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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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交渉

 ルモはコードナ侯爵邸の客間で監禁されていた。護衛が常にルモを監視する。

 もっともルモはベッドから出られない。骨折や脇腹の怪我の為、自分で上半身を起こす事も出来なかった。

 それなので治療を拒むと言っても薬を自分で飲まないだけだ。体に薬を塗られるのは避けられないし、無理矢理口を開けさせれば薬を流し込めた。

 ただし薬と違って食事は無理矢理飲み込ませる事が出来ていない。

 水は咽せながらも飲ませられたので生きながらえているが、薬や水を飲ませる時に暴れる所為で、傷口が開く事があった。


 その部屋に、バルの祖父母のゴバとデドラ、バルの両親のガダとリルデ、バル、ラーラ、そしてリルデに抱かれたミリが入る。

 念の為、護衛も増員された。


「ルモ」


 ラーラの呼び掛けにルモが、瞑っていた目を開く。


「ラーラ様。バル様も」


 ルモはゴバ達四人にも視線を向けたが、四人の顔は知らなかったので名前は出なかった。

 ルモの視線はリルデが抱くお包みに止まる。


「そちらはミリ様ですか?」

「ええ」


 ラーラの返事にルモの表情が緩む。


「ミリ様はどこも怪我をしていないと聞きました。体調もお変わりないと。その後も問題ありませんか?」

「ええ」


 リルデがラーラの隣に立ち、ミリの顔をルモに見せた。


「良かった」

「謝罪の言葉はないの?」


 言葉を掛けたリルデをルモは見詰める。そして「はい」と小さく肯いた。


「僕がしたのは謝って赦される事ではないですから」

「謝罪の気持ちもないって事かしら?」

「はい」


 リルデの眉間に一瞬浅く皺が寄った。


「ミリ様を見せて頂いて、ありがとうございました。僕の死刑が決まったんですね?」


 また一瞬眉間に皺を寄せたリルデに代わって、ラーラが答えた。


「いいえ」


 少し目を細めたルモに向かってラーラが続ける。


「神殿に届ける食料と薬だけれど、ルモが食べたり飲んだりした分だけ送る事にしたわ」

「ラーラ様。それは非道いです」

「あなたがした事ほど、非道くはないでしょう?」

「だって僕が死ななければ、神殿への提供が続くって言うのでしょう?」

「そうね。あなたが長く生きれば、ぎりぎりの所で命を救われる人が出るわね」

「やっぱり、非道いじゃないですか」

「だって悪魔だもの」


 ラーラの言葉にルモは泣きそうな顔をした。


「ラーラ様は悪魔じゃないです」

「あら?神殿の教えは良いの?」

「あれは信徒が勝手に言った事で、神殿はラーラ様を悪魔とは言ってません」

「神官に聞いたの?」

「はい」

「悪魔と言えないだけで、悪魔かもよ?」

「この世に悪魔がいるなら、ミリ様を殺せと命じた人の方です」

「それも神官が?」

「いいえ。ミリ様の魂の解放がミリ様を殺す事だと分かった時にそう気付きました。悪魔は人を騙すと言うけど、騙された僕も悪魔の仲間です」

「ルモが悪魔の仲間かどうかは興味がないけれど」

「ラーラ様はミリ様にしか興味ないですよね」

「でもルモが神殿に身を寄せている人を助ける為に、これからは食事を摂るだろうって言うのは分かるわ」

「それ、僕に負けを認めさせる積もりって事?」

「別に。勝負をしている積もりはないけれど、ルモが死ねば私の勝ちなのでしょうね」


 ルモは視線を下げて「ズルいなぁ」と呟く。


 そこへラーラのお母ちゃん事マイが小さな男の子と手を繋ぎ、もう一方は腕に赤ん坊を抱いて、部屋に入って来た。


「ルモニィ」


 男の子がマイの手を離して、ルモのベッドに走り寄る。もう少しの所でピタリと足を止めて、マイを振り向いた。マイに肯かれると男の子も肯き返し、ルモのベッドにゆっくりと近寄る。


「ルモニィ、お怪我大丈夫?」

「うん」

「お怪我、痛くない?」

「うん、痛くない。大丈夫だよ」

「良かった。もう治る?」

「まだ直ぐには治らないよ」

「いつ治る?もういっぱい寝たよ?」

「もっともっといっぱい寝て、いっぱい食べたらね」

「そしたらまた、肩車してくれる?」


 そこでルモは言葉に詰まる。


「ダメ?」

「僕はもう出来ないから、他の人にお願いしな」

「ルモニィが良い」

「他の人も上手だよ」

「なんでルモニィじゃダメなの?」

「・・・怪我したから、もう出来なくなったんだ」

「ふ~ん。じゃあ僕がやったげる。僕がルモニィを肩車するよ」

「ふふっ、おチビには無理だよ」

「いっぱい寝ていっぱい食べたら大っきくなるんでしょ?ルモニィが治った時にはルモニィより大っきいもん」

「そうかな?」

「そうでしょ?」

「・・・そうだね」


 マイに抱かれた赤ん坊が、ルモに両手を伸ばす。マイはベッド脇に膝を付いて、赤ん坊をルモに近付けた。

 ルモが手を出すと、その手を赤ん坊が両手で掴む。男の子が「僕も」と言って、二人の手を包む様に握った。


 男の子が取り止めのない事を喋る。

 赤ん坊がルモの所に行きたくて、マイの手から逃げようと体を捻る。

 ルモは唇を何度か開いたり閉じたりするが、言葉は出なかった。



「さあ、お終い」


 マイの言葉に男の子が「もう?」と返す。


「言う事をきく約束でしょう?」

「うん。ルモニィ、また来るから、早く良くなってね?」

「うん」

「ほら、ルモニィにバイバイしな」


 そう言うと男の子は赤ん坊の手を取って、左右に揺らした。


「ルモニィ、バイバイ」

「うん。バイバイ」

「またね」

「うん。また」


 男の子達が部屋を出て行ってから、ラーラが口を開く。


「また会いたいなら、生きていないとね」

「ラーラ様、ズルいです」


 そう言って困った顔をした後に、また泣きそうな表情を浮かべた。


「どうせ死刑になるのに、残酷ですよ、ラーラ様」

「ちゃんと罰を受けなければダメよ」

「なんで?このまま死んでも死刑で死んでも、一緒でしょ?」

「罰を受けると言うのは罪を償う事よ。このまま死ぬのは逃げる事。卑怯な事だわ」

「僕から見たら一緒ですよ」

「一緒なら、ちゃんと生きて罰を受けなさい」

「違いますよ。どっちにしても死ぬのが一緒」

「死んだらあの子達の面倒は見ないわよ」

「え?約束が違う」

「ルモがちゃんと罰を受けて償うなら、罪は相殺される。でも罰を受けないならあの子達に罪を被って貰うわ」

「え?なんで?そんなの理屈が通らないじゃないですか」

「ルモがあの二人を大切にしている事も、あの二人がルモを大好きな事も、さっきので良く分かったわ。ルモが罪を償わなかったと伝えれば、あの二人なら代わりに償ってくれるんじゃない?」

「そんなのダメです。僕とあの二人は血が繋がっていないんだから」

「ダメかどうかはルモが死んでから残された人間で決めるわ」

「そんなの非道いよ」

「そう。自分の罪を償わずに死にたがるなんて非道いわよね」


 ルモはラーラを見詰めた。


「僕がちゃんと食べれば神殿にも食べ物を届けてくれるし、罰を受ければあの子達の面倒も見てくれるんですね?」

「ええ。それは約束するわ」


 ルモは目を瞑り、「分かりました」と言うとまたラーラを見る。


「早速食べますから、手配をお願い出来ますか?」

「分かったわ。ちゃんと薬も飲むのよ?」

「はい」


 ルモはしっかりと肯いた。

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