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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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私らしくない答

 ミリとラーラとパノが待つ居室に、ベルが入って来た。


「どうだった?」


 ラーラがミリを膝から下ろして座る位置をずらしながら、バルに尋ねる。

 バルはラーラと同じソファに座り、二人の間にミリを座らせながら「うん」とだけ答えた。

 三人の向かいに座っているパノが小首を傾げながら尋ねる。


「どうしたの?面倒臭い感じ?」

「そうだな」


 そう溜め息混じりに言ったバルは、「ミリ」とミリの頭に手を置いて話し掛けた。


「はい、お父様」

「パサンドと何か約束をしたかい?」

「パサンドさんとですか?別れ際に縁があったらまた会う事を言いました」

「それ、この国の言葉で?パサンドの国の言葉で?」

「この国の言葉です。会う事は省略して、“縁がありましたらまた”とだけ言いました」

「それ以外はしてないのかな?」

「約束はしていませんけれど、少し待って下さい」


 そう言うとミリは目を瞑り、パサンドとの遣り取りを思い出してみる。


「船に私を招待する時は手続きを踏んでくれと伝えましたが、招待を受けるとは約束していません。何か分からない物を私は受け取れないと言いましたが、分かったら受け取るとも言っていません。プレゼントをコードナ家に届けたら受け取るとも言っていません。護衛を貸せと言われたのはソウサ商会の従業員が断ったので、私は何も言っていません。そして最後に“縁がありましたらまた”と言いました。全てこの国の言葉です」


 そう言い終わるとミリは目を開けて、バルの顔を見上げた。


「そうか」


 バルはホッと息を吐いて、ミリの頭から手を離す。

 その様子を見てラーラが声を掛けた。


「結局、パサンドは何の用だったの?」

「それが、ミリの縁談なんだよ」

「え?!」


 バルの返事にラーラは驚きの声を上げた。ミリは目を見開き、逆にパノは目を細める。


「なんでいきなり?これまでもそんな話があったの?ラーラもミリも驚いているから、知らなかったみたいだけれど?」

「いや、いきなりなんだ。ミリがメイドをクビにしたろう?あれがパサンドとメイドが仲の良い事に、ミリがヤキモチを焼いたからだって言って」

「ヤキモチ?」

「ミリが?」

「それって私がパサンドさんを好きと言う事になっていると言う事ですか?」

「そうだよ。だから正式に婚約をコードナ家に申し込んでくれって言って、ミリが贈り物を受け取らなかったって」

「なにそれ?あのメイド、まだいるのよね?彼女からは話を訊いた?」

「いや」

「訊いて来る」


 パノは立ち上がりながらそう言うと、居室を出て行った。


「それで?話は断ったのよね?」

「いや。パサンドは帰らせたが、ミリの気持ちを訊いてから返事をするって伝えたよ」

「え?なんで?なんでその場で断らないの?」

「いや、だって、ミリがパサンドを好きだって、少なくともパサンドは信じているみたいだし、本当なのかと思って」

「何歳差か分かってる?パサンドってバルより年上よ?」

「そうだけれど、ミリが生まれた時は俺はまだ未成年だったし、ミリとパサンドくらいの年齢差での結婚も無い事はないし」

「そんな」

「いや、だからまず、ミリの気持ちを訊いてみようと思ってさ」

「訊くまでもないでしょう?ねえミリ?」

「はい」

「ほら」

「良かった。まあそうだよね。イヤだよね」

「え?いいえ、イヤだとは思いませんけれど」

「え?」

「ミリ?良いの?」

「お父様がお許しなら」

「え?パサンドと結婚するって事かい?」

「はい」


 そう言って俯くミリをしばらく見詰めていたバルとラーラは、ミリの頭の上で視線を交わした。

 二人とも言葉が出ない。


 なんとかラーラが様子を窺うように尋ねる。


「ミリ?結婚したい訳じゃないのよね?」

「したいとは、特にはそうは思いません」


 ラーラとバルの緊張が少し(ほぐ)れる。


「パサンドを好きだと言う訳ではないんだね?」

「はい」

「でもイヤじゃないのね?」

「はい」

「そんなので結婚するなんて言ったら、ダメじゃないか」

「え?」


 俯いていたミリは一瞬バルを見上げて、深く頭を下げる。


「・・・申し訳ありません」


 バルは慌てた。


「あ!いや!違うんだ!」

「ミリ?お父様は怒った訳ではないのよ?」

「そうそう、怒ってないからね?」

「はい・・・勘違いして、ごめんなさい」

「いや、謝らなくて良いから」

「はい」


 俯くミリを見て、バルはなんて言葉を掛ければ良いのか思い付かなくて、助けて欲しくてラーラを見た。

 ラーラはバルに困った顔を見せたけれど、一呼吸置いてミリに話し掛ける。


「ミリはパサンドと結婚しても良いの?」


 ラーラのその質問にバルはハラハラする。


「はい」


 ミリが「はい」と答える事を予想していたのに、それでもバルはショックを受けた。


「それはなぜかしら?」


 ラーラのその質問にバルはイヤな予感がする。


「私に結婚させないと仰っていたお父様が結婚を薦めるなら、それだけのメリットがあると思ったからです」


 少し予想とはずれたけれど、ミリについてラーラとバルで先日話し合った話題に関係している答だ。

 ラーラもミリがこんな(ふう)な答を返すと分かっているだろうに、とバルはちょっと不満を感じた。


「メリットって?」


 ラーラの言葉がバルの予想とずれた。

 メリットなんて放って置いて、ラーラにはバルが結婚なんて薦めていないと言って欲しかった。いや、自分で言うべきか?それともまだラーラに任せた方が良いか?


「ソウサ商会の昔からのお得意様ですし、パサンドさんの会社の船は年々寄港する回数が増えて、取引額も増えていますから」

「ソウサ商会の事は考えないとしたら?」

「パサンドさんの会社の取引先の貴族は、コードナ侯爵家やコーハナル侯爵家とは不仲な派閥に属している貴族家が多いですから、私との縁談が敵対派閥の切り崩しに使えるかなと思います」

「なんでだい?」


 我慢出来ずにバルが口を挟んだ?


「パサンドさんの取り扱う品をコードナ侯爵家やコーハナル侯爵家に(くみ)する貴族家と優先的に取引する事に因って」

「いやいや、違うって」

「あ、はい」

「そうじゃなくて、なんでコードナ家やソウサ商会が結婚の理由に出て来るの?」


 ミリは、まただ、と思った。

 また、どんな答を期待されているのか、分からなくなる。

 なんて答えたら良いのだろう?私の答では気に入られない。多分、私らしくない答が期待されている。なんて答えたら私らしくないのだろう?

 そう思うと、ミリの思考は一瞬真っ白になった。

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