しつこい
「強引だった私達の結婚だって、みんなが賛成してくれたから、こうやって暮らしていけるのでしょう?とにかく私の考えをミリに伝えさせて」
ラーラはそう言うとミリの体を引き寄せた。
「ミリ?」
「はい、お母様」
「私はあなたに味方をする。でもその為にはあなたが何を望むのか、知らないとならないでしょう?」
「それは、はい」
「今は結婚なんて考えられないのよね?」
「はい」
「でも結婚したくないとも思っていないのよね?」
「それは、お父様のご命令に従おうと思っています」
「ご命令って、お父様と私とで、言う事が違ったら、どうするの?」
「お父様のご命令に従います」
「なぜ?」
「え?なぜ?」
「あなたは自分で考える事が出来るでしょう?それなのにお父様の命令に従うと言うのはなぜなの?」
「それは、お母様の命令に従わないのはなぜか、と言う質問ですか?」
「いいえ、違うわ。自分の事なのに、なぜ自分で考えないの?」
「それは、でも、私はお父様が働いて稼いだお金で育てて頂きましたし、お父様は貴族ですので、ご命令に従うべきだと考えるからです」
「私は平民の出だから、私の命令はきかないって言う事?」
やっぱりそれが訊きたいのよね?とミリは思った。
「お父様とお母様のご命令が矛盾するなら、お父様のご命令に従いますけれど、そうでなければお母様のご命令に従います」
「ミリは自分では考えないって事?」
「お父様のご命令に従うと言うのは、私の考えです」
「違うでしょ?自分の人生なのよ?」
「私の人生でも、私が好き勝手には決められません」
「だからその好き勝手を教えてって言っているの」
「でも私がお父様のご命令に従うって言う事さえ、お母様は許さないのですよね?」
「そうじゃないの。そうじゃないのよ」
ラーラはミリの頭を抱いた。
「バル。ミリの考えは正しいと思う?」
「え?いや、だけど」
「バルは自分の言う通りになるミリを望んでいるのよね?」
「いや、違う」
ラーラはミリの頭を放す。
「ミリ?」
「はい、お母様」
「お父様がミリの好きに生きろって言ったら、あなたはそうするの?」
「お母様?」
「どうなの?」
「お母様はお父様が間違えているとお考えなのですか?」
「そうではないけれど」
「私はお父様もお母様も、私の為の最善を選んで下さると思っています」
「もちろんその積もりだけれど、あなたが一所懸命学んでいるのは何の為なの?自分で考える為では無いの?」
「自分で考えた時に間違えない為に、色々と学ばされているのだと思っています」
「学ばされている?学ばされなければ、自分では学ばないって事?」
「学ぶと思いますし、学ばされていると言いましたけれど、私に必要な事を皆様が与えて下さっていると思っています。学ぶ機会さえ与えられない子供もいますから、私は幸せだと思っています」
「ミリ。それはあなたの考え?それとも私やお父様を喜ばせる為にそう言っているの?」
「私の考えですけれど、それはそれとして、お父様にもお母様にも喜んで頂きたいとは思っています。本当です」
そう言って見上げてくるミリから、ラーラは目を逸らしてバルを見た。
「バル?どう思う?」
「・・・うん」
「うんって何よ?」
「ミリ?」
ミリはバルを振り向いた。
「はい、お父様」
「ミリが私やお母様を喜ばそうと思っているのは信じるよ」
またバルが自分を「私」と言っているから、言葉を作っているとミリは思ったけれど、ミリは小さく肯いた。
「はい。ありがとうございます」
「私もよ?それは私も信じているわよ?ミリ?」
ミリはラーラを振り向く。
「ありがとうございます、お母様」
「それでね、ミリ?」
ミリはまたバルを振り向いた。
「はい、お父様」
「ミリがそう考えてくれるのも嬉しい。ラーラもだよね?」
ミリはまたラーラを振り向く。
「ええ。私も嬉しいわよ?」
「はい」
「でも、私達の命令を全て、何でもかんでも言う事をきいて欲しい訳ではないんだ」
またまたミリはバルを振り向いた。
「それは、絶対と言われた命令だけ言う事をきく、とかでしょうか?」
「いいや、そうじゃなくて、私もお母様もミリも、人間だから間違える時がある」
「はい」
「その時に命令だからって、ただ言う事をきいていたらダメだろう?」
「ですがその時でさえ、お父様もお母様も私の為に良かれと思って命令なさるのですよね?」
そう言ってミリはバルから視線をラーラに一旦移して、またバルを見る。
「それはそうだよ。もちろん、それはそうなんだけれどね?でも、ミリが知っている情報を私が知らなくて、知らないからこそ間違える事もあるだろう?」
「はい」
「そう言う時には、間違った命令をするかも知れないじゃないか?」
「それは、お父様が知らない情報があれば、私が気付いてお伝えしますから、問題ありません」
「そうだけど、うん、そうだよね?そうなんだけれどね?」
「はい」
「じゃあ例えば、さっきお母様が言っていたみたいに、私もお母様も周りのみんなも、ミリの好きに生きなさいと命令したらどうする?」
「今まで通りに生きます」
「あ、うん。そうか。それでは、結婚してもしなくても良いって言われたら?」
「しません」
「う~ん、それはミリは結婚したくないからかい?今、していないから、今まで通りと言う事かい?」
「お父様が私の結婚を望まないからです」
「いや、そうだけれど、ミリがどうしたいのかが知りたいんだよ」
「お父様とお母様が望む様にしたいと思います」
「好きに生きて良いんだよ?」
「はい。なので、お父様とお母様の望む様にしても良いのですよね?」
「そうだね」
バルは肩を落として苦笑いを浮かべ、視線をミリからラーラに移すと、眉尻を下げた。
ラーラも同じ表情をしていたけれど、小さく肯いてミリに向く。
「ミリ?」
「はい、お母様」
「私の命令もきくのよね?」
「はい」
「それでは命令です。パサンドと結婚した時のミリのメリットを教えなさい」
「え、でも」
「誤魔化しは無しで」
ミリはラーラがまだ忘れていなかった事に、やっぱりしつこい、と思った。




