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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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提案と話し合い

 バルの祖父母でコードナ侯爵夫妻のゴバとデドラ、バルの両親ガダとリルデ、そしてバルとラーラで話し合いが始まった。


 話題はミリを誘拐したルモについてだ。



「ルモを死んだ事にするのはどうでしょうか?」


 ラーラの問い掛けに、ゴバとガダは眉間に皺を寄せた。

 ルモの境遇とミリを攫った経緯に付いては同情しない事もないが、ラーラの提案にはリスクがある。


 何を言ってるんだ、との思いが強くてゴバとガダが言葉を出せないでいると、デドラが口を開いた。


「そうですね。それはコードナ家にはメリットがありますか?」

「はい」


 間髪入れないラーラの返事に、ゴバとガダの眉間の皺が深くなる。

 もしかしたら根回しがしてあって、デドラとラーラは打合せ済みなのか?そうなると二人に、良い様に結論が導かれてしまうかも知れない。

 ゴバとガダは警戒を強める。


「子供を死刑にしたとなると、コードナ家は多くの人々の反感を買うでしょう。ですが誘拐犯の与えた怪我で亡くなったとすれば、子供を死なせた事への非難は誘拐犯に向きます」

「反感も何も、平民が貴族を攫ったのだから、死刑は当然だろう?」


 ガダの言葉にラーラは「いいえ」と首を振る。


「罰を知っていても、子供を死刑にするのは感情が許しません。当たり前だとは思えない人が多い筈です」

「感情が許そうが許すまいが、罪を犯したら相応の罰を受けるのは当然だ」

「私の誘拐事件で当時の護衛隊長達が処刑された時に、その家族も一緒に処刑されています。その時に子供達には同情が集まりました。ですが処刑を命じた裁判官と刑務長が直ぐに亡くなっていたので、子供達を死なせた事に対して非難の声は上がりませんでした。今回子供を死刑にすれば、その時の事も思い出されて、非難する感情に上乗せされると思います」

「前回の罪は王族に対する不敬だ。今回の件とは関係ないだろう?」

「人々に取っては私の誘拐事件での出来事です。子供達の処刑理由を思い出す人もいるでしょうけれど、感情的には私の所為とされるでしょう」

「法に則った罰であると、納得しないものなのか?」

「法律を変えられるのは貴族だけです。法律上正しい裁きだとの主張をすれば、貴族に押し付けられた法律で処刑された全ての平民に対する同情が、ルモの死刑への批判に繋がるでしょう」


 ゴバが口を挟む。


「押し付けられたとの表現は穏やかではないな」

「ですが、平民の正直な気持ちです」


 平民はこうだ、とラーラが言えば、この場にいる生まれも育ちも貴族の面々は否定が出来ない。


 リルデが口を開く。


「死刑は免れても子供が死んでいるのなら、子供を助けなかったと言う批判が出るわ」

「誘拐犯が与えた怪我が酷いと言う事と、コードナ家が懸命に治療をしている事をアピールすれば、批判は抑えられる」


 リルデの問いにバルが答えた。


「何の為に?助けても死刑が待っているだけなのよ?何の為に、コードナ家はルモを治療するの?」

「それはルモを家族に会わせる為だ」

「家族は亡くなっているのではなかった?」

「その様だけれど、我々もルモもそれを知らない事にする」

「家族を探すアピールもするの?」

「そうだよ」

「ルモの家族を探し出して、罪を償わせようとしているって思われない?ソウサ家が強姦犯を(おび)き出した様に」

「それは・・・」


 ガダが「そうだな」と肯いた。


「それに、家族を探せば直ぐに死んでいる事が分かる筈だ。そうしたらルモの治療は不要になる」

「そうかも知れないけれど、ルモの家族の情報が中々集まらない事にして探し続ける方が、コードナ家がルモの為に力を尽くしているアピールになる」

「平民にはそう見えるかも知れないが、貴族にはコードナ家の情報収集能力は貧弱だと(あなど)られる」

「それは・・・」


 今度はゴバが「そうだな」と肯く。


「そして嘘は弱味になる」

「そうだけれど」

「嘘を隠す為に嘘を重ねれば、弱味は増す。だからと言って嘘が発覚してから子供を処刑したら、もっと非難が集まるのではないか?」

「それは・・・」

「その子供は死にたがっているのだろう?嘘を()いてまで助けなくてもそのまま死なせてやれば、子供を死刑にしたとの批判は出ない」


 ガダの言葉にデドラが「そうですね」と言う。


「それにそれらの話が上手くいったとしても、それはデメリットの回避であって、コードナ家のメリットにはなりません」


 その言葉にゴバとガダとリルデが肯いた。


「でもデメリットは回避出来るのです」


 ラーラが食い下がる。


「領主に対して批判があれば、領民の生産性は落ちます。一人一人の生産性が例えば1割落ちたとした場合、領地全体での低下は1割では済みません。作業が連鎖する生産で1割落ちが何度も行われれば、直ぐに2割3割落ちます」

「それは死刑の前にルモが死んだと嘘を吐いた場合も、実際にルモが死んだ場合も同じです」

「実情を知っている人間には違う」


 バルがラーラに加勢する。


「コードナ家がルモに温情を掛けた事を知っているなら、もっと働いてくれる筈だ」

「秘密を知る者が増えれば秘密が漏れる危険が増す。信用できる者にだけ伝えるなら効果は限定的だし、信用できる者達は既に充分働いてくれている」


 バルにゴバが返した。ガダも続ける。


「他家の情報収集能力も甘く見過ぎだ。誘拐実行犯を死なせたとなれば、必ず探りに来る。秘密を漏らさないコツは、先ずは秘密の気配さえさせずに、探りに来させない事だ」

「デメリットの回避も疑わしいわ」


 リルデも続く。


「死刑にするのと怪我で死ぬのを並べて比べれば、死刑にする方がインパクトは大きいでしょう。けれど怪我で死んでも衝撃は充分だわ。万全の治療を(ほどこ)したといくら言い張っても、結果として死なせてしまっているのだし、付け込みたい人達、騒ぎ立てたい人達には充分よ」

「確かにデメリットの回避にはなってないな」

「ええ」


 ガダの同意にリルデは肯いた。


「バル、ラーラ。ルモを助けたいと言うのは本当なの?ルモはミリを攫ったのよ?」

「だけどルモは信徒会の連中に騙されて、利用されていただけだ」

「それでも誘拐は誘拐じゃない。それも身代金目当てとかではなく、ミリの命を奪う事が目的の誘拐だったのよ?」

「分かっています。しかしルモはミリを救う積もりでした。実際にミリを庇ってルモは怪我をしています。私が動けば助けられる可能性があるのですから、助けたいと思います」

「助けたいも何も、本人に生きる積もりがないのでしょう?」

「そうですね。嘘を吐いてまで、その様な子供を守る価値があるとは思えません」


 そう言うデドラに、バルとラーラの視線が向く。


「ルモに生きようと思わせて、価値がある事を皆様に認めて頂ければよろしいのですね?」


 ラーラの返しにデドラが「そうですね」と応える。 


「価値があるのでしたら」


 肯くテドラにラーラも肯き返した。

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