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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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一人ぼっちの男の子

 木に登って枝に腰を掛けて一休みすると、ミリの目に一人ぼっちの男の子が映る。


 男の子は先ほど、転んで膝を擦り剥いた子に向けて、バチが当たったんだと言っていた。

 何を言っているの、とミリは思った。

 確かに傷を放っておいて膿んだりしたら、怪我をした子も心細くなるだろう。そんな時に神殿で神官が薬を付けて怪我が良くなれば、子供やその親も神殿や神官を信じるかも知れない。

 だからと言ってベソをかいている子に、あんな思い遣りのない言葉はない。ミリはそう思って、怪我をした子を水場に連れて行き、傷をキレイに洗うと膝をハンカチで包んだ。

 怪我した子は怪我も忘れて、今はまた走り回っている。膝のハンカチが少しずれて傷が見えてしまっているけれど、血は止まっていた。


 心が弱っている人に神罰の事を言えば信じるかも知れないけれど、あんな風に人に寄り添う事もしないで神様のバチが当たったと言うなんて、神殿は信者を更に減らしたいのかしら?いくらなんでもTPOってものがあるでしょう。

 そんな風に思えて、ミリは男の子が何故あんな事をするのか、誰かに命じられてやっているのだとしたら目的はなんなのか、考えを巡らせた。


 でもTPOがあるとは言っても、立場の方が強い事はミリは知っている。

 この空き地では、ただのミリだから遊んでいられる。

 ソウサ商会のミリとしてなら、この空き地の前を素通りしなければならないだろう。

 コードナ家のミリなら、この空き地の前の道を通る事も無い筈だ。


 男の子も神殿の信者と言う立場なので、バチが当たったとか言わなければならないのかも知れない。

 ミリは立場によって考えるべき事が違うと知っているけれど、男の子は真実は一つとか思っているかも知れない。

 そう考えるとミリには、男の子が少し可哀想に思えてきた。


 今も小さい子に邪魔扱いされている。あれは大きな子達が男の子を邪魔者にしているから、小さい子が真似をしているのだ。

 あんな小さい子にバカにされて、惨めにならないだろうか。


 ミリがそんな事をぼんやり考えていたら、男の子が小さい子を突き飛ばした。

 ミリが飛び降りて駆け付けようとしたら、大きな子が来て男の子を突き飛ばした。小さい子は他の子が立たせて上げている。小さい子は尻餅を()いただけだから、大丈夫そうだ。

 大きな子達が男の子に乱暴しないかとミリが見ていたら、みんな男の子から離れ、男の子はまたポツンと一人ぼっちになった。


 さっきは可哀想かと思ったし、小さい子が邪魔にしていたから手が出たのかも知れないけれど、男の子には信念があるみたいだし、もう気にするのは止めよう、とミリは思った。



「そろそろ帰るね」


 そう言ってミリは子供達に声を掛ける。

 配達を終えたソウサ商会の荷馬車が、そろそろ戻って来る頃だ。


「ミリ、もう帰んの?」

「うん。またね」

「うん。また来てね?」

「また遊んでね?」

「うん。また遊ぼうね」

「おい、ミリ」

「なに?」

「お菓子なくても良いからまた来いよ?」

「え~?アンタがお菓子要らないなんて」

「要らないなんて言ってないだろ?ミリはいつもお菓子持って来っから、もしお菓子がなくても来て良いんだからな?」

「あはは。分かった。来れたらお菓子がなくても来るね」

「それで良い」

「なに威張ってんのよ」

「威張ってねえだろう?」

「じゃあね、みんな、またね」

「うん。またね」

「バイバイ」

「バイバイ、また来てね」

「また遊んでね」


 子供達と手を振り合って、ミリは空き地を離れた。



 しばらく歩いても、一人の子が付いて来る。一人ぼっちだった男の子だ。

 同じ方向なのかとも思ったけれど、どうも違うみたいだ。

 ミリは立ち止まって振り返った。


「何か用?」


 男の子も立ち止まる。


「あ、えっと」

「用がないなら付けて来ないで」

「用は、その」

「付けて来たら警備隊に言うからね?」


 危ない事や怖い事があれば、警備隊員に言えば保護して貰える。

 実際にミリが保護を申し出たら家に連絡されるし、ソウサ商会からの脱走もバレて怒られて、今後は脱走が出来なくなる。だからミリには保護を申し出る積もりはない。ただの脅しだ。


「いや、違くて、おまえ、ミリって言うんだろ?」

「だったらなに?」

「それ、悪魔の子と同じ名前だぞ?」


 神殿の信徒が悪魔と言ったらラーラの事で、悪魔の子と言ったらそれはミリの事だ。

 本人なのだから、同じも何もない。


「だから?」

「神殿に来い」


 男の子が手を伸ばして来たので、ミリはそれを躱す。


「何する気?」

「神官様に頼んで、名前を変えてやる」

「はあ?」

「悪魔の子と同じ名前を付けられて、酷い目に遭ったのはおまえだけじゃない。いっぱいいるんだ」

「なに言ってんの?」

「おまえの親も悪魔に騙されただけだ。神官様に頼めばおまえは本当の名前が付けられるし、おまえの親も悪魔から救われるんだ」


 ミリは呆れたし、相手をするのが面倒臭くなった。

 でもこのまま付いて来られたら、荷馬車の幌に潜り込むところを見られてしまう。


 男の子がミリの手首を掴むと、ミリは男の子を投げた。


「痛い!何するんだ!」

「暴力を振るわれたから、やり返しただけよ」


 男の子は背中から落ちて、頭も腰も()った。

 手首を掴まれた事のやり返しは何倍にもなっているけれど、ミリはもちろん力を抑えて手加減している。


「なんだと!おまえの為に言ってやってるんじゃないか!」


 そう言うと男の子はミリの足首を掴んだから、ミリはもう一方の足で男の子の顎を蹴り飛ばす。

 男の子はミリの狙い通りに気を失った。顎は赤くなっているけれど、血が出たりはしていない。何度も蹴る事にならずに上手に力加減を出来た事が、ミリには嬉しかった。


 男の子を取り敢えず誰かに踏まれない様に道端には移動して、ミリはその場を後にする。



 配達を終えたソウサ商会の荷馬車が戻って来るのを見つけ、その一台の幌の中にミリは潜り込む。

 ソウサ商会の門を(くぐ)ったら、ミリは荷台から飛び降りた。

 倉庫を通って事務所側に向かう。


「注文整理しな」


 ミリの姿を見たフェリがそう声を掛けた。


「うん」


 配達に行った荷馬車が持って帰って来た、明日の朝の配達分の注文書を集めて持って、ミリはいつも使っている机に向かう。

 これを片付ければ今日のミリの仕事は終わりだ。


 明日は家に一日いなくてはならないけれど、明後日はミリは港町に遊びに行く。


 もう少しだから頑張ろう、とミリは自分を応援した。

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