みんなに囲まれるサニン王子
ガゼボの周りが騒がしくなる。
サニン王子の登場だ。
「ここにいたのか」
ミリとレントは立ち上がり会釈した。
「そのままで良いよ」
そう言いながらサニン王子がガゼボに入って来ると、ウィン・コウグや他の子供達も付いて来た。
サニン王子がベンチに座ると隣にウィンが座った。
三つあるベンチのもう一つのベンチには、子供達が争う様に詰めて座っている。座り切れていない子供達は、ミリとレントが座っていたベンチを狙っていた。
二人が体をずらして譲ると、すかさず子供達が座る。
ミリとレントがもう一度会釈して、ガゼボを出て行こうとすると、サニン王子が声を掛けた。
「ミリ、ここに座りなよ」
サニン王子が指すのはウィンとの間。ウィンはすかさずイヤそうな顔をして、イヤそうに声を上げた。
「殿下、こいつらは最後だって言ったでしょ?」
「でももう充分、みんなと話したろう?」
「まだですよ。こいつらの出番はまだまだ後です」
「でも、ここは彼女が先に使っていたのだし」
「みんなの方が先に殿下と話したがっていたんですよ?」
「そうは言っても、まだミリとは一言も話してないんだ」
「さっき話していたじゃないですか」
「あれはレントとだろう?ミリとは挨拶だけじゃないか」
「挨拶だって順番があるんです。それをこいつらは順番を守らないで、先に挨拶して、本当なら追い出すべきです」
「いや、だって、ミリとは学院で同級生になるんだよ?仲良くする様に言われているのだから」
「そんなの、学院に入ってからすれば良いんですよ」
さっきまでコードナ殿、コーカデス殿と呼んでいたサニン王子が、いきなりミリ、レントと呼び捨てにして来て、ミリの気持ちは白々としていた。
このままなら将来、王太子の長子のサニン王子がこの国の王になる。
貴族としての立場からなら、学院に入る前から仲良くしておくべきだろう。
でも今ならサニン王子には、漏れなくウィンが付いて来るに違いない。
そう考えると、仲良くなるのは学院からで良いと言う、ウィンは良い事を言うとミリは思った。
そう言えばさっきもその前も、ミリ達がサニン王子と話すのは最後と言っていて、それもミリは良い事を言うと思った。けれどウィンがいなければサニン王子と話しても良いのだから、良い事を言うと言う事なのか、ミリはちょっと分からなくなる。マッチポンプ?は、違うかな?
とにかく、サニン王子はともかく、ウィンからは離れたい、とミリの中で結論が出た。
「サニン殿下。わたくしはそろそろ失礼させて頂こうかと思っております」
「え?帰るの?」
「はい。本日はお招き頂き、ありがとうございました」
「まだ、全然私と話してないのに、良いの?」
「本日はこれで、失礼をさせて頂きます。ご縁がございましたら、またお目に掛かりたいと存じます」
ミリの言葉は、縁が無ければ会う事はない、と言う気持ちの方が強かった。
レントもサニン王子に向けて暇を告げる。
「サニン殿下。わたくしもこれで失礼させて頂きます。お招き、ありがとうございました」
「え?レントとミリ、一緒に帰るの?」
「わたくしは今日中に領地への帰途につく必要がありますので、これで失礼しますが、ミリ様はジゴ様とご一緒では?」
「ジゴとは別の馬車で来ております。ジゴは仲の良い子供達との交流もありますので、まだ残るでしょう」
「そうですか。では会場の出口まで、ご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」
そう言ってレントはミリに向けて手を差し出した。
ミリはまたレントに指先を預け、「はい」と微笑みを向けた。レントも微笑み返す。
その様子を見た周囲の子供達から、溜め息が漏れた。
子供の頃は、歳が一つ違えば随分と違う。
周りの子供達にはレントとミリの振る舞いが、大人びて見えていた。
二人が手を繋げたまま、サニン王子に対して礼を取る。
「「これにて御前、失礼いたします」」
時代がかった挨拶の言葉と、古式に則った礼に、周りの子供達は息を忘れた。
そのままレントとミリはガゼボを離れた。
「少し、やり過ぎではありませんか?」
レントの囁き声に、笑いが見え隠れする。
「レント殿が仕掛けたのでしょう?私の手を取って」
ミリはシラッと囁き返す。
「隣でミリ様にあの礼を取られたら、わたくしだけ普通には出来ませんよ」
「レント殿が合わせるから、挨拶も古臭くなってしまったわ」
「古臭くなんて、礼儀を重んじたと言って頂かないと、ダメですよ」
レントは笑いを隠せなくなって行く。それにミリも釣られて行った。
「レント殿はすぐに出立するの?」
「はい」
「そう。少しも時間はない?」
「今なら会場を出るのは予定より早いので、時間はありますけれど」
「それなら一箇所、付き合って貰えないかしら?」
「どこにでしょうか?」
「お菓子屋さん。レント殿に本当の伝統のビスケットを味わって欲しいと思って」
「え?本物があるのですか?」
そう言って期待の籠もった目で見上げるレントに、ミリは肯いて「ええ」と笑顔を向けた。




