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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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仲良くするか、働くか、遊んで暮らすか、結婚できない

 ミリは気掛かりを思い出して、「そう言えば」と口にした。


「お父様、お母様。私はサニン殿下と仲良くした方が良いですか?」

「いや。仲良くする義務はないよ?」


 父親のバルの間髪おかない答えに、ミリは反射的に「そうですよね」と返す。

 でも義務?仲良くする義務がある場合があるの?そう思ってミリの首は少し傾く。

 そのミリの様子を見て、母親のラーラが尋ねた。


「ミリは殿下とは仲良くしたくないの?」

「そうではないですけれど、仲良くすると波風が立ちますよね?」

「波風かい?」

「ヤキモチを焼かれたりって事かしら?」

「はい」


 ミリは深く肯く。


「今日もサニン殿下から話し掛けられると、他の(かた)に会話を遮られました。ですので学院に入学しても、殿下には近付かない様にしておいた方が良いな、と思いました。殿下が王都に住んで学院に通うならの話ですけれど」

「近付かないと言っても、ミリは殿下と同じクラスになるし、難しくないかい?」


 バルの言葉にミリの眉が寄る。


「あれ?私は平民クラスで受験ですよ?」

「え?いやいや、貴族クラスだよ?だってミリは俺の子なんだし」


 バルに顔を向けているミリには見えないラーラの身動(みじろ)ぎをミリは感じた。

 身動ぎと言うか、ラーラがまた甘い雰囲気を出していそうにミリには感じる。「俺の子」発言に反応したのね、とミリは思う。

 それはさておき。


「でも、平民として生きて行くなら平民クラスに通った方が良いと思いますし、私は文官を目指すつもりだったのですけれど?」

「いやなんで?」


 バルの眉間に皺が寄る。


「お母様を養女になさったコーハナル家なら、私に実力があれば雇って貰えますし」

「いやなんでさ?」


 バルの眉間の皺が深くなった。


「なぜって、どうせならコネを使えるところに就職した(ほう)が、楽かなと思いました」

「コネならコードナ家にもあるだろう?ミリはコードナ家の人間なのだから」

「コードナ家の護衛や騎士も素敵ですけれど、じっと立ったまま周囲の警戒を続けると言うのは、私の性格には向かないと思います」

「いやいや、コードナ家にも文官はいるよ?いや、だけどそうではなくて、なぜ将来ミリが職業に就く前提なのさ?」

「生きていくには働かないといけません。お父様とお母様が私の為に、お金を蓄えて下さっているのは知っています。けれどそれを消費するだけの人生を送るつもりはないのです」

「人生って、いや、立派な心掛けだよ?でも、なんでそうなるのさ?」


 バルの眉尻が下がる。


「え?何か勘違いしていますか?」


 ミリは首を捻った。


「あ!お金の蓄えがなくても大丈夫ですから、気にしないで下さい。それでしたらお父様とお母様とパノ姉様は私が養いますので任せて下さい」


 ミリはそう言ってバルに笑顔を見せて、それをラーラにも向けた。


「ミリ?あなたは結婚しないつもりなの?」


 ラーラの言葉と真剣な表情に、何を言っているのかとミリは驚く。


「え?でもお父様が私の結婚は許さないのでは?」

「なに?!誰か結婚したい相手がいるのか?!」


 大きな声に驚いて、ミリはバルを振り返った。でもバルの方が驚いた顔をしている。


「バル、ちょっと待って」

「いや待てないだろう?誰だい?相手は?」

「バル」

「まさか!コーカデスじゃないだろうな?!」

「バル・・・ミリの話を聞かせて」

「いや、だけど」

「ミリ?結婚したい相手がいるの?」


 ラーラの静かな声がバルの勢いを削いだ。その静かな声にミリは振り向く。


「いいえ。いませんけれど?」

「そうか」


 バルが安堵の声を出す。


「ね?バル?だから落ち着いて」

「分かった」

「それでミリ、ええと、何を訊こうとしていたのだったかしら?」


 ラーラは唇と顎の間に拳を当てて、首を少し傾げた。


「そうそう、お金の心配は要らないわ。ミリの言った通り、あなたの名義で貯めている財産もあるから。もちろんお父様も私もパノも、ミリに養って貰わなくても大丈夫ですからね?」

「そうなのですね」

「でも、あなた名義の財産の事、誰に聞いたの?」


 ラーラは首を反対側に傾ける。

 聞かなくても分かるのに、とミリは少し不思議に感じた。もしかしたらお母様は自分を試しているのかも、とミリは思う。


「ウチには引き出した事が一切無い投資用の口座が幾つかありますよね?出納帳の記録を見て、それらは貯蓄用だと思いました。その内の一つには、我が家の収支に関わらず、常に一定額の投資をしています。子供の為に蓄財する時はそうすると習ったので、もしかしたら私の為の口座かと思っていました」

「ええ、その通りよ。それならミリの為の財産がいくらあるかも分かっているでしょう?将来の心配は要らないわ。でもミリは、遊んで暮らすのではイヤなのね?」

「はい」


 ミリは大きく肯いた。


「結婚もイヤなの?」


 ラーラの言葉にミリは「え?」と驚きの声を出す。


「イヤと言うか、私は結婚出来ませんよね?お父様に禁止されていますし」


 常日頃からバルがさんざん言っている事だ。

 出来ない事にイヤもそうでないもないのに、とミリは思った。


「バル?ミリがこんな事を言ってるけれど、どうするの?」

「ミリは一生、ウチにいれば良い」


 それはミリには受け入れられない。


「結婚はしないのは約束しますけれど、お金の心配がいらないなら、ウチからは出ようと思っています」

「え?なんでだい?私達とずっと一緒に暮らせば良いじゃないか?何が不満なんだい?」


 バルの悲しげな顔にミリは戸惑った。


「だってこの家にいたら、私はする事がありません」

「そんな事ないだろう?今だってミリは毎日忙しそうじゃないか?」

「それは今はまだ子供で、学ばなければならない事がたくさんあるからです。大人になって仕事も結婚もしないで、ただウチにいるだけだったら、退屈で死にそうです。何の為に生きているのか分かりません」


 何の為に生まれて来たのか、ともミリは思っているけれど、さすがにその言葉は両親を傷付けるだろうと思って口にはしない。

 それでもミリが口にした言葉だけでも、バルは慌てる。


「いや、だけれど、ウチで暮らしてもほら、乗馬をしたり買い物をしたり、色々とやる事はあるだろう?」

「刺繍をしたり本を読んだりもありますけれど、それだけだとすぐに飽きます」

「お祭りに行ったりも、観劇したりもあるじゃないか」

「・・・そうですね」


 ミリはそう返した。少し面倒臭くなり始めている。どうせ今ここで結論は出ないから適当に切り上げれば良いか、とミリは思った。

 バルに対してはそれで良いとしてラーラはどうかとミリが振り返ると、ラーラはまた唇と顎の間に拳を当てて、少し目を伏せて、何かを考えている様に見える。


 バルを見たりラーラを見たり、面倒臭いから、二人の間ではなく反対側に座って、正面から二人と話したい、とミリは思って小さく息を()いた。

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