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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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おねだり

「ミリは可愛いよ。ミリが可愛いのだからね?」


 バルの言葉にミリは戸惑う。

 褒めている方は褒めている積もりだったであろうけれど、やはりミリは褒められ慣れてはいないのだ。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」


 バルはそう応えて、笑顔をミリに向けた。

 それに返そうとするミリの笑顔は、少し引き攣れて見えなくもない。


「ミリは賢いわ。これも褒め言葉よ?」

「はい、ありがとうございます」


 振り返って笑顔を向けたミリは、ラーラがイタズラっぽく笑って見えた。



 そんな褒め浴びせをバルとラーラはミリに対して繰り返した。



 ミリとの距離を測りかねていたバルとラーラに取って、今日の会話はとても有意義だった。多少なりともミリの考えに触れる事が出来たと、ラーラもバルも思っていたからだ。

 その為、二人のテンションはいつもより少し高かった。


「さて。そんな可愛いミリの誕生日がもうすぐだよね?」


 バルの弾んだ声に、ミリは「はい」と肯く。


「ミリは何か欲しい物はあるの?」

「何でも良いから、言ってご覧?」


 ラーラとバルの言葉に、ミリがわずかに反応する。

 二人とは違って、ミリはかなり疲れていた。それなので普段なら抑えている望みが、思わず頭に浮かぶ。更にはその考えに戸惑った事が、わずかに(おもて)に現れていた。

 そしてそれをラーラは見逃さなかった。


「なに?何か欲しい物があるのね?」

「そうなのかい?何でも良いから、言ってご覧?」

「いえ」

「いえ?でも、欲しい物があるのでしょう?」

「ドレスとかかい?それとも宝石?いや、アクセサリーかな?」


 ミリは「いいえ」と答えて、首を左右に小さく振る。


「ドレスは頂いても、着ない内に小さくなってしまった物が何着もあります」

「育ち盛りだからね。仕方ないよ。でも、一度は袖を通したじゃないか」

「頂いた時に、試しに着てみただけですよね?それにアクセサリー類も大切にしまってありますけれど、やはり着ける機会がない内に年齢に合わなくなってしまいました」

「そんなの、可愛かったから構わないんだよ」

「でも、折角頂いたのに、もったいないです。大切に使いたかったのに」

「そうか。今度は大人になってからも使えるデザインにしよう」

「大人になってからアクセサリーにする為の宝石も、もう充分に頂いています」

「いくらあっても良いと思うけれど、それならドレスやアクセサリーを身に着ける機会を増やそうか?」


 ラーラがピクリと反応した事に、隣に座っているミリは気が付いた。

 機会を増やすと言うけれど、ミリが参加出来る様なパーティーは行われない。身内の誕生会くらいだ。つまりミリが参加する機会を増やすには、コードナ家でパーティーを主催する必要がある。

 ラーラが社交を行わなくなっているので、今のままだとパノに負担を掛ける事になる。

 それはミリにも分かっていた。


「お父様、それは本末転倒です。私はアクセサリーもドレスも欲しいとは思っていません」

「それなら、ミリは何が欲しいの?」


 パーティー主催を避けたいラーラは、ミリの欲しい物を考えてみる。


「新しい乗馬服とかは?」

「そう言うのは普段も作らせているじゃないか?」

「そうね。新しい馬車とか?」

「それは良いな。どうだい?ミリ?」

「はい」

「それほど欲しくないの?」

「いいえ。馬車が良いです」

「だけど馬車だと誕生日に間に合わないか」

「そうね。これからだと誕生日には、設計図が出来上がっているかどうかね」

「あ、今年は設計図を頂いて、来年の誕生日に馬車を頂きます」

「と言う事はミリは、馬車もあまり欲しくないんだね?」

「いえ、そんな事はありません」

「他に欲しい物があるのかい?」

「いいえ、特には」

「ミリは本当に、宝石もアクセサリーもドレスも要らないし、馬車も欲しい訳ではないのね?」

「それは」

「正直に言いなさい」

「・・・はい。特には・・・」

「つまり他に欲しい物があるけれど、それは私達に言えない物なのね?」

「え?ミリ?そうなのかい?」

「あ、いえ」

「言える?」

「危ない物かい?」

「あ、いえ」

「違法な物ではないよね?」

「違います違います!」

「もしかして・・・」


 バルはミリの耳に顔を近付けて、小声で尋ねた。


「玉座?」

「え?!絶対違います!危ないじゃないですか!」

「あっはは。良かった。ミリが欲しがったらどうしようかと思ったよ」


 バルがテンション高く笑い声を上げる。

 バルのテンションに付いていけなくて困っているミリの隣で、ラーラはミリの欲しがりそうな物を考えていた。


「もしかして、ミリの欲しい物は許可とか?」

「え?許可?許可って何の?」

「例えば行商を日帰りではなく、王都から離れた所まで行きたい、とか?」

「それはミリが自分で断ったじゃないか?」

「そうね。大勢の護衛を付けたら人件費や宿泊費が嵩んで、収支が赤字になるもの。だからソウサ商会がやるように、護衛に付くのは一人だけで行商したいとか?」

「そんなのはダメだ」

「そうやってバルが反対するから、ミリが言い出せないんじゃないの?」

「あ、いや、でも」

「ねえ、ミリ?お父様や私が反対するから、言えないの?」

「いえ、別に欲しい物もやりたい事もありません」


 ミリの答にバルのテンションが下がる。

 折角近付いたと思ったミリとの心に、また距離を感じて、ラーラも小さく息を吐く。しかし、諦めない。


「さっき、違法ではないってミリは言ったわよね?つまりミリの頭には、欲しい物が浮かんでいるのでしょう?」

「それは・・・」

「それは?」

「・・・そうですけれど・・・」

「そうなのね?それならそれを私達に教えてちょうだい?ねえミリ?」

「何が欲しいんだい?」


 バルは、ミリが欲しがっているのは、小さい子が欲しがる様な物かも知れないと思った。それなので恥ずかしがって、口に出来ないのではないかと考えた。

 ラーラは、やはり何らかの許可かしら?と思う。港町でのミリの様子を聞くに、もしかしたら船で他国まで旅をしたいのかも知れない、との考えがラーラの頭に浮かぶ。


「何でも構わないから、私達に言ってご覧?」

「お願い。ミリの望みを私達に教えて?」


 ミリはバルとラーラに、褒める事に関して気を遣わせる事になって、負い目を感じていた。

 それなので、思っている事を伝えて、二人に更に負担を掛けたくなかった。


「でも、誕生日には間に合わないと思いますし」

「構わないよ」

「やっぱり、欲しい物があるのね?」

「教えてご覧よ?」

「どんな物が欲しいの?」


 負担を掛けたくはなかったけれど、しかしミリは疲れている。

 今日のパサンドとの遣り取りも、その後のメイドの処遇に付いても気を使った。その上、帰って来てからのバルとラーラとの遣り取りで、もうクタクタだった。

 それなので、良い誤魔化し方も、あるいは言い訳も、他に欲しい物も、何も思い付かなかった。


 その疲れは、ミリの心のハードルも下げた。

 普段なら絶対に言わない望みが、ミリの口から零れる。


「私・・・兄弟が欲しいです」


 とにかくこの場を早く終わらせたかったのもある。

 こんな事を言ってしまったら、簡単に終わる筈はないのだけれど。

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