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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
15/640

15 惨めな思い

 男の子が気になる女の子にちょっかいを出す深みの(ふち)に、バルは立っている。

 バルにとってこの深みは、これまでに良く嵌まった事のある馴染みのものだ。

 しかし、もう少し言いたい事がバルにはあって、今は嵌まらずに迂回しそうだった。


「小さな頃から知っている友人もいるけれど、止まらないほど笑い合った事はないな」

「それは?」

「そう言う経験は、姉上や兄上達とだけだったよ。らしいらしくないよりこっちの方が、もっと気を許している相手に限りそうだ。俺にはね」

「ご兄弟は仲が良いんですよね?」

「鬱陶しかったり邪魔だったりしても仲が良いと言って良いなら、まあそうだね」

「私もそうかな。親しいか親しくないかの二択で親しいと言える人といた時にしか、笑いが止まらなくなった事はないですね」

「その二択、嫌味を言う積もりで実は、気に入っているだろう?」

「嫌味を言う積もりなんてないけど、ちょっと気に入っています。でも親しいは分かり易いけど、親しくないは人材豊富です。親しくない方には苦手な人だけでなく、好きな人も入るから」

「う~ん、やっぱりちょっと、ラーラの感じ方は難しいな」

「変な事、言いました?」

「いや。らしいらしくないで言えばラーラらしいけれど、人材豊富なんて使うとか、何を言うのかの想像の範囲外だったから」

「それはバルもだけど、お互いをまだ良く知らないんだから、仕方ないんじゃないです?」

「え?まだ良く知らないかな?」

「当然家族の事よりは知らないでしょう?同じ様に親しい相手だとしても」

「そうか。それはそうだな」


 バルは姿勢を崩し、後に両手を付いた。


「俺、ここで何回もリリにアプローチしてたけれど、ここに来て思い出すのは最初に振られた時の事だったんだ」

「え?え~と、はい。そうですか」


 突然の話題転換に、ラーラは戸惑った。バルの方こそ何を言い出すのか、内容が想定外だと思う。


「最初が一番惨めだったな」

「え?最初が?もしかして今も、振られるのは惨めに感じるんですか?」

「当たり前だろう?」

「当たり前?惨めなのにアプローチし続けているんですか?」

「好きなんだから、仕方ないじゃないか」

「惨めなのが?」

「え?何が?あ!いやいや違うから。好きなのはリリの事だぞ?」

「はあ、そうなんですね。ごめんなさい」

「ああいや、勘違いに驚いただけで、謝る程じゃないよ」

「あ、いいえ。コーカデス様を好きなのはもちろん知っていましたけど、断られても何とも思わないんだろうと思っていました」

「そんな訳ないだろう?真剣にやっていれば失敗は辛いさ」

「その真剣にやっているって言うのを知らなかったので、申し訳なく思います。友人として恥ずかしいです」

「そんな、お互いにまだ良く知らないんだろう?でも、ふざけて見えていたのか?」

「見た事はないので、聞いた話を信じていました。TPOを考えずにコーカデス様にアタックして振られて、その上コーカデス様が見ている前で他のご令嬢に声を掛けて振られているって」

「う、まあ、でも、俺は真剣にアプローチしている積もりなんだけれどな」

「そうなのですね。私が聞いたのは、バルが惨めな思いを感じる暇も無さそうなほど節操がない話だったので、勘違いしていました」


 バルは眉間に皺を寄せ、どこを見るとはなく前を睨んだ。


「そう言えば私が交際を申し込まれた時、バルは真剣だったんですか?それなら生きた知識があった筈なのに、思い込んだままでした。申し訳ありません」

「あ、いや、そう謝られたりすると、あれなんだけれど」

「あれとは?私に交際を申し込む時、真剣でした?」

「まあなんだ、緊張感はあったよ」

「そう・・・真剣だったと言い切らないのは正直で、バルらしいです」


 そう言ってラーラは困った様に眉尻を下げた。


「あれ?妥協した?」

「いいえ。私が持っているバルのイメージを修正しなくて済んで、良かったです」

「何だろう?いたたまれない」

「バルは私とかなり正直に付き合ってくれていると思っているので、それに付いては点数が上がりました。異性としての総合評価は下がったけど」

「それは仕方ないけれど、過去の事だぞ?今なら違うのに総合評価が下がるのか?」

「では取って置きます。次にまた総合評価が下がる様な事があったら、その時にまとめて計算します」

「それなら挽回しなくては」

「ふふ。大丈夫。練習で克服しましょう。それに下がったのは異性としての評価で、正直に接してくれるのは友人としては嬉しいです」

「だってラーラに嘘をついたら、練習課題の正確な結果評価に繋がらないだろう?」

「その通りですけど、その発言自体が異性評価マイナスです」

「ああ。分かってて言ったさ」

「身も蓋もない言い方ですし、でもやっぱり少し、なんとなく嬉しいんですよね」

「それもなんとなく分かっていた」


 二人とも遠くを眺めながら、苦笑いを浮かべた。


「話を逸らしてしまいましたが、何を言おうとしていました?」

「メイドがお転婆でブラコンの件?」


 二人が振り向くと、コードナ侯爵家の侍従は素知らぬ顔をしていて、ソウサ家のメイドは無表情でスッと視線をバルからラーラへと移した。


「アプローチを断られるのが惨めに感じるんですよね?」

「ああ、それだったな。何だっけ?」

「交際練習の成果で、アプローチが上手くなったとか?」

「いや、全然」

「まだ効果が出ませんか。まあまだこれからですよね」

「いや、全然アプローチしていない。リリにも他の令嬢にも」

「それ、大丈夫ですか?なんでアプローチしていないんです?」

「それはその、成功させられる様になってから、一度で決めたいと思って」

「練習より実戦の方が経験値が上がりますよ?練習は所詮、想像を元にしているだけだし」

「そうだよな。でもリリ以外には声を掛ける気はもう無くて、本気で挑むのはリリだけにしようと思うんだ」

「それには大賛成です」

「そう思うと、中途半端に声を掛けるのが躊躇われて」

「もしかして今までのコーカデス様に対してのアプローチは、中途半端な気持ちだったんですか?さっき真剣にしていると言っていませんでした?」

「あ、えーと」

「バル。ふざけてされたアプローチに真剣に応える人なんていないと私は思うけど、どうです?」

「ふざけてはいない。OKされたら付き合う積もりだった」

「あれ?それって、コーカデス様以外の方とでも?」

「もちろん」

「私とも?」

「それは、ああ」

「私が本気になっても、平民だからバルは遊びで付き合う積もりだった?」

「違う。そんな積もりではなかった」

「そうですよね。今はバルが私を(もてあそ)ぶ気で声を掛けたとは思っていません。でも私が本気になっていたら、きっとバルは困っていましたよね?」

「うっ」

「バルの事をそれくらいには理解しましたから。でもこの状況はバルにとって拙いかも。バルと私の交際練習について、コーカデス様にはちゃんと伝えていますか?」

「教室でクラスメイトに色々訊かれて答えているから、知ってはいると思うけれど」

「その場にコーカデス様もいらっしゃるのですね?」

「いや、いないけれど、パノが伝えているはず」

「コーハナル様はその場にいらっしゃるんですか?」

「いない時もあるかも知れないが、パノから俺に訊いてくる事もあるし」

「う~ん、コーカデス様が直接聞いていないって言うのは、望みが持てるのかな?」

「望みって?」

「コーカデス様がバルに好意を持っていたら、バルと私が練習とは言え交際しているのは面白くないでしょう?話なんて聞きたくないと思います」

「ホントか?!確かにそうだな!」

「全くこれっぽっちもバルに興味がない場合も、話なんて聞きたくないでしょうけど」

「え?」

「大丈夫です。その場合も、バルと私の話を他人事への興味で訊いてくる方達よりは、望みがあるかも知れません。多分」

「そこは言い切ってくれよ」

「こう言う恋愛に絡む話は、聞いたり読んだりしただけですから。断言出来るくらいなら、交際練習をしていないかも」


 肩を(すく)めるラーラを見て、バルは困惑した。

 バルにとってこの交際練習はラーラが頼りだ。少なくとも女心の解説に関しては、ラーラに任せっきりだ。

 それなのにラーラにはあまり恋愛経験がなさそうな事が分かった。


 しかし、とバルは思う。

 どっちにしろ自分には女心なんて上手く想像する事が出来ないのだから、ラーラを信じるしかない。少なくとも今の所、ラーラがしてくれる女心周りの考察は合っている気がする。もしラーラの言う事が違っていれば、いつも一緒にいるメイドが何らかの指摘を暗に陽にしている筈だ。


 うんうん、と頷いたところで、バルは思い付く。

 もしメイドが恋愛音痴なら、指摘を受けたラーラもそうなっていないだろうか?


 後ろに控えるソウサ家のメイドの様子を肩越しに伺ったが、見た目では恋愛巧者か恋愛音痴かの区別がバルには付かなかった。

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