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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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誘拐の報告

 ラーラ達がミリが誘拐されていた事を聞いたのは、学院から帰宅して離れに戻ってミリの顔を見てからだった。


「誘拐?!」

「ミリが?!」


 バルとパノの声が驚きに裏返る。

 ラーラは顔色を失くし、ハッと気付いて腕の中のミリの顔を見た。

 横からパノが覗き込み、お(くる)みを(めく)ってミリの体を確認する。


「怪我はなかったのか?」

「はい」


 バルの厳しい口調にラーラのお母ちゃん(こと)マイが、俯き加減に小さな声で答える。


「なぜ誘拐なんて起こったの?」


 パノがミリの手足を確認しながら、低い声を出す。


「神殿から来た子供の一人が、ミリ様を連れ出した模様です」

「それは父や祖父は知っているのか?」

「はい」

「詳しい話を聞いてくる」


 バルが部屋から出て行った。


「他の子達は?」

「本邸の一室に集められております」

「前からいた子も?」

「はい」

「子供達から話を聞いたの?」

「一人一人から聞くとの事でしたが、聴取が始まっているかは分かりません」

「使用人達からは?」

「使用人達への状況確認はありました。事情聴取などはこれからかと存じます」

「そう。分かりました」


 パノはミリのお包みを直して、肩を震わすラーラの背中に手を置いた。


「大丈夫よ」

「うん」

「バルと一緒に話を聞きに行く?」

「・・・ううん。待ってる」

「そう。じゃあお茶を淹れるわね。飲みながら待ちましょう」

「ありがとう、パノ」

「どういたしまして」


 そう言って微笑みを作るパノの指先も震えていた。



 バルは祖父ゴバと父ガダに経緯を確認していた。


「バル達の通学の馬車が門を出る時に、ルモと言う子供にミリが外に連れ出されたのではないかと言う話だ」


 ガダの言葉にバルの声が低くなる。


「使用人も護衛も誰も気付かなかったと?」

「気付いた者がいれば、防いでいただろう」

「それはそうだけれど」

「その後は侍女達はラーラの身支度の後始末、メイド達はミリの洗濯物やミルクの用意に取り掛かっていて、ミルクの時間だからと部屋に行って初めてミリがいない事に気付いたそうだ」

「その間、誰もミリを見ていなかったのか?」

「その時間帯にミリを見るのはルモの役目だった」

「そいつ一人で?」

「いつもは何かあれば大人を呼ぶから、その子以外でも一人だけでミリの相手をさせる事はあったそうだ」

「なんて言う事を」

「メイド達も下働き達も、子供達に仕事を教えたり、まだ働けない子の相手をしたりもあって忙しく、皆の意識からミリの事が抜けていたのだろう。ルモと言うのはミリの世話を良く出来ていたし、小さい子の面倒も良く見ていたそうなので、任せておいても安心だったそうだから」

「だからって目を離すなんて」

「そうだな」

「そうだなでは済まないじゃないか!」

「ああ。済ませる積もりはない」

「そのルモってヤツは?捕まえたんだよな?」

「意識がない」

「捕らえる時に?」

「いや。重傷だが、信徒会の大人がやった様だな」

「それならまだそいつから話が聞けていないのか」

「そうだ」

「信徒会のやつらは?」

「各家に預けた」

「そいつらは自白したのか?」

「ルモが勝手に連れて来たと言っているとの事だ」

「なんだと?!」

「自分は誘拐の事を知らなかったのだと言っているやつもいる。自分は、とな。だから他の誰かがルモに連れて来いと言っていた可能性もあるな」

「つまりルモの回復待ちか」

「容疑者の証言に食い違いもある様だから、ダン式で自白を引き出せるかもな」

「ダン式って、ダンさんがやったやつか」

「今も一人一人別の家に預けているから、自白するなら早い者勝ちと言えば容疑者も焦るだろう」

「それにしても、何で俺に連絡をくれなかったんだ?」

「その文句は王宮に言え」


 それまで黙っていたゴバが、憮然とした表情で答えた。


「王宮が何を?」

「ミリが誘拐された事を直ぐに公表した」

「なんだと!」


 バルが椅子から立ち上がりながら、テーブルを「バン」と叩く。

 ガダが「まあまあ」と手のひらを上下に揺らして、バルに座る様に促した。


「それなので対策を練る時間もなく、噂が広がるより先に何とかしようとしたんだ」

「何とかって?」

「それがダンが、逆に信徒会が犯人だとして誘拐があった事を広めようと言い出して」

「え?そんな事をしたら、犯人が追い詰められたと思って自棄(やけ)にでもなったら、ミリが危険に曝されたんじゃないのか?」

「それは分からないが」

「分からないってどう言う事だ?!」

「それの文句ならダンに言え。とにかく、その噂を聞いて騒がない拠点にミリがいる筈だと言うので、一箇所だけあった静かな拠点の周りで情報を集めたら、ルモらしき子供が拠点に行く目撃情報が集まったんだ」

「そんなに直ぐに分かったのか」

「ソウサ商会が信徒会の拠点情報を持っていたからな」

「え?それは何故?」

「商売の邪魔をされるから、警戒対象にしているとダンは言っていたな」

「それで?拠点の情報があったから、出入りするやつらを捕まえられたのか?」

「いや。護衛達に突入させて、ミリの身柄を確保した」

「なんで?!突入させた所為でミリに何かあったらどうする気だ?!」

「虚を突く為だ」

「それにしたって」

「王宮が誘拐を公開してなければ、じっくりと時間を掛ける事が出来たかも知れないな」


 バルはゴバに視線を向けた。


「王宮はなんで公表したんだ?」

「手違いだとの事だが」

「手違い?手違いでミリの命を危険に曝したのか?」

「ミリがまだ赤ん坊なので貞操の危険がないとの判断がされたが、それが命の危険がないとの話で伝わって、赤ん坊なので早く対応しないと逆に命が危険だと判断したそうだ」

「なんだそれは?」

「分からん。コーハナル系の文官が確認してくれている。後で報告が来るだろう」

「納得いかない。何もかも納得いかない!」


 バルは今度は座ったまま、テーブルを「バン」と叩いた。


「でも一番納得いかないのは、俺にもラーラにも連絡がなかった事だ!」

「お前はラーラが誘拐された時の事を忘れたのか?」


 ガダが呆れた口調で言った。


「教えたらバルが邪魔になると思ったから、教えなかったんだ」

「そんなの非道いじゃないか!仮にも俺はミリの父親だぞ?!」

「ラーラやパノに教えればバルに伝わって手間が掛かると思ったから、学院には連絡しなかった。ラーラが知らなかったのもバルの所為だから、謝っておけ」

「え?俺の所為で?」

「ああ。お前の所為だ」


 バルは目を大きく見開いた後、ガックリと項垂れた。


「今回も冷静さを欠いてこれ程騒ぐなら、次もバルには教えられないな」

「次なんて、あって(たま)るか」



 翌日もバルとパノは登校し、その後も学院に通い続けたが、ラーラはその日以来学院を休み、一日中ミリの傍を離れなくなった。



 ルモの意識が回復した事を知ると、誘拐の容疑者達は自白を始めた。

 始めは保身の為の証言が主体だったが、ルモや他の容疑者の言葉を意図的に選択して伝えると、次々と仲間を売る様な証言がされて行った。



 なお、意識を回復したルモの最初の言葉は、ミリの安否を尋ねるものだった。

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