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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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みんなに囲まれるサニン王子

 ガゼボの周りが騒がしくなる。

 サニン王子の登場だ。


「ここにいたのか」


 ミリとレントは立ち上がり会釈した。


「そのままで良いよ」


 そう言いながらサニン王子がガゼボに入って来ると、ウィン・コウグや他の子供達も付いて来た。


 サニン王子がベンチに座ると隣にウィンが座った。

 三つあるベンチのもう一つのベンチには、子供達が争う様に詰めて座っている。座り切れていない子供達は、ミリとレントが座っていたベンチを狙っていた。

 二人が体をずらして譲ると、すかさず子供達が座る。


 ミリとレントがもう一度会釈して、ガゼボを出て行こうとすると、サニン王子が声を掛けた。


「ミリ、ここに座りなよ」


 サニン王子が指すのはウィンとの間。ウィンはすかさずイヤそうな顔をして、イヤそうに声を上げた。


「殿下、こいつらは最後だって言ったでしょ?」

「でももう充分、みんなと話したろう?」

「まだですよ。こいつらの出番はまだまだ後です」

「でも、ここは彼女が先に使っていたのだし」

「みんなの方が先に殿下と話したがっていたんですよ?」

「そうは言っても、まだミリとは一言も話してないんだ」

「さっき話していたじゃないですか」

「あれはレントとだろう?ミリとは挨拶だけじゃないか」

「挨拶だって順番があるんです。それをこいつらは順番を守らないで、先に挨拶して、本当なら追い出すべきです」

「いや、だって、ミリとは学院で同級生になるんだよ?仲良くする様に言われているのだから」

「そんなの、学院に入ってからすれば良いんですよ」


 さっきまでコードナ殿、コーカデス殿と呼んでいたサニン王子が、いきなりミリ、レントと呼び捨てにして来て、ミリの気持ちは白々としていた。


 このままなら将来、王太子の長子のサニン王子がこの国の王になる。

 貴族としての立場からなら、学院に入る前から仲良くしておくべきだろう。


 でも今ならサニン王子には、漏れなくウィンが付いて来るに違いない。

 そう考えると、仲良くなるのは学院からで良いと言う、ウィンは良い事を言うとミリは思った。

 そう言えばさっきもその前も、ミリ達がサニン王子と話すのは最後と言っていて、それもミリは良い事を言うと思った。けれどウィンがいなければサニン王子と話しても良いのだから、良い事を言うと言う事なのか、ミリはちょっと分からなくなる。マッチポンプ?は、違うかな?


 とにかく、サニン王子はともかく、ウィンからは離れたい、とミリの中で結論が出た。


「サニン殿下。わたくしはそろそろ失礼させて頂こうかと思っております」

「え?帰るの?」

「はい。本日はお招き頂き、ありがとうございました」

「まだ、全然私と話してないのに、良いの?」

「本日はこれで、失礼をさせて頂きます。ご縁がございましたら、またお目に掛かりたいと存じます」


 ミリの言葉は、縁が無ければ会う事はない、と言う気持ちの方が強かった。

 レントもサニン王子に向けて(いとま)を告げる。


「サニン殿下。わたくしもこれで失礼させて頂きます。お招き、ありがとうございました」

「え?レントとミリ、一緒に帰るの?」

「わたくしは今日中に領地への帰途につく必要がありますので、これで失礼しますが、ミリ様はジゴ様とご一緒では?」

「ジゴとは別の馬車で来ております。ジゴは仲の良い子供達との交流もありますので、まだ残るでしょう」

「そうですか。では会場の出口まで、ご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」


 そう言ってレントはミリに向けて手を差し出した。

 ミリはまたレントに指先を預け、「はい」と微笑みを向けた。レントも微笑み返す。


 その様子を見た周囲の子供達から、溜め息が漏れた。

 子供の頃は、歳が一つ違えば随分と違う。

 周りの子供達にはレントとミリの振る舞いが、大人びて見えていた。


 二人が手を繋げたまま、サニン王子に対して礼を取る。


「「これにて御前、失礼いたします」」


 時代がかった挨拶の言葉と、古式に則った礼に、周りの子供達は息を忘れた。


 そのままレントとミリはガゼボを離れた。



「少し、やり過ぎではありませんか?」


 レントの囁き声に、笑いが見え隠れする。


「レント殿が仕掛けたのでしょう?私の手を取って」


 ミリはシラッと囁き返す。


「隣でミリ様にあの礼を取られたら、わたくしだけ普通には出来ませんよ」

「レント殿が合わせるから、挨拶も古臭くなってしまったわ」

「古臭くなんて、礼儀を重んじたと言って頂かないと、ダメですよ」


 レントは笑いを隠せなくなって行く。それにミリも釣られて行った。


「レント殿はすぐに出立するの?」

「はい」

「そう。少しも時間はない?」

「今なら会場を出るのは予定より早いので、時間はありますけれど」

「それなら一箇所、付き合って貰えないかしら?」

「どこにでしょうか?」

「お菓子屋さん。レント殿に本当の伝統のビスケットを味わって欲しいと思って」

「え?本物があるのですか?」


 そう言って期待の籠もった目で見上げるレントに、ミリは肯いて「ええ」と笑顔を向けた。

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