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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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メリット、デメリット

 一瞬真っ白になっても、ミリの思考は直ぐに立ち直った。

 三夫人、曾祖母と義曾祖母と養祖母を中心とした教育の賜物だ。


 結婚の理由にコードナ家やソウサ商会が出て来るのは何故か?

 父バルからの質問に、自分らしくない答をミリは探す。


 コードナ家が出て来るのは、貴族の結婚は家と家の結び付きだから。しかし自分は平民になり、貴族ではなくなる。

 そうすると税金で育てられた恩を返す?いや、コードナ侯爵家なら領地からの収入があるけれど、我が家はない。父親のバルはコードナ侯爵領の税収で育てられたけれど、その分を自分が返す?

 いや、なんか違う気がするし、良く分からないから、後回し。


 ソウサ商会が出て来るのは、母ラーラの実家が行っている事業だから?

 結局、ラーラが育った分を返すとかくらいしか思い付かない。

 これもなんか納得がいかない。


 そう言えば、今自分が教育を受けているコードナ侯爵家にもコーハナル侯爵家にもソウサ家にも、授業料は支払っていない。

 その事を言えば良い?でもどんな文脈で?


 いや、違う気がしたり、納得がいかなかったりする答こそ、自分らしくない答なのでは?



 そんな(ふう)に、思考はしても迷いに迷っているミリは、パノが戻って来た事で、思考の渦巻きから意識を抜け出させた。



「話を訊いてきたわ」

「パノ、ありがとう」

「どうだった?」


 入室したパノにラーラとバルが声を掛ける。

 パノはソファの脇に立ったまま話し始めた。


「あのメイド、パサンドにこの家の情報を流していたのですって」

「え?まさか?本当に?」

「この短時間で、良く訊き出したな?」

「多少揺さ振りはしたけれど、でもこうなったらダンさんに任せて、全部白状させて貰った方が良いわよね?」

「父に?」

「ええ」

「そうね。あのメイドはソウサ商会経由で紹介されたのだし、ソウサ家に責任を取って貰いましょうか」

「何かの企みがあるのなら、責任を取るのはパサンドでしょう?」

「もちろん両者よ」


 ラーラの表情が少し険しい。


「では早速、父のところにメイドを連れて行くわ」


 ラーラは険しい表情のまま、ソファから立ち上がった。


「いいえ、ソウサ商会には私が行くわ」


 パノが手でラーラを制する。


「ソウサ家の責任なのに、パノにお願いするのは悪いわ」

「じゃあ俺がお義父(とう)さんのところに行こう」


 そう言ってバルも立ち上がる。

 そのバルもパノは手で制した。


「序でがあるから私が行くわよ」

「え?ソウサ商会に用事?」

「ううん、実家。ソウサ商会からの報告は、この家にして頂けば良いわよね?」

「あ、ええ。それでお願い」

「了解よ」

「あの、パノ、よろしくお願いします」

「パノ姉様、手間を掛けさせてごめんなさい」

「ええ。ミリは気にしなくて良いわよ。行って来ます。泊まって来るから食事も要らないから」


 そう言うとパノは片手を上げながら、居室を出て行った。


 それを見送って、バルとラーラは再びミリの両脇に腰を下ろす。


「どこまで話していたかな?」


 バルの呟きにミリが答える。


「私の結婚の理由に、なぜコードナ侯爵家とソウサ商会が出て来るのか、お父様に質問されたところです」

「ああ、そうか」


 そう返しながらバルは、自分で質問しておきながら、それほどおかしくもない事に思い至る。

 結婚では家同士が繋がるのだから、ミリを通して両家との繋がりが出来るのは普通だ。

 それなのになぜその様な質問をしたのか、バルは思い出そうとする。


 しかしバルが思い出す前にミリは、見付けていた自分らしくない答を口にした。


「結婚相手の力を使って、コードナ侯爵家の権力とソウサ商会の財力を利用する事が出来るから、でしょうか?」


 そう言ってミリがバルの顔を見上げると、バルは「え?」と驚いている。

 ミリが振り向くと、ラーラは眉尻を下げて悲しそうな顔をしていた。


 この答も二人を満足させなかった事に消沈して、ミリは俯く。

 けれどまた直ぐに顔を上げた。


「この国を中心とした経済圏の掌握が、コードナ侯爵家とソウサ商会を陰から支配する事で実現出来るから、ではないでしょうか?」


 言ってはみたものの、ミリは自分の発言に自信はない。

 自分らしくない考えに少しの共感も出来ず、支配と掌握をやれと言われてもやりたくないし、出来そうにもなく思えた。


 二人の顔を見なくてもバルとラーラが納得してはいない事を感じ取って、他に何かないかとミリはまた考える。

 その思考をラーラの呼び掛けが中断した。


「ミリ?」

「はい」

「パサンドとの結婚のメリットって、誰に取って?」

「誰に・・・コードナ家でしょうか?コードナ侯爵家ではなく、この家だと思います」

「あなたではないの?」

「そうですね。お父様のメリットです」

「え?私かい?」

「はい。ですがもしかしたら、お父様はお母様のメリットを考えているのかも知れません」

「私?」

「はい。お父様にはお母様が、ご自身より大切なのだと思います。ですので我が家のメリットと」

「そうね。お父様は私の事を大切にして下さっているわ。でもあなたの結婚の話でなぜ、お父様のメリットがまず出て来るの?」

「お父様が私とパサンドさんとの結婚を許可するなら、お父様に取ってメリットがある筈ですから」

「あなたに取っては?」

「パサンドさんとの結婚のメリットですか?」

「ええ。もちろん。あなたにはメリットがあるの?」

「はい」

「でもあなたは、結婚してもしなくても、どちらでも良さそうに見えるけれど?」

「そうですね」

「メリットがあるけれど、結婚しなくても良いの?」

「お父様が許可しなければ、結婚出来ませんし」

「お父様が許可したら結婚するの?」

「はい」

「それはお父様にメリットがあるから?」

「はい」

「お父様にメリットがあれば、あなたにはメリットがなくても、あるいはデメリットばかりでも、結婚するの?」

「はい」

「そんな・・・」

「あ、でも、結婚のデメリットを分からずに答えてしまいました。結婚のデメリットってなんですか?」

「それは、場合によっては色々とあるけれど」

「そうなのですね。分かりました」

「え?どんなものか分からないままで良いの?」

「考えてみると、分かっても分からなくても、結婚するしかありませんので、一緒ですから」


 言葉の出なかったバルが口を挟む。


「私が結婚しろと言ったら、ミリは結婚するのかい?」

「はい」

「自分では考えないって事かい?」

「いいえ。デメリットが何か分かり次第、対策は考えます」

「いや、そうではなくて」

「はい」


 口を挟んだのは良いけれど、バルはまた直ぐに言葉を失った。


 ミリは自分の答がまた間違ったのだと思う。

 けれど、バルとラーラに気に入られる答を見付けるよりは、結婚のデメリットに対処する方が簡単そうにミリには思えた。

 根拠はないけれど。

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