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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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弟妹

 分岐点で人生が変わる事はある。

 人生が変われば考え方も性格も、変わる事があり得る。


 バルとラーラはミリが生まれてからずっと、ミリに秘密にして来た事を伝える事が出来た。

 ミリも、秘密にされていた事を知っていたと、バルとラーラに告げる事が出来た。

 それなのでこの家族の人間関係は、これから変わって行くだろう。


 しかし今日のところは、そんなに急には変わらない。


 バルとラーラはまだ若いとは言え、もう大人だ。

 二人ともまだ子供だと言って良い年齢の時に既に、人生の大きな決断を行い、その後も誰から見ても成功と言える暮らしを送っている。

 愛娘への秘密が一つ失くなったとは言え、考え方や性格は昨日となんら変わらない。


 ミリもだ。

 まだ幼いミリが、短いながらも全てに渡って、その人生に覆い被さっていた秘密が共有出来たからと言って、今日明日直ぐに本質が変わる訳ではない。

 ミリは秘密を知っていたし、今日の事を何度もシミュレートして来ていたし、既にミリの性格に織り込み済みとも言えなくもない。


 その筈だ。


 そうは言っても、ミリの気持ちは晴れ晴れとしていた。

 秘密を知っていると言う秘密は、バルが言った様に、誰にも相談出来はしなかった。秘密の秘密をバルとラーラに打ち明けるのにも、これで良いのか不安は残っていたし、その為の念入りなシミュレーションだったのだ。

 それが上手くいったので、ミリは浮かれていた。調子に乗ってしまっていたと言っても良い。



 そんなミリがソファから立ち上がり、まだ感動の冷めないバルとラーラを振り向いた。


「お父様?お母様?」

「なんだい?」

「どうしたの?」

「今年も来年以降も誕生日のプレゼントは要りません」

「え?馬車も良いのかい?」

「はい。その代わりにやはり、弟妹(ていまい)が欲しいです」


 バルとラーラは目を見開いた。言葉は出ない。


 二人とも何度かの深めの呼吸をして、バルがやっと口を開いた。


「て、弟妹って・・・両方かい?」


 残念ながらバルの言葉は、ラーラの気持ちともミリの想定ともずれていたけれど、ミリは少し首を傾げて考えて真面目に答える。


「多い方が嬉しいですけれど、その子もまた弟妹を欲しがるかも知れませんから、私にはまず一人で充分です」


 そう予言の一端の様な事を言って、ミリはニッコリと笑った。



 何度か躊躇(ためら)った後に、ラーラが声を出す。


「あの、ミリ?」

「はい、お母様」

「お父様が赤ちゃんは授かり物だって言ったけれど、何もしなくても授かる訳ではないのよ?」

「はい」

「結婚していれば自然に出来るものでもないの」

「分かっています。男女の営みが必要なのですよね?」

「え?ええ、そうだけれど」

「そんな知識!誰に聞いたんだ!ミリ!」

「断片的な知識を繋ぎ合わせたら、そう言う事なのだろうなと気付きました」


 船員達から教わった内容を話すと、話が拗れるかも知れないのでミリはそう答える。ミリが想像で補っている部分もあるので、丸っきりの嘘ではない。


「え?そんな、ミリ?」

「そう言えばさっきも、意味を知っていると言っていたわよね?」

「はい。人間の具体的な事は知りませんけれど、生き物には生殖活動が必要である事は知っています」


 バルとラーラは顔を見合わせた。


 二人に取っては想定外だ。

 バルがミリの父親ではない事は、いずれミリに話さなければならないと覚悟をしていたし、それは無事に二人の想像以上の最良の形で今日乗り越える事が出来た。

 しかし、バルとラーラが男女の関係ではない夫婦だと、娘のミリに告白する事なんて、想定も何もしていない。


 二人で見詰め合ってもこの場はどうにもならない。

 その通りではあるけれど、ミリを振り向いたラーラの顔には決心は一つも見て取れず、ただ戸惑いだけが浮かんでいた。


「確かにそうよ?確かにそう。でも、お父様と私の間には、赤ちゃんは出来ないの」

「なぜですか?」


 ミリはその理由に、二人と一緒に自分も同じベッドで寝ているからだと、当たりを付けていた。そしてその通りなら、一人で別の部屋で寝る決心をしている。


「私が・・・辱めを受けたと言っていたでしょう?」

「はい」

「その時に犯人から乱暴をされて、私は男性が怖いのよ」

「それは犯罪者に限らず、男性一般が怖いと言う事ですよね?」

「ええ、その通りよ」

「お母様はお父様も怖いのですか?」

「え?いえ、それは」

「お母様に取ってお父様は、特別なのかと思っていましたけれど、お父様も一般なのですか?」

「え?違うわ。お父様は特別よ?特別だけど、そうじゃないの」

「お父様の事は怖くないのですよね?それともやはり、怖いのですか?」

「お父様は怖くないけれど、でも」


 ミリはモジモジしているラーラに猶予を与える為に、バルを向いた。


「お父様に取ってお母様は特別ですか?どうですか?」

「特別だよ。お母様は私に取って特別な女性だ」


 バルが「私」を使っているので、ミリはバルが言葉を作っていると考えた。そしてその、作られたバルの言葉をミリは崩しに掛かる。


「お父様はお母様が怖いですか?」

「直接は怖くないけれど」

「バル?」


 間接的には怖いと聞こえるその言葉に、ラーラはバルを一睨みする。


「お母様を失うのは怖いね」


 ミリにそう言うと、バルはラーラに顔を向けた。


「バル・・・」


 見詰め合う二人をミリは見下ろす。

 甘い雰囲気を醸し始めた二人に対して、ミリは手加減をしない。


「でもお父様はお母様とは、男女の営みを行いたくはないのですよね?」

「え?ミリ?」

「なんて事を口にするの!」


 さっきからこの話題なのだから、口にするも何もない、とミリは思った。バルとラーラが顔を赤くしている理由がミリには分からない。怒りで赤いの?


「それなら異母弟妹でも良いです」

「え?」

「ミリ!」


 バルは立ち上がってミリを睨んだ。

 ラーラは目と口を大きく開き、固まっている。

 ミリはバルを一瞥してから、ラーラを見詰めて続ける。


「もちろん異父弟妹でも」

「な?」

「ミリ!」


 今度はバルが目と口を大きく開き、ラーラが立ち上がってミリを睨む。


 ミリは二人を見上げるのが大変なので、テーブルを回って反対側のソファの後に移動した。

 二人から逃げたとも言える。

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