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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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好みの推理

 降参したのだから、ミリはもう放っておいて欲しかった。

 しかしバルとラーラには、一所懸命に何かを堪えている様子のミリを放っておくなど出来なかった。


 降参したら、それで終わる筈などない。

 だからこそ皆が、降参しない様にとミリを教育したのだ。



「えーと、ミリ?」

「はい」

「ミリは結婚してもしなくても、良いのよね?」


 ラーラが話を少し前の質問に戻す。

 ここが分岐点だとラーラが考えている、とミリは思ったけれど、では何と答えたら良いのか、ミリには分からない。


「分かりません」

「え?さっきは、してもしなくても良いって答えたわよね?」

「申し訳ありません」

「申し訳ないって、つまり、ミリは何が言いたかったんだい?」


 バルが新たな分岐を作る。自由記述型だ。


「分かりません」


 ミリにはその分岐の先の、自分なりの正解さえ出す事が出来ない。


「ミリはパサンドと結婚したいのかい?」

「分かりません」

「え?分からないって、なんで?」

「申し訳ありません」

「あ、いや、謝らなくても良いからね?」

「申し訳ありません」

「謝らなくても良いのだってば」

「済みません」

「謝ってるじゃないか」

「ごめんなさい」


 バルは溜め息を吐いた。

 ラーラが質す。


「ミリはパサンドとの結婚に、ミリに取ってのメリットがあるって言ったわよね?」

「申し訳ありません」

「そのメリットって何?」

「分かりません」

「メリットはないって事?」

「分かりません」

「何なら分かる?」

「分かりません」

「私達には話したくないって事?」

「ラーラ」

「え?なに?ミリにだって話したく無い事はあるでしょう?」

「はいって言われたら、何も訊けなくなるじゃないか」

「何もではないわ。話せる事だけ話して貰えれば良いじゃないの」

「それなら質問が悪い」

「どこがよ?」

「さっきの訊き方だと、我々と一切話したくないと言う答えになってしまう」

「そんな訳ないでしょう?」

「いや、少し休憩しよう」


 そう言うとバルは立ち上がって居室のドアを開け、使用人にお茶の用意を頼んだ。

 それを見てラーラが「もう」と呟いたのが、ミリの耳に届く。


 ミリは、まだ続くのか、とぼんやり思った。

 降参してからのミリは、ほとんど何も考えていなかった。

 ただ、早く終わる事だけを望んでいた。

 しかし終わらせ方は分からない。少なくともミリには終わらせる事が出来そうにない。

 時間切れを狙っても、明日も続くかも知れないと思うと、当てには出来ない。



 お茶と一緒に、バルが新しく監修したスイーツの試作品が並べられた。

 バルに薦められて、ラーラもミリも試作品を口にする。

 値段をいくらにしたら良いかバルに訊かれ、ミリとラーラがそれぞれ値付けをした。


 スイーツそれぞれには、依頼主が決めている販売予定金額がある。バルはその金額に見合う様なスイーツを提案するのだ。

 二人の値付けが予定の金額より高い物は、ほとんどの場合で販売される。実際の販売価格も、ミリやラーラが付けた値段近くに変更される。

 予定の金額より低い物はやり直す事が多い。二人が付けた値段で売れば利益が出ないし、予定の値段で売ってもそれほど売れないからだ。

 バルにスイーツの監修を任せると、味はもちろんだけれど、ラーラとミリの値付け金額から売れるかどうかの予想も立てられる。それによって失敗が減るので、依頼者にはとてもありがたがられていた。


 ミリは自分の付けた値段が、どれもラーラとほとんど変わらなかったので、ホッとしていた。



 ミリの雰囲気が柔らかくなったのを感じて、ラーラが話し掛ける。


「今日のお父様のお菓子で、ミリは好きなのがある?」

「みんな好きです」

「そうか!」


 バルはミリの答に喜んだ。

 ラーラもミリが「分からない」以外を答えたので、狙いが上手く行って喜ぶ。


「どれが一番好きかな?」

「分かりません」


 バルの質問にはミリがそう答えたけれど、ラーラは慌てなかった。


「私が一番好きなのはどれか分かる?」

「お母様がこの中で一番好きなのは、これではありませんか?」

「ええ、その通り。当たりよ」


 ミリが人の事を良く見ているとラーラは分かっていたから、ミリ自身の事は分からないと言っていても、ラーラに付いてならミリはちゃんと答えるとラーラは考えていた。

 ミリの答はラーラの想定通りだ。


「実はこれは、お母様の好みを意識して作らせたんだよ」

「やはりそうなのですね。良かったですね、お父様」

「ああ、良かった。ミリも良くお母様の好みを当てたね」

「はい。私も当たって良かったです」

「それではミリ、お父様がミリの好みを意識して作らせたのはどれか、私が当てられると思う?」

「そうですね・・・」


 ラーラの質問に、ミリはスイーツを見てバルを見て、もう一度スイーツを見て今度はラーラを見た。


「・・・多分」

「理由も思い付く?」


 ラーラはバルが口を挟まない様に、食い気味に早口でミリに尋ねた。


「はい」

「どれと思うか、理由も一緒に教えて」

「はい。お父様の考え出すお菓子には、ターゲットが男性の物と女性の物がありますし、大人向けと子供向けがあります。しかし若い頃と歳を取ってからでは好みも変わるそうですから、大人向けは年代を更に分けていると思います。それなので、お母様の年代の女性をターゲットにした物は、まさにお母様の好みに当て嵌まる物をお父様は作っています。そして女の子と言えばお父様は、身近な私をまず思い浮かべると思います。しかし女の子向けのお菓子をすべて私の好みで作ったら、買う人が偏りますから、お父様はその様な事をなさいません。その事はお母様も当然ご存知です。そしてお母様は私の好みもご存知です」


 そう言うとミリはスイーツの中の一つを指差した。


「ですのでお母様は、お父様が私の好みを意識して作らせたのはこれだと考えると思います」

「ふふ、当たりよ」

「凄いぞミリ。その通りだ」


 バルはミリの頭をクシャクシャと撫でた。

 ミリとバルが笑顔を向け合う。


 その様子を見て微笑むラーラは、心底ホッとしていた。

 しかし、ラーラの目指すゴールは、まだ先だった。

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