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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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望む事

 学院を襲撃した犯人全員が信徒会の信徒だった事と、神官に寄付を着服された被害が発生している事を王宮が発表したのは、コーハナル侯爵家系の文官の働きだった。

 ミリ誘拐を直ぐに公表してしまった失敗を不問にする代わりに、王宮が発表タイミングを計っていた二件に付いて(おおやけ)にさせたのだ。

 その狙いは神殿や信徒達からの証拠集めを実行し易くする事にあった。


 ミリの誘拐事件の真相究明の為として、コードナ侯爵家は証拠を押収していく。

 それは信徒会の拠点だけではなく、誘拐容疑や名誉棄損で捕らえた信徒の自宅もそうだし、各神殿にも力尽くで押し入り、証拠となりそうな物は一つ残らず運び出した。


 各神殿は当然抗議をしたし抵抗もした。

 しかし身を寄せている信徒がラーラを悪魔呼ばわりしてその場で拘束されたり、ラーラやバルを侮辱する手紙を神官が受け取っていたのが見付かったりすると、抗議や抵抗は勢いを失くしていった。



 ラーラはミリを抱きながらパノと共に、バルの報告を聞いていた。


「誘拐の主犯は二人で、実行犯は子供が一人だった」

「子供って、ルモよね?」


 ラーラが眉根を寄せる。


「ああ」

「ルモも自白したの?」

「誘拐は悪い事だと分かっていたそうだ。家族の病気を治してやると言われて、ミリを攫ったと言っている」

「そう・・・自分の家族の為に、ミリを犠牲にしようとしたのね」

「いや、どうもそういう積もりではなかったらしくて、ミリを悪魔から救おうとしていたらしい」

「悪魔って、私?」

「そうなんだろうな」


 バルと一緒にパノが小さく溜め息を吐いた。


「大人がラーラを悪魔呼ばわりしていたら、子供もそう思っちゃうわよね」

「でも救うって、どうやって?」

「家族の病気も悪魔の所為で、それを治す方法でミリも治せると思っていたらしい」

「家族は病気なの?治ったの?」 

「いや。誘拐犯達の話だと、亡くなっているみたいだ。今は確認中だ」

「家族って、全員?」

「ああ。ルモ以外全員」

「それって、ルモを騙してたって事?」


 パノが低い声を出す。


「そうだけれどその上に、ルモに渡る筈の財産を奪っていたみたいなんだ」

「え?それは非道くない?」

「ルモの家族が亡くなっていれば死因を確認するし、必要なら死因調査もする事になるだろう」

「家族を失くして、財産も盗られて、誘拐の手伝いをさせられて、可哀想過ぎない?」

「その上、大怪我だ」

「怪我はミリを守ったからって聞いたけれど、それで罪は軽くなるの?」

「貴族家の人間を平民が攫ったのだから、軽くなってもならなくても死罪だな」


 バルの答えにラーラは眉間の溝を深くして、俯く様にミリに視線を落とした。


「仕方ないわよね。貴族の権威を守る為だもの。たとえコードナ侯爵家が赦しても法が赦さないわ」


 そう言ってパノも視線を下げる。


「同じ拠点にいた奴等もだ。主犯以外も、ミリを助けようとしなかった時点で死罪だ」

「そうよね」

「ミリが誰だか知らなかったと言い張っていた奴もいたが、そいつがミリを悪魔の子と呼んでいた証言が他の奴等から取れた。()める様に言ったと言う奴も、言っただけで行動を起こしていないしな」

「ミリを守ろうと行動したのは、ミリを攫ったルモだけなのね」

「ああ」


 バルもパノもまた小さな溜め息を吐く。


「ルモには弟か妹がいたかも知れないって話だったけれど、その子達もきっと亡くなっているのね」


 ラーラが独り言の様に呟いた言葉にバルは「そうだね」と返した。


「妹が一人。二人兄妹だったらしい」

「やっぱり。だからミリの世話が上手だったのね」


 そう言ってラーラが淋し気な微笑みを浮かべるのを見たパノは、バルに視線を向ける。

 

「コードナ侯爵家に身を寄せている他の子達は?」

「ミリの誘拐やミリを悪魔から救うと考えている子はいないらしい。ラーラの事も悪魔とは思っていないみたいだ」

「そうなのね」

「コードナ侯爵家に来る前はそう思っていたと言う子はいて、この家にラーラがいるとは知らなくて来たらしい。ラーラが悪魔と言われていた本人だと気付いた時は驚いたけれど、自分の目で見たら悪魔には見えなくて、神官に確かめたそうだ」

「神官?神官はラーラに付いてなんて言ったの?」

「神殿としてはラーラとミリを祝福していないけれど、悪魔とは認定していないと言われたそうだよ」

「祝福していないは余計よね」

「事実だもの」

「そうだけれど、わざわざ言うのが癪にさわるわ」


 パノの言葉と表情に薄く笑ったラーラは、表情を消してバルに問い掛ける。


「ルモが助かる方法はないの?」

「・・・ない」

「・・・そう」


 ラーラは視線を下げてミリを見る。


「それに、ルモもそれを望まないだろう」

「え?どう言う事?」


 パノが目を細めてバルに尋ねた。ラーラも顔を上げる。


「家族の所に行きたいと言っている」

「それって、でも、ルモは家族が病気だと思っているのよね?」

「いや。今は家族全員が亡くなっていると思っている。そして今は治療も食事も拒否している」

「誰かが教えたの?」

「誘拐犯達から、ミリを庇って死んだら地獄に落ちるから、天国にいる家族と会えないって言われたらしい」

「そんな事を子供に言ったの?」

「言った本人は否定しているらしいけれどな。それでルモはもうどうせ家族には会えないからって、生きる事を諦めている」

「死のうとしているって訳?」

「ルモの分の食べ物も薬も、神殿に届けてくれと」

「そんな・・・」


 パノはルモの姿を思い出して、声を詰まらせた。

 感情を見せない顔の裏で、何を考えているのか分からない、少し不気味な子だった。

 でも、ミリには優しい表情を向けていた。バルがミリを抱く姿に、心配そうな顔を見せた時もあった。


「ルモの世話をしている使用人も精神的に参っている。怪我を治しても食べさせても、死罪になる事が分かっているからな。食べるのを()めて治療も拒むルモに、だからと言って痩せたり怪我が悪化したりするのを見ているだけは出来ないし」

「最初は食べていたの?」

「ああ。証言を残す為にな。治療も受けていた」

「え?どう言う事?」

「ルモの証言が必要だと伝えた時に、ルモと一緒に神殿から来た子の事を守ってくれるなら証言すると言ったそうだ」

「交換条件を出したの?」

「ああ。まだ幼い子がルモに付いて来たがって、一緒にコードナ家に連れて来たらしい。ここに来てからもルモが面倒を見ていた」

「自分がいなくなった後の事を心配したのね」

「そうかもな。だから証言をする為に死なない様に、治療も受けたし食事もしていたみたいだ。けれど全ての証言を取り終えた事を伝えると、それからは生きる事を拒否しているそうだ」

「なんでそんなに考えられる子が、ミリを攫うなんて事をしたの?貴族を攫ったらどうなるか、知らなかったから?」

「ミリを救えば、ラーラも救えると考えたらしい」

「どう言う事?」

「ラーラがミリを大切にしているのは見ていて良く分かったから、ミリが正しく育つ事が出来れば、ミリ自身がラーラを救う筈だと」

「そんな・・・」

「貴族を攫ったらどうなるかは、知らなかったらしいけれどな」


 そのバルの言葉には、パノはもう声を上げなかった。

 ラーラが「バル」と声を掛ける。


「ルモは家族に会う事を諦めているの?」

「ああ。自分は地獄に落ちると思っているから」

「家族は本当に亡くなっているの?」

「まだ確認中だ。しかし生きているなら、子供を探しに来るんじゃないか?」

「ルモが望む事って他にないの?連れて来た子の面倒を見て貰う事と、食料と薬を神殿に届ける事以外に」

「望みと言うか、連れて来た子に会いたがった事はあるらしい。あとミリにも」

「連れて来た子には会わせてないのね?」

「食事をするなら連れて来た子に会わせるとルモに言ったら、それなら会わなくて良いと答えたそうだ。それきり会いたいとは言わないらしい」

「そう」


 ラーラは目を伏せた。

 それに釣られる様にバルもパノも目を伏せる。


 しばらくしてまたラーラが「バル」と声を掛けた。

 声に反応してバルとパノが見たラーラは、真剣な目をしていた。


「私は助けられるならルモを助けたいと思う。バルはどう?」

「助けるって、命を?魂を?」

「魂・・・魂は考えてなかったけれど、取り敢えず命を」

「俺も気持ちとしては助けたいと思う」

「パノは?」

「助けたい。だってルモがいなければ、ミリは帰って来なかったかも知れないのだもの」

「それを言ったら、ルモがいなければミリは攫われなかったじゃないか」

「そうだけれど、違うわよ」

「二人とも、ルモを助けられるかも知れないとしたら、手伝ってくれる?」

「もちろんよ」

「何か手があるのか?」

「頭を下げようかと思って」

「え?誰に対して?」

「みんなに」


 そう言ってラーラは、自分の言葉に肯いた。

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