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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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友達はいないけれど

「ミリ様は普段、ご自分を私と呼んでいらっしゃいますか?」

「え?ええ。そうですけれど、それが何か?」

「話の内容だけではなく、話し方も崩して頂いても構いませんよ?」

「それは、でも」

「あ、いえ。ジゴ様との時には私と仰っていたので、どちらでも構わないと思いまして」

「え?そうでしたか?」

「はい。口調も砕けていらっしゃったので、そちらが楽でしたらそうなさって下さい」

「それならレント殿もそうして下さい」

「それはありがとうございます。しかしわたくしはこれが普段の口調ですので」

「え?ご家族にもその口調なのですか?」

「はい」

「ご友人にも?」

「友人と言える人はおりませんが、いても多分、この口調になるかと」


 ミリは思わず謝ろうとして、思い(とど)まった。

 レントならジゴに返した時の様に、友人がいないのは単なる事実だから謝る必要はない、と言いそうだ。

 それよりは気になった事を訊こう、とミリは考えた。


「近隣領地の(かた)との交流はありますよね?」

「多少ですが」

「でも貴族には同年代がいませんね」

「はい。良くご存知ですね?」

「ええ。やっぱり、平民とは交流なしですか?」

「交流はありますが、友人にはなれません」

「平民だから?」

「結論はそうですけれど、そもそもがわたくしには友人がいないので、友人になる方法が分かりません。貴族相手の付き合い方は学びましたが、本で読んだ様な友人関係になる為には、役に立ちそうもありませんので」

「今日はどなたか、友人となれそうな人はいませんでしたか?」

「領地の事を考えると」

「いえ、領地も家も考えない事にして、この人なら友達になれそうだと思う人はいませんでしたか?」

「お恥ずかしい話ですが、わたくしが本日会話をさせて頂いたのは、ミリ様が最初でした」

「え?私?」

「はい。テーブルを譲ると仰って頂いたあの言葉が、今回の会での最初に掛けられた言葉です」

「そうですか・・・ご自分から声を掛けたりはしなかったのですか?」

「はい。先程もそうでしたけれど、何を話せば良いのか思い付かず、掛ける言葉が見付けられませんでした」

「なるほど」


 自分で言いながら、なるほどってなんだ?とミリは思った。もう少し気の利いた返しがしたい。


「それなら、ジゴはどうですか?」

「友人としてですね?」

「ええ。彼は悪い子ではありませんよ?」

「それは分かりますが、やはり何を話したら良いのか迷いそうです。お菓子に付いてでしょうか?」

「お菓子に付いてですね」

「聞き役にはなれますけれど、私からジゴ様に話せる話題は何もありませんね」

「そんな事もないでしょうけれど」

「ミリ様はご友人とどんな話をなさるのですか?」

「色々ですね。流行や新商品の事とか物価の事とか治安の事とか」

「え?それ、お相手は同年代の方ですか?」

「少しはそうです。平民ですけれどね」

「平民?ご友人が?」

「あ?バカにしました?」

「いえいえ違います!誤解です!」

「ふふ。冗談ですよ。レント殿がそんな風に思ってないのは、表情から分かります」

「それは、良かったです」

「良かったって、コードナ家から抗議が行く事でも心配しました?」

「いえいえ違いますけれど、あ?これも冗談でしょうか?」

「ふふ。ええ、その通りです。すぐに私の冗談を判別出来る様になるなんて、レント殿は飲み込みが早いですね?」

「それは、ありがとうございます」

「どういたしまして。それで?友人が平民だと何か?」

「あ、いえ」

「私の友人をバカにした訳ではないのでしょう?それとも私をバカにしました?」

「違います違います!バカになんてしていません。ただ・・・」

「ただ?良いですよ?家から抗議など送りませんから、思った事を言って下さい」

「それは、はい。ミリ様は平民との交流を制限されているかと思っておりましたので、友人までいらっしゃるのが信じられませんでした」

「え?なぜ制限されているなんて思ったのですか?」

「その、母君が平民のご出身ですので、ミリ様が平民と交流すると何かと弱味になるかと思い、交流はさせない様な方針をご両親は取るのではないかと考えていました。申し訳ありません」


 そう言ってレントが頭を下げた。


「申し訳ないって、なんですか?思っている事を言わせたのは私ですし、どこが申し訳ないの?」

「あ、いえ・・・」

「私のホントの父親も平民だからって事?」

「あ、・・・はい」

「その上、犯罪者だし?」

「あの・・・」

「正直に」

「・・・正直、少しは思いました」

「言い淀んだ時点で、そう思っているのは分かります」

「申し訳ありません」

「なんで謝るの?単なる事実確認なんでしょ?」

「それでも、あなたの気持ちを傷付ける事には変わりません」

「レント殿に言わせたのは私だし、言わせる前に何を思われているのか分かっていました」

「・・・そうでしたか」

「それにこれくらいでは傷付きません」

「そうですか・・・良かった」


 傷付かないとの言葉を聞いたレントのホッとした表情を見て、ミリは少し罪悪感を覚えた。

 無理矢理言葉にさせる事で、レント自身を傷付けさせた様にミリには思える。

 それなのでミリは、言い訳の様な言葉を続けた。


「私は身分も平民になるから、平民の友達を作っておくのです」

「え?そうなのですか?」

「ええ。貴族の友人が出来ないのは、平民になるからって訳ではないですけれどね」

「え?ですが今日も、何人かの子の相手をなさっていませんでしたか?」

「え?見ていらっしゃったの?」

「はい。あ!ずっとミリ様を見ていた訳ではありません!ミリ様が目立っていらっしゃったので、自然と目に入ると言うか、目を惹くと言うか」

「確かに、今日集まった子供の中では、一番背が高いし?」

「そうでしたか?それよりもわたくしは所作の美しさに惹かれました」

「そうでしたか?」

「はい。今も言葉は少し崩して下さっていますけれど、所作は美しいままです」


 そう言って微笑むレントの顔を見て、ミリは顔が少し熱くなる。


「お褒め頂き、ありがとうございます」


 熱を誤魔化す様に、ミリは冗談を装って頭を下げた。


「褒めたのではありません。ミリ様が美しいのは事実ですから」


 レントの言葉に「所作が」が抜けていた。

 ミリの顔は更に熱くなって、下げた頭が上げられなくなる。

 頭を下げたまま心の中で、褒められてない褒められてない、と繰り返して、ミリは熱を冷まそうとした。


 目の前にレントの手が差し出され、ミリはまた指先を預ける。

 手を引かれて顔を上げると、笑みを浮かべるレントの顔があった。


 きれい。


 そう感じた瞬間に、ミリの熱はスッと冷めた。

 ミリの頭には、この人は友達はいなくても恋人はいるんじゃない?との考えが浮かんでいた。

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