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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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酔っ払いと信徒と子供達

 二日目になるとミリ・コードナの誕生祝いの会場の周囲に屋台が出るようになった。

 屋台の方の料金はタダではないが、人が集まるのでそれなりの商売になっている。特に酒類はよく売れて、会場周辺に酔っ払いを発生させていた。


 会場の前には信徒会の信徒達も来ていた。お祝いのご馳走にありつこうとする人達を邪魔する為だ。

 会場の入口前に陣取って、人々の入場を邪魔している。


 その信徒達は、悪魔を祝う事など直ぐに止めて食料は神殿に寄進しろ、と主張していた。神殿にいるお腹を()かせた子供達に与えるべきだと訴えている。

 一方ソウサ商会からの寄進を初日は神官や理由を知らない信徒が受け取った神殿では、二日目の寄進は信徒達に阻まれた。悪魔の手先からの寄進など受け取れないと主張する。二日目も寄進のための食料を神殿の門前に撒き散らす信徒がいた。

 かと思えば(あと)から、なぜ寄進を持って来ないのかと文句を言いに来る信徒もいる。

 信徒会の中で意思の統一が取れていない。

 信徒会の信徒以外の王都民には、信徒会と言う一纏めで扱われていたので、信徒会の信徒の一人一人は主張を変えていなくても、とにかく気に食わないとわがままを言っている様にしか見えなかった。


 初日に神殿から子供達を連れ出して会場に連れて来て食事をさせたと言う話は、ソウサ商会の従業員達の間に広がっていた。

 その為ソウサ商会の従業員が神殿に赴いて神官と直接話をして、神殿に身を寄せている人達を会場に連れて来てもいた。中にはやはり悪魔の子の誕生は祝えないと拒否する信徒もいたが、他の人達が会場に向かおうとするのを邪魔する事は神官達が(いさ)めた。

 神殿の公式見解では、ラーラは祝福されない子を産んだだけ。神殿はラーラを悪魔とは認定していなかった。それなので神官達も内心はともかく表面上は、ミリ・コードナが悪魔の子であると言う事を会場に行かせない理由として信徒達に使わせなかった。



 会場内での酔っ払い達は声は大きかったけれど、礼儀正しくはしていた。暴れて追い出されたらタダ飯が食べられなくなるからだ。

 しかし会場への出入りを信徒会の信徒達が邪魔をすれば、酔っ払いとはケンカになる。

 そうすると警備隊に捕まって、酔っ払いも信徒も連れて行かれた。


 信徒会の信徒には人数の限りがあるが、酔っ払いの方は次々と産み出されている。

 やがて会場周辺には信徒会の信徒はいなくなった。



「ただいま~ミリ~」


 そう言ってラーラの部屋に入って来たパノは、真っ直ぐにミリの所に向かった。


「お帰りなさい、パノ」

「ただいま、ラーラ」


 ミリを見たままそう応えたパノは、ラーラの隣に寝ているミリを抱き上げた。


「会場はどうだった?」

「大丈夫だったわよ。話の通り、信徒会の人達はいなかったわ。酔っ払いはいたけれど」

「酔っ払いは大丈夫だったの?」

「うるさかったけれど、暴れたりはしていないから。歌ったり踊ったり、見てても楽しかったわ」

「こんな時間からお酒を飲んでいるのね」

「昨夜からかもね」

「そんなに?」

「神殿信徒の暴動からずっとお祝いとかは自粛されていたのだもの。やっぱり皆、騒ぎたいのよ」

「そうよね」

「良かったわね~ミリ~。みんながあなたの誕生を祝ってくれていたわよ」


 そう言ってパノはミリの頬をちょんと突いた。


「信徒会の人達もミリを一目見たら、酷い事は言えなくなるだろうにね~ミリ~」

「それはどうかしら」

「言えないわよ。こんなに可愛いのだもの」

「でも、神殿から来た子供達はみんな痩せ細っているそうじゃない。信徒の子達にだってそんな扱いをしている人達に、ミリを会わせるなんて出来ないわ」

「私も会わせる気は無いから、その点はラーラと同じよ。子供達も神殿に身を寄せたのはたまたまの様だから、最初から私達の所で保護出来ていたら良かったのにね」

「暴動当初は邸から出られなかったし、神殿内部の事情なんて分からなかったもの」

「そうよね。あの暴動も、何であんなになったのか、未だに良く分からないらしいけれど、この先、時間が経てば経つほど、本当の事は分からないわよね」

「分からないから仕方がないって出来るものなの?」

「仕方がないなら仕方がないもの」

「それはそうだけれど」


 パノはミリを抱いたまま、ラーラのベッドの端に腰を下ろした。


「ラーラが悩む事じゃないわよ」

「でも私も当事者だし」

「当事者って言うか、被害者よね。邸はどうするの?ラーラとバルの。泥棒も放火犯も捕まっていないから、自分達で直さなければならないのでしょう?直すの?新しく建てるの?」

「まだ決めていなくて」


 今バルとラーラが暮らしているコードナ侯爵家の離れには、本当ならバルの長兄ラゴとその妻が住む筈だった。

 しかし二人は今、コードナ侯爵領で暮らしている。領民が増えている領地でラゴが指揮を執る為だ。

 ラゴを補佐する次兄ガスとその妻も一緒だ。


 バルとラーラの邸はラーラが、バルに捨てられた時に子供と二人で生きて行く為に準備した物だ。

 ミリが生まれてもバルが離れて行かなかったので、ラーラとしてはコードナ侯爵家の離れで暮らすのでも構わなかった。


「建材がまだ高いから、しばらくはこのままかも」

「実家を頼らないの?」

「バルと私は結婚したから実家とは別世帯だし。こうやってコードナ家の離れを借りてはいるから、余り偉そうな事は言えないけれどね」

「でも家賃も払っているのでしょう?それを言うなら私は、二人の愛の巣に居候している訳だし」

「居候じゃないわ。パノがいてくれて助かっているし、いてくれないと困る。ずっと一緒に居て欲しい」

「頼って貰えるのは嬉しいけれど、ずっとは無理よ」

「じゃあパノが結婚するまででも良い」

「そうしたら結局、ずっとになるじゃないの」


 そう言うとパノは笑った。

 ラーラは眉根を寄せると、使用人達を下がらせた。部屋には三人だけになる。


「結婚、しないの?」

「相手がいないからね」

「パノが婚約申請した(かた)も、今はまだ婚約もしてないそうじゃない」

「でも彼には一度振られたのよ?有り得ないわ」

「家の関係で距離を取っただけでしょう?あちらもパノとの結婚を諦めてないのかも知れないわよ?」

「ラーラは彼を薦めるの?」

「どんな方か知らないからそうではないけれど、でもパノはその方を気に入っていたのでしょう?」

「当時はね」

「私は色んな事があったけれど、それでもやっぱりバルと結婚出来て良かったと思うし、パノも結婚するなら好きな人と結婚して欲しい」

「ラーラはバルを独占出来て良かったわよね?ラーラは結構ヤキモチ焼きだし」

「そんな事ないわよ」

「そう?バルが私に昔の事を話していると、ラーラ、拗ねてるじゃない?」

「え?拗ねてないわよ?」

「え~?あの微笑みは、拗ねてる様にしか見えないわ」

「拗ねていません。そりゃ私の知らないバルの事を知っているパノが、少しは羨ましいなって思うけれど」

「なんだ。羨ましがってたのね」

「そうよ」

「ではそう言う事にして置いて上げるけれど、私もラーラが羨ましいわ」

「え?」

「こんなに可愛い娘を産んだラーラが羨ましい」

「パノ」

「私が男だったら、絶対にミリをお嫁さんにする」

「褒めてくれて嬉しいけれど、気が早いわよ。ミリは生まれたばかりじゃない」

「そんな事ないでしょう?バルだってもう、ミリがお嫁に行く時の事を心配してるし」

「え~?パノ、バルと同類なの?」

「え?ヤキモチ?」

「違うわよ」

「ふふ。でもいつかはミリも結婚するだろうし」

「まだまだ先じゃない」

「って、フェリさんもユーレさんも思っていた筈よ。ラーラの結婚も出産も」

「お祖母ちゃんと母さんが?」

「ユーレさん、ミリは可愛いけれど、自分がお祖母ちゃんになった事は認めたくないって言っていたわ。フェリさんがそれを聞いて、フェリさんをお祖母ちゃんにしたのはユーレさんとダンさんだって、ユーレさんに文句付けていたけれどね」

「文句って」

「フェリさんらしいよね」

「確かに、言いたがりぃのお祖母ちゃんらしい」


 二人はクスクスと笑い合った。



 ソウサ商会からの寄進は二日目と三日目は神殿に渡らなかったが、神殿に身を寄せる人の中で望む人達は、会場で食事をする事が出来た。


 その中で身寄りのない子供達はソウサ商会が仲介して、望めば王都に残っている貴族家に身を移せた。

 下働きとして雇われて、衣食住が保証される事になる。まだ働けない様な幼い子も、望めば下働き見習いとして扱われた。

 そしてある程度の体力がついたら、子供達は領地に送られる予定だ。

 王都に残った貴族家の領地は、どこも人が増えて忙しくなっている。それなので領地には、子供達でもできる仕事がある。


 子供が減った神殿では、食料事情が改善した。

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