表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
133/645

悩む夜

 夜、真っ暗な寝室で、小さな声がした。


「バル?」

「なに?」


 ラーラの問い掛けに、バルも声を小さくして応える。


「起きていた?」

「ああ」


 バルの返事を聞いて、ラーラはベッドからそっと体を起こした。その気配を感じたバルも、そっと体を起こす。

 二人とも、真ん中に寝ているミリを起こさない様に、そっとそっとベッドから下りて、音を立てない様に寝室を出た。


 夜番をしている使用人を下げさせて、ラーラとバルは自分達で居室に灯りを点ける。ラーラは酒とグラスをキャビネットから取り出し、バルは調理室からつまみを持って来た。


 一つのソファに二人で座るけれど、間にはミリ一人分の隙間を空けている。



 ラーラは両手で顔を覆った。

 そのまま動かないラーラを心配して、バルが「ラーラ?」と囁く様に声を掛ける。


「バル、どうしよう」


 ラーラは手を放して顔を上げて、バルを見る。


「どうしたら良いと思う?」

「ミリの事、だよね?」

「うん。夢も憧れもないなんて、なんで?」

「ラーラはミリくらいの時、夢とか憧れとかあった?」

「ええ、もちろん」

「どんなの?」

「え?でも・・・」

「でも?」

「子供の頃の話だから、重く受け止めないで欲しいけれど、約束してくれる?」

「約束するけれど、恐ろしい話?」

「そうではないけれど私、ミリくらいの頃は、好きな人と結婚して、国々を渡って商売をしたいって思ってた」

「船で旅をしながらか」

「ええ。それで港からその国をグルッと回って、色々売って色々買って、港に戻って次の国に行くの」

「そうか。素敵な夢だね」

「ええ。お気に入りの夢だったわ」


 バルはラーラのグラスに酒を注ぎ、自分のグラスにも注ぐと口を付けた。


「バルは?バルの夢はなんだったの?やっぱり騎士様?」

「そうだね。俺はやはり騎士だったな。でも、夢と言うか、それしかない感じ」

「それしかって?」

「俺は姉上にも兄上達にも何をやっても敵わなかったから、勉強から剣に逃げた結果の騎士だからね」

「結婚は?結婚したいとか思っていた?」

「いや、どうだろう?」

「好きな女の子はいたのよね?」

「それを持ち出す?」

「・・・ゴメンね」

「確かにいきなり結婚してって言った気がするけれど」

「そうなのね」

「でも、結婚する事を真剣に考えたのは、ラーラが初めてだ」

「バル」

「信じてくれる?」

「うん。意地悪な事を訊いて、ゴメンね」

「いいや。信じてくれて嬉しいよ」


 二人はソファの上で手を重ねた。


「それにラーラとミリと一緒に暮らせているのは、本当に嬉しい」

「私もよ。幸せになれないなんて言っていたけれど、バルとミリと一緒にいると、キロとミリの事を忘れて笑っている時があるの」

「・・・そうか」

「ええ・・・」

「キロもミリも、ラーラが笑っているのは、嬉しいだろうな」

「・・・そうかしら」

「きっとそうさ」

「そうだと、良いな」

「二人に取って、大切な大切な妹だもの。ラーラが嬉しければ二人も喜んでくれているさ」

「・・・そうね・・・そうだと良いな」

「ああ。きっとそうさ」


 二人は寂しさを含む微笑みを見せ合って、指を絡めた。


「私、バルが結婚してくれて、本当に良かったと思っているの」

「俺もだよ。俺もラーラと結婚出来て、本当に良かった」

「バル。あの時、私との結婚を諦めないでくれてありがとう」

「どういたしまして。でも俺はただ、ラーラとの結婚を諦めるなんて出来なかっただけだよ」

「ううん。たとえそうでも、バルには感謝しているわ」

「俺もだよ、ラーラ。結婚してくれてありがとう」


 二人は微笑みながら見詰め合った。


 ラーラが真剣な表情に切り替える。


「ねえバル?」

「なんだい?」

「ミリに結婚させないって言っているのは、あの子の父親が分からないからよね?」

「はあ?ミリの父親は俺だよ」


 バルは憮然として答える。


「そうだけれどそうではなくて、父親の事が原因でミリにプロポーズする男性が現れない時の為に、バルがミリを結婚させないって事にしているのではないの?」

「違うよ。ミリが可愛いから、嫁に出したくないだけだ。なにせミリは大きくなるにつれて、ますますラーラそっくりになって来たからな。ラーラそっくりのミリを他の男に渡すなんて、とても抵抗がある。俺には考えられないよ」

「でもね?あんな事があった私でも、バルと結婚出来て、とても嬉しかったわ。キロとミリには申し訳ないけれど、今、私はとても幸せだと思う」

「ラーラ」

「パノを見ていると、結婚だけが幸せじゃないって言葉も本当だとは思う。けれど、好きな人と一緒に暮らせるのも幸せな事だと思うし、家族が増えるのも嬉しいと思うの」

「ラーラ」


 ラーラはテーブル上のグラスを少し傾けて、酒の表面を眺めた。


「ミリが今日、バルも私もパノも面倒見るって言っていたでしょう?」

「うん?ああ、あの時か。言っていたね」

「私もバルもパノも死んだ後、ミリはどうするんだろう」


 心細そうなラーラのその声に、バルは慌てた。


「いや、大丈夫だよ?ミリの事は姉上や兄上達にも頼むし」

「私達が死んでいるなら、みなさんも亡くなっているかもよ?私の兄さん達もそう」

「あ、いや、でも、ジゴ達もいるし、みんなに良く頼んでおくから大丈夫。心配しなくても良い様にしておくから」

「そう・・・」


 ラーラはテーブル上でグラスを左右に揺らし、酒の表面に波を作る。


「私、もしあの時家を飛び出して、バルとも結婚していなくて、ミリも生まれていなかったら、どうしていたろう・・・」

「・・・ラーラ」


 名を呼ぶ声に応える様に、ミリは視線をバルに向けた。


「バル。ミリの父親の事、いつかはミリに言おうと思うの」

「ラーラ」

「だって他の人から聞くより、私の口から伝えた方が良いよね?」

「そうか・・・そうだね。広く知られているから、いつまでも隠し通せないだろうし、それなら俺達が教えるべきだね」

「辱めを受けた事、公表しない方が良かったのかな?」

「俺はミリの本当の父親だと思っているし、本音では、そうだね、ミリには教えたくないかな」

「でも、事実は変わらないし、過去も変えられないわ」

「事実がどうでも、本当の父親としてミリを愛している事が伝わる様に接して行くよ。まあ、今とやる事は変わらないけれど、ミリが不安に思わない様にね」

「ありがとう、バル」

「いいや。俺の可愛いミリの為だもの。それに何より、ミリに父親扱いされなくなったら、俺の方が耐えられない」

「ふふ。でも、ありがとう」

「そう?それなら、どういたしまして」


 二人は微笑みを見せ合いながら、グラスを捧げ合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ