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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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名乗り

 テーブルを見ると、座りやすそうな席は空いていない。

 一つのテーブルを一つのグループが使っているなら、一席空いていても座る気にはなれない。

 しかし()(さん)人のグループの隣に座るのも、駄目ではないけれど気が引ける。

 一席ずつ間を開けて一人ずつ座っているテーブルがあった。そこのどれか一席に座ったら両隣の子は席を立ちそうで、申し訳ない事になりそうだ。


 少し待っていたら、グループが席を立って、誰も座っていないテーブルが出来た。

 ホッとしてミリはそのテーブルに着こうとしたら、同じ様な事を考えていた子供は他にもいて、テーブルの傍に立つとその男の子と目が合った。


 服装的にはミリより下位の子、つまりは伯爵家子息だろう。

 ミリより上はサニン王子とコウグ公爵家の子しかいないし、侯爵家の子供達は面識があるから、それを考えても伯爵家子息だと思える。

 つまり相手はミリに譲るだろうけれど、自分と同じ様にこのテーブルを見付けたのなら、引き下がらせるのも可哀想だ。


「あなたの方が早かったみたいですね。わたくしは他に回ります」


 ミリはそう告げて微笑んだ。

 知らない相手だけれど、自分の方が格上に違いないし、こちらから声を掛けても良い筈だ。

 そこでふと、まさかこれがサニン王子じゃないよね、との考えがミリの頭に浮かぶ。


 相手の男の子はミリより背は低い。サニン王子もその筈。

 しかし痩せている。サニン王子の体型は普通との話だった。それを聞いた時に、普通って何?とミリは思ったので間違いない。サニン王子が病気に罹ったとの話は聞いていないので、急に痩せたなどではないだろう。

 着ている物も、品質は悪くはないが、デザインが少し古い。今日の主役のサニン王子本人なら、今日の為に服を仕立てたりもしているだろう。まさかこれが新しく仕立てた服ではない筈だ。


 でも参加者を油断させる為に、わざとこの様な格好をしていたら?


 ミリの作った微笑みに、小さいけれど養祖母ピナからは減点を入れられそうなヒビが入る。


 いやいやその為に痩せたりとかまでしないでしょう、とミリが思い至ってテーブルを離れようとした時に、やっとその男の子が口を開いた。


「いえ。わたくしが他に回りますので、あなたはこちらをお使い下さい」


 サニン王子かも?

 言葉は丁寧だし、口調も上品だ。


 男の子はテーブルを回ってミリの傍まで来ると、椅子を引いてくれた。

 ミリの為と言うよりは、ミリと男の子のどちらの着席を補助するか困って見ていた使用人を助けたのかも知れない。


 サニン王子だったらどうしょう?

 どちらにしても、こうやって関わってしまったからには、男の子をこのテーブルに座らせた方が良い。


「では、二人で座りませんか?」


 ミリがそう言うと、その男の子はまた動きを止めた様に見える。

 ミリを警戒しているのだろうか?


「ありがとうございます。ではわたくしは向こう側の席を使わせて頂きます」


 テーブルには椅子が6脚あり、男の子が手で示すのはミリの為に引いた椅子の真正面の席。

 テーブルの中央には花が飾られている。

 つまりミリとは会話するのが難しい席だ。


 ミリは周りから可哀想だと言われて育った。

 その中にはこの様な、人から避けられる理由を持っている事も含まれていた。

 王家からは明らかに避けられているし、神殿の敬虔な信徒には存在を否定されている。


 まあ相手は子供だから仕方ないわよね、とミリは割り切った。

 王都で生まれ育つ間に、こう言った状況にはそこそこ慣れていた。


 ミリは気持ちを隠して、ピナに合格点を貰える微笑みを浮かべる。


「それでしたらやはり、わたくしが他のテーブルに移ります」


 会釈をして「失礼」と告げると、男の子が「お待ち下さい」と言って手をミリに伸ばしかけ、しかし引っ込めながら言葉を続けた。


「あの、座って頂かないと困ります」


 男の子が口元は微笑みの形だけれど、目元には戸惑いを漂わせてそう言った。

 ミリはその表情を見て、男の子がサニン王子では無い事を確信した。サニン王子だったらミリにはこんな表情を向ける理由が無い。


 ミリには近付くなと家から言われている伯爵家子息かも知れない。

 そう想定してミリは、少し意地悪な気分になった。


「わたくしがこの席であなたが向かい側の席に座ると、このテーブルには他の子達が座れなくなってしまいます。四席が無駄になりますよね?」

「それなら一つずらします」

「そうすると一人置きに座る事になって、座れるのは後一人だけですよね?わたくしは座る所に困りながら、このテーブルが()くまで待たされたのだけれど、あなたも同じではありませんでした?」

「それはそうですが」

「では、わたくしの隣に座るのはいかがですか?」


 家から何かを言われているなら、何らかの言い訳をする筈。もしかしたら何と言われて来たのか分かるかも知れないと、ミリは考えた。


 男の子はまた動きを止めて、ミリを見詰めた。

 それに対してミリもまた、ピナ合格版の笑みを作った。

 男の子がミリに尋ねる。


「お名前を教えて頂けませんか?」


 この国でのこれは、ミリを自分以上の立場として扱った事になる。地位が上の者から名乗る必要があるからだ。そして上の者が名乗った後に名前を尋ねられない限り、下の者は名乗れない。尋ねられなければ名を覚える気は無いと明言されるのと同じだ。


「わたくしはコードナ侯爵ガダの三男バルの長女ミリと申します」


 ミリの名乗りに男の子が、唾を飲み込んで喉をならした。


「あなたのお名前を教えて下さい」


 ミリの問い掛けに、男の子は息を吸って口を開いた。


「わたくしはコーカデス伯爵スルトの長男レントと申します」


 男の子はミリと同じく、今回初参加の子だった。

 そして男の子の叔母は、あのリリ・コーカデスだった。

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