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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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褒める気

「褒められた記憶がないって、どう言う事だい?」


 バルの質問にミリは答え倦ねる。


「あの、お父様が私に答えさせたいのは、記憶がない理由でしょうか?」

「ああ、そうだよ」

「バル?記憶がない理由が分かるくらいなら、記憶がなくはないのではない?」


 少し呆れた口調のラーラの言葉に、バルは小首を傾げた。

 そのバルを放って、ラーラはミリに尋ねる。


「私が褒めた事も記憶にない?」

「それは、その」


 ミリはラーラを見た後に、視線を下げた。


「ミリ。本当の事を言いなさい」

「申し訳ありません。記憶にありません」


 そう答えながら、ミリは頭を下げる。


「謝らなくて良いのよ?あなたが悪い訳ではないわ」

「・・・はい」


 ミリは頭を上げたけれど、顔は上げなかった。


「でも髪型を褒めたり、服装を褒めたりしていたとは思うのだけれど?」


 その言葉にミリはラーラを向く。


「はい。今朝もお母様は私の髪型を褒めていらっしゃいました」

「そうよね?」

「今朝なら私もミリの服装を褒めたよね?」


 ミリはバルを振り向いた。


「はい。その通りです」

「それは、今思い出したと言う事かい?」

「あの、いいえ。私の服装をお父様が褒めていらっしゃったのは、覚えています」

「え?どう言う事だい?」


 バルの言葉が詰問口調になり、ラーラは少し眉を寄せる。

 ミリは少し早口で、バルに向けて答えた。


「ですので、今日の服を選んでくれたメイドには、お父様が褒めて下さっていた事をちゃんと伝えました。髪をセットしてくれた侍女にも、お母様が褒めて下さった事は伝えてあります」


 ミリは後半はラーラを振り向いて伝えた。


 バルは眉間に皺を寄せて、「うん?」と首を傾げる。

 ラーラは肩を落として「そう言う事」と呟いた。


「ミリ?」

「はい、お母様」

「私は髪型が素敵なあなたを褒めたのよ」

「・・・はい」


 ミリの表情を見て、ラーラは小さく苦笑いをする。


「分かってなさそうね。お父様も、今日の装いを褒めたのではなく、今日の装いが似合うミリを褒めたの。ねえ?バル?」


 バルは「ああ」と大きく肯いた。


「もちろんだよ。私はミリを褒めたんだ」

「・・・はい」


 ミリは、今日の髪型も素敵ね、と言うラーラの言葉と、今日も可愛い服が良く似合うよ、と言うバルの言葉を思い出していた。

 しかしどちらも、素敵なのは髪型だし、可愛いのは服だ。良く似合うの「良く」が褒めている事なのだろうか?そうだとしても、髪型の方はどこが?

 ミリは「はい」と言いながらも、その点を二人に追究して良いのかどうか悩んでいた。このままだと今後も二人が褒めた積もりでも、自分は気付かないかも知れない、と考えてミリは困る。


「私が服を褒めた時も、お母様が髪を褒めた時も、ミリはお礼を言っていたけれどね」

「それは、あの、服装やアクセサリーを褒められたら、お礼を言う様にと習いましたので」

「そうか・・・」

「・・・そう言う事なのね」


 バルは上半身ごと首を傾け、ラーラは視線を下げて顎に拳を当てた。



 バルは一つ溜め息を吐いて、「そう言えば」と口にする。


「俺はコードナの祖母様(ばあさま)に褒めて貰った覚えがないのだけれど、もしかしたら、そう言うところがミリにも影響しているのかも知れないな」

「そう言えば私も、ソウサのお祖母ちゃんに、褒めて貰った事、ないな」


 ラーラもそう言って、小さく息を吐いた。


「コーハナルのピナ様も厳しそうだよな」

「そうね。お養母様(かあさま)にも褒めて頂いた事はないかも。私を急ぎ教える事で、精一杯だったとは思うけれど」


 そう言いながらラーラはミリの髪を撫でる。


「ミリを教える三人共か」


 ミリとラーラの様子を見てそう言いながら、バルはまた小首を傾げた。


「ミリ?」

「はい、お父様」

「ソウサのお祖父様や伯父様達はミリを褒めているよね?」

「ソウサの、ですか?」

「あれ?褒めてない?どう?ラーラ?」

「私と親子や兄妹だから、私と同じ様な褒め方なのかも知れないわ」

「そうか。そう言う事もあるか」


 バルとラーラが納得した様で、ミリはホッとした。


 ソウサ家の男性達にミリは「天使」と呼ばれている。ミリは一瞬、それが褒め言葉だったのかと思った。

 けれど、神殿関係者がミリを「悪魔の子」と呼ぶ事に対抗する為の呼び掛けだと思っていたので、口にする事をミリは躊躇した。ミリが「悪魔の子」と呼ばれている事をミリは知らないと、バルとラーラが思っている事をミリは知っているからだ。

 天使にも悪魔にも言及しないで済んで良かった、とミリは思った。



「ミリ?」

「はい、お母様」

「お父様も私も、ミリを愛しているのは信じて貰える?」

「はい。お二人にも、他の皆様達にも、大切にして頂いている事は分かっています」

「そう。良かった」


 ラーラはそう言って、心から微笑んだ。

 寄り添う母娘の様子を見て、バルも顔を綻ばせる。


「これからはミリを積極的に褒めるよ」

「そうね。ちゃんと伝わる様な言葉を選ぶわね?」

「え?あ、はい」


 ミリは、やはり二人に気を遣わせてしまう事になって、申し訳なく思った。

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