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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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誘拐、解放

 学院に登校するバル達に玄関で使用人達が頭を下げた時、ミリを抱いたルモは一足早く離れの奥に進んだ。そしてそのまま裏口から離れの外に出る。

 ルモは離れの周りを回って、門に向かった。


 門の所では、子供達が集まっていた。

 門前には貴族家の子息令嬢を乗せた馬車がバル達を待っており、騎馬した護衛達も大勢いる。

 前からコードナ侯爵家に身を寄せていた子供達が、新しく神殿から来た子供達に、集まった護衛や馬車を説明している。どの制服がどこの貴族家だとか、あの紋章はどの家の馬車だとか、教えていた。


 ルモはミリを抱いたまま、子供達の中に紛れ込む。


 そして背後からラーラ達を乗せた馬車が来ると、子供達は門の内外に左右に()けて、馬車が門を通れる様にした。


 ルモはこの時、門の外へ出た。


 門を守る護衛達は、門前の他家の護衛達に意識を向けていた。

 馴染みのある貴族家の護衛ばかりだったが、皆が帯剣している。

 コードナ侯爵家の護衛達は、万が一に備えて他家の護衛達に注意を払っていた。

 傍にいる子供達がラーラ達の乗る馬車が進む邪魔にならない事が確認できたら、護衛達はそれ以降子供達に視線を向ける事はなかった。


 リーダー格の子供の号令で、子供達は邸や離れに戻って行く。


 この時にルモはラーラ達の馬車とは反対方向に動いて、誰からも見られない位置を取った。



 馬車も護衛も見えなくなった事を確認して、ルモは道の上に立つ。

 お(くる)みに(くる)まれたミリの顔を覗き込んで、ルモは「もう大丈夫だよ」と微笑み掛けた。


 ルモは道をラーラ達が進んだのとは反対方向に歩き出す。



 王都の神殿の一つにほど近い場所にある信徒会の拠点に、ルモは入って行った。


 中にいた信徒達がルモに気付く。


「お前、ルモじゃないか」

「ルモ?本当だ」

「お前、良く顔を出せたな?」

「悪魔の手先になったんじゃないのか?」

「まあ待つんだ。改心したのかも知れない」

「そうだな。何の用だ、ルモ?」

「お前にやれる食べ物はないぞ」

「その手に持っているのはなんだ?」

「もしかして食べ物を持って来たのか?」


 ここまで来るのに疲れていたルモは、信徒達の立て続けの言葉に上手く声を出せなかった。

 ルモは黙ったままお包みを(めく)り、ミリの顔を信徒達に見せた。


「お前・・・それは・・・」


 信徒達が言葉に詰まったので、やっとルモが口を開く。


「ミリ様を連れて来た」


 信徒達は驚きの表情を浮かべ、そのまま身動きをしなかった。


「もうすぐミルクの時間なんだ。食べ物じゃなくてミルクが欲しい」

「いや・・・なんで・・・」

「・・・ミリって悪魔の子か?」

「良くやった!」

「いや、拙いだろう?」

「そうだ!なんで連れて来た?!」

「だって、ミリ様を救ってくれるんだろう?」

「その通りだ」

「いやいや、どうする積もりだ?!」

「救うに決まっているだろう?」

「そうだな。救うしかない」

「いや、だから、救うってどうする気だ?」

「どうするもこうするもないだろう?」

「そう。悪魔の子の魂を救う方法は一つだ」

「一つって・・・」

「・・・まだ赤ん坊だぞ?」

「だからどうした?」

「悪魔の所為でどれだけの赤ん坊が死んだ?」

「赤ん坊だけじゃない」

「いや、そうだが・・・」

「しかし・・・」


 信徒達の遣り取りを横に、ルモはミリを抱いたまま椅子に腰掛けた。


「話より先にミルクが欲しいんだけど?」


 信徒達がルモとミリを振り向く。


「ミルクはない」

「え?用意してないの?」

「ああ」

「なんで悪魔の子を連れて来たんだ?」

「だって連れて来いって言ってたじゃないか?ミリ様を救ってくれるって」

「ああ、救ってやる」

「悪魔の子を様付けするな」

「救うって、誰がやるんだ?」

「それは決まってるだろう?」


 一人がナイフを取り出し、ルモに差し出した。


「ルモ。お前がその子を救ってやれ」


 ミリをしっかりと片腕で抱き抱え、ルモがナイフを受け取る。


「救うって?」

「魂を解放してやるんだ」

「どうやって?」

「首にナイフを当てて、引くだけだ」

「え?」


 ルモはナイフの刃を見詰めた。


「おい!待て!」

「本当にやるのか?」

「そんな事したら」

「今更遅い」

「そうだ。こうやって攫って来てしまったら、もう結果は同じだ」

「いや!俺は知らない!」

「そうだ!私も知らなかった!」

「私もだ!攫って来いなんて言ってない!」

「遅いんだよ、もう」

「どこ行く気だ?」

退()け!」

「逃がすかよ」

「お前らが勝手にやったんだろう!」

「おいおい慌てるなって」

「そうだ。これは正しい行いなんだ。逃げなくて良い」

「正しい行いなら、君達だけでやれば良い!」

「そうだ!退いてくれ!」

「お前達、ここを出てどこへ行く積もりだ?」

「コードナ家に連絡する気じゃないよな?」

「しない!私はしない!」

「俺もだ!誰にも言わない!」

「それならここにいても一緒だろう?」

「いや、しかし」

「こうなったら、覚悟しなよ」

「そうだぞ?これは神の御心に沿った正しい行いなのだから」

「そうだな。ほら、ルモ。早くその子の魂を解放するんだ」

「どう言う事?ナイフを使ったら、ミリ様が怪我するじゃないか」

「悪魔の子の体は穢れている。だからそのナイフで、体から魂を切り離す必要があるんだ」

「それって、死んじゃうって事じゃないの?」

「そうだ」

「悪魔の子は生きていてはダメなんだ」

「だって、死んだらもう会えないんだろう?」

「大丈夫。魂になれば救われる」

「でも・・・」

「・・・ルモ。その子もお前の家族の所に送ってやれ」

「え?」

「いや、待て!」

「どうした?」

「なんで?僕の家族を助けてくれるんじゃ」

「助ける!ルモの家族は無事だ!」

「送るって、僕も?僕も家族に会わせてくれるの?」

「ルモの家族は病気だって言っただろう?病気が治るまではダメだ。うつるからな」

「ミリ様が死んだらなんで僕の家族の所に」

「いや、違う。俺が間違えたみたいだ。ルモの家族は無事だ」

「ルモも会わせてやりゃあ良いじゃないか」

「何を言うんだ。ルモを誰がやるんだよ?」

「ルモの家族は病気なだけで無事だ。だから心配ない」

「みんな?みんな無事なの?」

「みんな無事だとも」

「まだ、誰も病気が治らないの?」

「ああ。まだダメだ」

「でも治るの?」

「ああ、治る」

「治してくれるんだよね?」

「ああ、任せとけ。みんな治してやる」

「ほら、家族は治してくれるって言うんだから、心配しないで悪魔の子もさっさと解放してやれ」

「そうだぞ。急がないと悪魔の仲間がその子を攫いに来るぞ?」

「僕は病気がうつるから会わせて貰えないんだよね?」

「そうだ」

「良いから、ほら、急いで」

「うつっても良いから会わせて」

「うつったら大変なんだぞ?説明したろう?忘れたのか?」

「でも治せるんでしょう?うつっても良いから会わせて」

「それは、その悪魔の子を解放してからだ」

「僕の家族は悪魔の所為で病気になった」

「ああ。その通りだ」

「僕の家族は助けてくれるんだよね?」

「そう言ってるだろう?」

「どうやって?」

「どうって、それは」

「それは秘密の儀式をするから、ルモには教えられない」

「それなのにミリ様はここで救うんだね?」

「あ、いや」

「もちろんそうだ」

「僕の家族にも首にナイフを当てたの?」


 ルモはナイフをしっかりと握った。



 ミリとルモがいなくなった事に気付いたコードナ侯爵家は、直ぐに王宮に誘拐事件として届け出た。

 それと同時にソウサ商会の従業員が、信徒会の人間が子供と赤ん坊を誘拐したとの情報を信徒会の各拠点の周囲に広めた。


 その情報を流しているのがソウサ商会だと知った信徒会の信徒達は、抗議の声を上げて騒ぎ立てる。


 しかし拠点の中で一箇所だけ、騒ぎの起こらない場所があった。

 ルモがミリを連れて行った所だ。


 ソウサ商会の従業員はその拠点周辺で情報を集め、ルモらしき子供が重そうな荷物を大事そうに抱き抱えてその拠点に入って行った事を突き止める。


 ソウサ商会の護衛達がその拠点の周囲を固み、コードナ侯爵家の護衛が拠点に踏み込んだ。

 拠点の制圧は呆気なく終わった。


 ルモは重傷だったが、ミリは無傷で助け出された。



 誘拐の容疑者達が捕まった後も、誘拐容疑を掛けられた他の拠点の信徒会信徒達は騒ぎ続けていた。


 そこへ王宮から、学院襲撃犯の全員が信徒会の信徒だった事が発表される。

 そして王都の外では、神官が寄付を神殿に納めずに着服している被害が報告されている事も公表された。


 これらの発表で動揺した信徒の中には、騒ぎを納めて静まった信徒達もいたが、激高した者達もいる。

 そして誘拐も襲撃も着服も、悪魔ラーラの仕業だと声高に叫ぶ者もいた。



 ミリと容疑者達をコードナ侯爵邸に届けた護衛達は、他の信徒会拠点を回って次々と信徒を拘束して行った。

 理由はラーラとバルに対する名誉棄損だ。


 ミリの誕生祝いの時から、ラーラを悪魔呼ばわりする様な信徒会の信徒は、ソウサ商会の従業員がマークをしていた。その情報を元に該当者を一気に捕まえて行く。

 名誉棄損を行った信徒は誘拐騒ぎの中でも増え、拘束を進めて行く中でも更に増えた。


 こうして信徒会のほとんどの信徒がコードナ侯爵家とそれに(くみ)する貴族家に捕らえられ、ラーラ、バル、ミリ、コードナ侯爵家、コーハナル侯爵家に対する名誉棄損で訴えられる事になる。



 神殿からは、神官が寄付を着服した事実は無い事との発表があった。

 しかし王宮からの公表資料にある被害の一件一件に付いて、具体的な反論はなかった。



 バルとラーラ達が誘拐事件を知ったのは、学院から帰宅してからだった。

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