?どんな噂?」
「後で、二人きりの時に話す」
それではミリの思惑が外れる。
「お父様。今、話をさせて下さい」
「いや、しかし」
「お願いします」
頭を下げるミリを苦い表情でバルは見詰めた。
そんなバルをラーラが見詰める。
バルが何とも反応しないので、ミリは顔を上げた。
「お父様?もったい振るとお母様が誤解なさいます」
「いや、そうだけれど」
「お母様?事実無根な噂ですし、私は大した話ではないと思っています」
「それではミリ、二人で話しましょうか?」
「いや、待ってくれ。話すよ。話すから」
「お父様。私からの方が、お母様にはよろしいかと思いますよ?」
「しかし、ミリの口から言わせるのは」
「お父様の言葉として聞くよりは、私からの方がお母様にはショックが少ないです」
「つまり、私がショックを受けるような噂なのね?」
「お父様の言葉でしたら。私が話せばそれほどでもありません」
「なんなのミリ?教えて」
「はい。お父様が私をお母様の代わりにしているとの噂です」
「代わりって、まさか?」
「はい。男女の営みのですね」
「充分、ショックだわ。誰なの?そんな事を言っているのは?」
「誰かは分かりませんけれど、私がお母様にそっくりなのが理由の様です。そっくりですし、お父様と血が繋がっていませんので、お母様の代わりをさせているって推測したのでしょう」
「そんな邪推、有り得ないでしょう?」
「そうですけれど、それなのでお父様は、私が妊娠するのはダメと仰っているのです。私の子の父親がはっきりしないと、その噂と紐付けられますから」
「それだからダメな訳じゃないよ。その噂がなくてもダメだ」
「え?そうですか?」
「そうだろう?」
バルは項垂れて、首を振った。
「それなら異母弟妹でも良いですよ?」
ミリの言葉にバルは「え?」と顔を上げる。
「それなら?それならってどう言う意味だい?」
「異母弟妹が生まれれば、お父様が大人の女性をお相手に出来る証明になります」
「そんな事の為に、他の女性を相手にする訳ないだろう?それなら今の噂の方がマシだ」
「バル?マシな訳ないでしょう?」
「いや良い訳はないよ?良い訳はないけれどさ」
「それは異母弟妹もダメだし、私が赤ちゃんを産むのもダメだと言う事ですよね?」
「もちろんだよ」
「それならお母様に異父弟妹を産んで頂くしか」
「止めなさい!そんな訳、ないだろう?」
バルはミリを睨むけれど、ミリには全然効いていない。
「ねえ、ミリ?」
「はい、お母様」
「異父弟妹は絶対に無理よ。考えただけで、おかしくなりそうだわ」
「え?・・・ごめんなさい」
ラーラの顔から血の気が見る見る引いて行くのを見て、ミリは慌てて頭を下げた。
「分かって貰えて良かったわ。それでね?異母弟妹って言うけれど、お父様とあなたは血が繋がっていないのよ?」
「はい」
「そうしたら、その子もあなたとは血が繋がらないじゃない」
「はい」
「はいって、分かっていて言っていたの?」
「はい」
「それでも良いの?」
「はい。血が繋がらなくても、お父様が私を愛してくれる様に、私もお父様の子なら兄弟として愛せると思います」
「そう。その子のお母様も、あなたはお母様として慕えるのね?」
「え?」
「私はお父様が他の女性と過ごすのなんて耐えられないから、あなたが異母弟妹を欲しいなら、私はお父様と別れるしかないわ」
「なぜですか?」
「なぜって、そんな状況、耐えられる訳ないじゃない」
「お父様と別れれば、耐えられるのですか?」
「え?・・・そんな訳、ないけれど」
「そうですよね?もっと辛いですよね?」
「だからって、どうすれば良いのよ?」
「一番は、お父様とお母様が、本当の夫婦になる事だと思います」
「本当のって」
「今はかりそめの夫婦ですよね?私を産んで育てる為に、お父様とお母様は結婚なさったのでしょう?」
「え?いえ」
「母親一人で子供を産んで育てるのは、経済的に大変なのですよね?お母様?」
「それは、そうだけれど」
ミリはバルに目を移す。
「結婚しないで子供を産む事自体、大変なんですよね?お父様?」
「あ、いや、確かにそうだけれど」
ミリは交互に二人を見ながら、やはり正面から話す方が二人に挟まれて話すより楽だな、と考えていた。




