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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ありがとう

「知っているって、なんで?」


 ラーラは自分でも教える積もりだったのに、ミリが知っている事に顔色を失くした。

 バルはミリの両肩を掴んで、胸からミリの体を引き剥がす。


「誰に言われたんだ?」


 予想以上の二人の反応に、ミリは少し驚く。けれどミリは、今日の事を既に何度もシミュレートしてあった。

 落ち着いた声を作って、ミリは応える。


「面と向かって言われた事はありません」

「陰口を叩かれていたのか?」

「いいえ。色々な話の断片を繋ぎ合わせたら、そう言う事なんだろうなと気付きました。それからも推測を補強する様な話が多かったので、確信していました」


 ミリの両肩から手を放して、バルはミリを抱き締めた。


「・・・済まなかった」

「え?何がですか?お父様?」

「その小さな胸で、こんな秘密を抱えて、誰にも相談できなかったのは、私達がミリに内緒にしていたからだね」

「お父様?ご覧の通り、私は大丈夫でしたよ?」

「それでも、ゴメンな、ミリ」


 シミュレーションにはなかったバルの謝罪に、ミリを抱くバルの腕に手を当てて、ミリは「はい」とだけ答えた。


「ミリはどこまで知っているの?」


 顔色の戻らないラーラが訊く。

 ミリの手を握り締めるラーラの両手に、無意識に力が籠もる。


「ほとんど知っていると思います」


 ミリはバルの腕の中から覗く様にラーラを見て、微笑みながらそう言った。

 そしてミリは自分から、知っている事を説明する。シミュレーションの結果、これが一番誤解が少なく、話も早い筈だった。


「パノ姉様の手紙が犯罪に利用されたのは、お母様の誘拐事件だった事。私が名前を頂いた(かた)はお母様のメイドで、そのお兄さんはお母様の護衛で、二人ともお母様を助ける為に亡くなった事。誘拐犯に辱めを受けたお母様に、承知の上でお父様がプロポーズをなさった事。お母様がお父様との結婚をごねた事」

「ごねたなんて」

「ごねていたじゃないか」

「二人が結婚して私が生まれた事。私の血縁上の父親が誰だか分からなくて、犯罪者の可能性がとても高い事」

「ミリ・・・」


 ラーラはミリの手から片手を放して、自分の口を覆った。


「神殿の信徒に、お母様は悪魔、私は悪魔の子と呼ばれている事」

「あんなヤツラの事は良いんだ」


 バルはラーラの頭を片手で撫でた。

 顔が隠れてラーラが見えなくなったので、ミリはバルの手を少しずらす。


「まだ細かい事はありますけれど、みんなが私に隠していると思える事で、私が知っているのはこの様な感じです」


 ラーラは胸を反らせて鼻で大きく息を吸い、ゆっくりと吐いてから口を開いた。


「辱めの意味も、ミリは知っているの?」

「はい」


 ミリは男女の営みの情報を船員達から仕入れていた。

 ちなみに船員女性達から、避妊に関する知識まで教わっている。


「そう・・・」


 ラーラの顔が歪む。

 ミリはバルの腕から抜け出した。


「お母様」


 ミリはラーラの隣に座ると抱き付いた。


「産んで下さって、ありがとうございました」

「ミリ」


 ラーラはミリを抱き返すと、我慢していた涙が(あふ)れてしまった。


「私の所為でお母様に辛い思いをさせていたと思います。けれど、私は産んで頂けて良かったです」


 ラーラは言葉を出せずに、首を左右に振るだけだった。


 ミリは腕を緩めて、ラーラから体を離し、笑顔をラーラに向けた。


「本当に、ありがとうございます」


 そう言って、ミリは頭を下げた。



 ラーラが少し落ち着いてから、ミリはバルを振り向いた。

 バルは顔をとても(しか)めていた。


「お父様」

「ミリ」


 バルの声が低い。

 ミリは真っ直ぐにバルを見上げる。


「お父様が私を受け入れてくれた事に、とても感謝しています」

「ミリ?」


 ラーラの言葉が固い事に、バルは少し戸惑う。


「お母様と結婚して下さって、ありがとうごさいました」

「そんなの、当たり前だ」


 バルの返しが少しおかしくて、ミリはクスッと笑った。


「お母様に私を産ませてくれて、ありがとうございました」

「当たり前だってば」

「私にお父様と呼ばせて下さって、私を愛して下さって、ありがとうございます」

「当たり前だって言ってるだろう?」

「これからも、お父様と呼んで良いですよね?」

「当たり前だ!ミリの父親は俺だけだ!」

「ありがとう、お父様」


 そう言ってミリはバルに抱き付いた。

 バルはミリを抱き返す。


「俺の方こそ、ミリ。生まれて来てくれて、ありがとう」


 再び涙が流れ始めたラーラが、腕を伸ばして二人を包む。


「二人とも、ありがとう」


 ラーラの声は、か細く震えていたけれど、ミリとバルにはちゃんと聞こえていた。

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