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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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伝統と象徴

 王家主催の会で、王宮側の用意したビスケットが伝統の物とどう違うのか説明させられると言うのは、罠では無いだろうか?

 ミリはそう思った。


 レントはコーカデス伯爵家の人間。コードナ侯爵家に恨みを抱いているに違いない。

 しかし問題はこれが罠だとしたら、従弟のジゴが共犯者らしいのは納得出来ない。ジゴがミリの背中を積極的に罠の方に押している気がする。なんで?


 そんな事を考えて答えられないでいるミリと、答を待っているレントが見詰め合っていると、後から声が掛かる。


「良く気付いたな」


 振り向くと上座に座っていた男の子が立っていた。ミリがサニン王子かも知れないと思っていた子供だ。



 誰だろう?

 向こうから話し掛けて来るのだから、この国の礼儀作法的には同格以上の家の子供だ。侯爵家の子ならミリには面識があるから、そうなると王家か公爵家。

 やっぱりサニン王子?

 前回参加したジゴなら、サニン王子と面識がある。

 ミリが男の子に対してのジゴの反応を確認すると、ジゴは何かを咀嚼しているところだった。顔は男の子に向けているけれど、モグモグしているジゴの表情からは、男の子に関してのヒントが読み取れない。


 何かを口にしているところに声を掛けるのは、この国ではマナー違反だ。食事中の会話でも、話を振るときは相手の様子を確認してからだ。礼儀作法の基礎だ。

 声を掛けたい相手の口に何かが入っている時は、取り敢えず咳払いするのでも良いから自分の存在を認識して貰って、食べ終わるのを待って話し掛ける。これは上位者が下位者に話し掛ける場合でも同じだ。


 ジゴが食べている最中なのは、男の子にも見えたはず。

 つまり、男の子は礼儀作法を身に付けていない事になる。

 そうすると上座に座っていたのも、男の子から話し掛けて来たのも、上位者だからではなく、単に礼儀作法を知らないからなのだとも考えられる。

 服装もデザイン的には新しいが、素材はそれほど大した物では無い様に見える。王子が身に付けるとは思えない。


 だが、王宮側が用意したビスケットに付いて、何か知ってはいる様子だ。



 違うかも知れないと思いながら、ミリは相手をサニン王子だと想定して対応する事にした。

 たとえ相手が礼儀知らずでも、こちらがそれに合わせる必要はない。


 ミリが席を立つのと同時に、レントも立った。

 ジゴは食べ終わるまでは立てない。


 ミリとレントがその男の子に会釈をする。

 男の子はその様子を見て、アゴを上げて「ふうん」と声を出した。


「初めて見る顔だけど、私が誰だか知ってたか」


 男の子は視線をジゴに移して「ふん」と鼻を鳴らした。


「だが、そっちの知ってるヤツは、私に挨拶する気は無さそうだな。良い気になっているのか、礼儀を知らないか、あるいは両方だな」


 男の子から礼儀を持ち出すなんてつまり、この国の人間ではない?

 礼儀作法は国によって異なる。

 ミリは養祖母ピナ・コーハナル夫人に習った、食べている時に話し掛けてもOKな国を思い出す。しかし港町で聞いたあの国の言葉は、随分とこの国とは違う。

 この男の子の歳でこの国の言葉をこんなにも流暢に話せるだろうか?それに他国から貴族が来ているとの話も聞いていない。



「まあ良い。教えてやる。そのビスケットはな、この国の新しいシンボルなんだ」


 男の子は胸を反らせて自慢気にそう言うと、またアゴを上げた。


「そのビスケットは王家の直轄領と公爵領で取れた材料のみで作られているんだ。なあ?凄いだろう?」


 話の内容的に、他国から来た子供ではなさそうだ。

 そうするとサニン王子か、ウィン・コウグ公爵子息。

 公爵子息の方なら、この男の子と年齢が一致しそうだ


「昔からのビスケットはもう必要ないんだ。これからはその新しいビスケットがこの国のシンボルになるんだ。分かったか?」

 

 給仕達の慌てた様子が目に入る。

 やはりこの男の子の振る舞いは異例の様だ。

 給仕達が連絡を取る様子なので、事態を収拾してくれる人を喚んで貰えそうだ。


「どうした?聞いているのか?何とか言ったらどうだ?」


 今のは発言許可だろうか?

 そう思ってミリは、心の中で溜め息を吐いた。

 発言許可が無ければ、男の子の発言を聞き流していれば良いだけだった。でもこうなったら、ちゃんと話を聞かなければならない。


「発言をよろしいでしょうか?」


 ミリは驚いてレントを見た。

 格上の自分が何とかしなくてはならないかと思っていたからだ。

 対応してくれるなら任せてしまおう。レントの人柄も分かるかも知れないし。


「なんだ?生意気に何か言いたい事があるのか?」


 さっき自分で何とか言えって言っていたのに、生意気?

 男の子は喋る度に一段ずつ、ミリの心の中の評価の階段を()りて行く。


「言って見ろ」

「はい。王都の伝統のビスケットは、王国内の各地から取り寄せた材料で作られていると聞いております」

「それがどうした?」

「国内の結束を象徴しているのだと」

「だから何だ?」

「先程の、伝統のビスケットはもう要らない、との発言は、それが象徴する国内の結束に付いてもですか?」

「どう言う意味だ?」

「いえ、そのままの意味ですが?」


 王家と公爵三家でやっていくから他は要らないって発言よね?

 ミリはそう受け取っていた。

 しかし幼い子供の言う事だから、聞き流していたのだ。

 お宅の息子さんがこんな事言ってましたけれど良いんですか?とか、親に突き付けて攻撃材料にするのも大人気ないし。


「象徴って?」

「王国内各地から材料を取り寄せて、この王都で一つのビスケットに焼き上げているのは、王国全体の結束を象徴していると言う事です」

「でもこれからは、王家の直轄領と公爵領で取れた材料のみで作れるんだ。他に頼らなくても良いんだ。こいつらの家みたいに王国を(おど)すやつらの顔を見なくて良いんだ。どうだ?凄いだろう?」


 コードナ侯爵家は別に王国を脅しては居ないけれどね、とミリは思った。確かに王族には顔を見たくはないとは思われていそうだけれど。


「分かりました。ありがとうございます」


 そう言ってレントは男の子に会釈する。


「待ってくれ!」


 そこに別の男の子から声が掛かった。

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