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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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みんなが待っているサニン王子

「殿下!どこに行ってたの?ずっと待ってたんだよ?」

「いや待て、ウィン。待ってくれ、コードナ殿、コーカデス殿」


 新たに場に加わった男の子に、レントとミリが頭を下げる。


「顔を上げて。私は王太子ソロンの一子サニンだ。コードナ殿とコーカデス殿だよね?」

「お目に掛かれて光栄です、サニン殿下。わたくしはコードナ侯爵ガダの三男バルの長女ミリでございます」

「お言葉を掛けて頂き光栄です、サニン殿下。わたくしはコーカデス伯爵スルトの一子レントでございます」

「おまえら、私には挨拶しなかったじゃないか?」


 男の子が前に出ようとするが、サニン王子が肩を掴んで捕まえた。

 食べていた物を飲み込み終わったジゴも立ち上がって、サニン王子に頭を下げた。


「二人とも良く来てくれた。ジゴも良く来たね」

「はい」


 ミリの従弟ジゴ・コードナはサニン王子と面識があるのに、それだけしか言わない。

 もう少し何か言えば良いのに、とミリは思う。


「ウィンがビスケットに関して、何か言ったそうだけど?」

「うん!私がこいつらに説明してやったんだ!」

「ウィン、こいつらなんて言ったらダメだ」

「え?だって殿下だって」

「ウィン」

「え・・・」


 無表情のサニン王子に見詰められて、男の子は(しか)めっ面をする。


 まだ幼いから、話してはいけない相手とか場所とか、分かんないよね?

 ミリは自分が教育された時の事を思い出して、心の中で男の子に同情した。もちろん顔には出さない。


 貴族の子息令嬢が邸の中にいる限りは、口にしてはいけない事なんて耳には入って来ないだろう。聞いた事をそのまま口にしても、何も問題にならない。

 それなので、言ってはいけない相手とか場所とかを判断する事を覚えるのは、中々難しかった。

 ジゴもまだ少し、TPOの区別が苦手だ。


 ミリの場合は、コードナ家での事はコーハナル家でもソウサ家でも全ては話せないし、ソウサ家の事も同様だ。その状況がミリを鍛えている。もちろん何度も失敗して怒られた。

 その点コーハナル家に関しては、訪ねて行くミリの目や耳に入る情報をしっかりと管理して制限しているので、ミリも気を遣わなくて済んでいる。



 サニン王子がミリとレントを向く。


「ウィンとはどんな話をしていたのかな?ビスケットに付いてとは聞いたけれど?」


 ビスケットに付いて男の子と話していたのはレントだけれど、立場的にはミリがサニン王子に答えるべきだ。

 レントが答えなければ自分が答えようと考えて、ミリが顔を少し向けた時にレントが口を開いた。


「そちらの方とでしたら、ビスケットの材料に付いて教えて頂いておりました」

「材料?」

「はい」


 サニン王子が顔を向けると、男の子はまだ顔を蹙めていた。

 サニン王子がレントに顔を戻す。


「なぜビスケットの材料を尋ねたんだ?」

「私は今回初めて、王都に参りました。その為に今まで、王都の伝統のビスケットを食べた事がございません。それなのでビスケットの話をしていたのです」

「伝統のビスケットね。食べたのかい?」

「はい」

「そうか。あれっていまひとつだろう?昔ならともかく、今では他に美味しい物があるし、期待していたのなら残念だったね」

「いえ。自分で食べる経験が出来て、良かったと思います」


 レントは会釈しながらサニン王子にそう答えた。


「コードナ殿は?」


 ジゴの事は名前呼びしていたから自分の事だな、とミリは思う。

 でも何を訊きたいのだろう?


「サニン殿下がお尋ねになったのが、そちらの方との会話に付いてでしたら何も話してはおりません。伝統のビスケットに付いてでしたら食べた事がございます。本日のビスケットに付いてでしたらまだ1枚に口を付けたところですが、美味しいと思いました」

「あ、うん。そうか」


 サニン王子の笑顔が引き攣っている。

 ミリもレントもサニン王子の次の言葉を待つ。ジゴはミリの隣に立ったまま、口を開かない。

 サニン王子の周りには何人かの子供が集まって来て、サニン王子に話し掛けるタイミングを計っている。

 それに気付いた男の子が、サニン王子に声を掛けた。


「殿下、ほら。みんなが集まって来たよ?さっきも殿下がどこにいるのか、みんなで探してたんだ。一緒に行こうよ」

「あ、うん。分かった」


 サニン王子は微笑みを作り直して、ミリとレントに向けた。


「君達も一緒にどうだい?」

「え~?こいつらの分の席はないよ?」

「席なんて作らせれば良いだろう?」

「いえ、私達は結構です」


 ジゴがピシャリと言う。

 驚いてミリがジゴを見ると、ジゴと目が合って肯かれた。

 何の意味でジゴが肯いたのか、ミリには分からなくて少し怖い。


「コーカデス殿が許すなら、ミリとコーカデス殿と話がありますので、こちらの席に残ろうと思います。コーカデス殿、いかがですか?」

「はい、コードナ様。サニン殿下、わたくしもこちらに残ってもよろしいでしょうか?」

「あ、そうだな。では私もこちらの話に入れて貰おう」

「ダメですよ、殿下!順番を守らなくちゃいけません!」

「順番?」

「みんな、殿下とお話をするのを待ってたんですから、こいつらが殿下と話すのは1番最後です!」


 良く言ってくれた、とミリは心の中で男の子を誉めた。

 サニン王子だけなら良いけれど、男の子もこちらの話に入るなら面倒臭いに違いない。それならサニン王子を連れて、どこにでも行って貰えた方が嬉しい。


 男の子の話にジゴが大きく肯く。


「順番を守らないとわたくし達が皆さんに恨まれそうですので、サニン殿下は皆さん達とお話なさって下さい」

「あ、うん。そうか。分かった」


 サニン王子はホッとした表情を浮かべて、男の子と周囲の子供達を引き連れて、ミリ達から離れて行った。


 レントがミリとジゴに向き直って、頭を下げた。


「コードナ様のお陰で、面倒に巻き込まれずに済みました。感謝します」


 王子との会話の事を面倒だと言ってしまっているけれど大丈夫なの?とミリは心配になる。

 確かにあの男の子に付いてなら、ミリも面倒臭いとは思っていたけれど。


 コードナ様と言われたけれど自分は何もしていないのでジゴの事だな、と思ってミリはジゴを見ると、ジゴはもう座ってケーキを食べ始めていた。


「頭を上げて下さい、コーカデス殿」


 そう言いながらミリは、レントはジゴに感謝したのに自分が勘違いして出しゃばっているみたいでイヤだな、と思う。しかしレントに頭を下げさせたままにして置く事も出来ない。


「ジゴは気にしていない様です。ジゴ。コーカデス殿が話し掛けている最中に先に座るってどう言う事?」

「あ、申し訳ない、コーカデス殿。ミリに言っているのかと思ったので」

「いえ構いません。お二人に言ったのですし」

「え?わたくしにも?」

「コーカデス殿。紛らわしいから、私の事はジゴと呼んで下さい」

「ありがとうございます、ジゴ様。わたくしの事はレントと呼んで頂けますか?ジゴ様も、コードナ様も」

「分かりました、レント殿」

「わたくしも分かりました、レント殿。わたくしの事もミリと呼んで下さい」

「ありがとうございます、ミリ様」


 そう言うとレントが微笑んだので、ミリも釣られて微笑み返した。

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