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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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報告

 二日振りにコードナ侯爵邸に帰ったバルは、疲れ切っている中、集まった人々と報告会を行った。


 学院に押し入った襲撃犯は一人以外は全員逮捕された。残りの一人は教室で護衛に刺されて死亡。バルが切り捨てた者達は命を取り留めている。

 生徒は死亡2名、重傷1名。重傷者は命に別状がない。

 軽傷者はバルが腕に怪我をしたのみ。

 他に怪我人はなし。教師も護衛も学院の守衛も軍の兵士も、怪我を負わなかった。

 しかし閉じ込められていた生徒の中には、解放されても怯えている生徒がいる。教師や守衛も含めて、精神的なショックを受けている人間は多かった。

 学院はしばらくは休校となる。


 襲撃犯を護衛として雇用していた民間護衛会社は、会社(ぐる)みで共犯だった。

 会社は信徒会の拠点になっていた。社長を含め従業員の中にも、信徒の抗議から始まった一連の騒動の中で、大切な人を亡くしている者が何人もいた。

 学院襲撃を企んだ者達は、コードナ侯爵家の馬車襲撃に付いては知らないと供述している。


 コードナ侯爵家の馬車を襲った者達は、(あと)からコードナ侯爵家を始めとする各貴族家の護衛達に、次々と捕らえられていった。

 しかし馬車襲撃犯全員を捕らえられたのかどうかは確認できない。正確な人数が分かっていないので、逃げ延びている犯人がいる可能性はある。

 こちらも信徒会の者達だった。ただし、拠点が民間護衛会社とは異なる。

 そして学院襲撃に付いては知らない様子だった。

 ラーラを乗せたコードナ侯爵家の馬車が、少数の護衛しか連れずに通るとの情報を手に入れて、待ち伏せして襲ったのだ。そしてその情報は、いつ誰がどこから手に入れたのか、判然としなかった。

 その情報が信徒会の幾つかの拠点で噂として広まり、襲撃者達は当日に試しに集まって来てみただけ。来てみたら本当に少ない護衛でコードナ侯爵家の馬車が現れたから、襲ってみただけだ。組織立った襲撃ではなかった。

 捕まった馬車襲撃犯達は、既に調書と共に王宮に送られていた。


 初日に解放されたソウサ商会の護衛女性達は、翌日に王宮で事情聴取を受けた。

 それが終わるとソウサ商会に戻り、仕事を続けるかどうか考えて置く様に伝えられ、帰宅が許される。

 全員が自分の護衛対象は守る事が出来たが、目の前で生徒が亡くなっている為、大きな精神的ショックを受けている人もいる。無理に護衛を続けるのは本人の為にならないのはもちろん、今後の護衛業務に支障が出れば護衛対象を守れない可能性も危惧される。

 護衛を続ける場合も他の人には伝えずに申し出る事にさせて、辞める人が気後(きおく)れしない様に配慮された。

 そして護衛を続ける事を申し出た人には、護衛対象だった生徒とその家族からの感謝の言葉が伝えられた。


 一方で今日になって解放された護衛女性達は、既に帰宅していて明日も休暇になる。王宮での事情聴取が行われるのは明後日以降だ。

 その後は、先に解放された護衛女性達と同じ様に、護衛を続けるかどうかの確認などを行う予定だ。



「バルは事情聴取はもう良いのか?」


 バルの長兄ラゴに尋ねられ、バルは肯いた。


「ああ。今の所はね。俺の証言と俺が斬った犯人の供述が一致したから。何かあったら喚ばれるらしいけれど」

「大変だったな」


 バルの次兄ガスがバルの肩に手を掛けて言った。


「そうだね。でも死なせなくて良かった」

「ああ。大したものだ」

「良くやったな」


 兄二人に褒められて、バルはかなり照れた。

 こんな事は生まれて初めてかも知れない。

 バルの祖父ゴバが「全くだ」と、バルの父ガダが「本当に」と肯く。

 バルがパノの祖父ルーゾに顔を向ける。


「スディオのおかげでもあります。スディオが連絡を寄越してくれたから、ラーラの教室に向かえたし、犯人達の後ろを取れました」

「そうかね」


 ルーゾが少し微妙な顔をする。


「あれがなければもしかしたら、襲撃犯達がドアを壊してラーラの教室内に入り込んだかも知れません」

「そうか」

「はい」

「もし良かったら、バルからスディオにその言葉を伝えてやってくれないか?」

「ええ、もちろん。スディオはどうかしたのですか?」

「ちょっとパノに怒られたのだが、バルは聞いていないのか」

「あの後ですかね?」


 スディオの護衛の報せを聞いて教室を飛び出した後、パノはスディオと行動を共にしたのだろうから、その時に何かあったのかとバルは思った。


「それで言うと、我々もパノに怒られそうだがな」

「そうだな」


 ゴバとルーゾが肯き合って、ラゴとガスも苦笑を浮かべている。

 バルだけが良く分かっていなかった。



「しかし良く似ていたな」

「本当に」

「ラーラの生まれた時にソックリらしいね」


 ラーラの名前にバルが「ラーラ?」と反応する。


「フェリさんもユーレさんもそう言っていたね」

「まあ、母子(ぼし)共に無事で良かった」

「あの・・・」


 バルが片手を上げて話を止め、他の5人を見回した。


「何の話?」


 5人が驚きの表情を浮かべる。


「バル!」

「まさか!」

「まだ会ってないのか?!」

「え?誰に?!」


 皆の雰囲気に、バルは立ち上がる。


「ラーラに?!」

「そうだよ!」

「ラーラに何かあったのか?!」

「何かって、出産だよ」

「しゅっ、さん?」

「そうだ」

「出産?!」

「そうだぞ。ラーラが出産したんだ」

「ラーラが?!」

「無事、女の子が生またぞ」

「女の子が?!」

「もうここは良いから、ラーラの所へ行ってやれ」

「あ、でも」

「どうした?」

「俺、合わせる顔が・・・」

「顔?」

「ラーラが大変な時に俺、(そば)にいてやれなかったから」

「男達は誰も傍には近付けなかったぞ」

「そうそう」

「バルがいてもラーラの傍には近寄らせてもらえなかったろうさ」

「その通りだね」

「ほら」

「行ってやれよ」

「ラーラはバルを待ってるんじゃないか」

「ラーラ」


 バルはドアに体を向けると、「ラーラ!」と叫んで飛び出して行った。


 その様子を見送った5人が、小さく溜め息を()く。


「誰も連絡してなかったのか?」

「心配させない様にと陣痛の事は伝えなかったらしい」

「そのままラーラの事は、一切報告をしなかったのでしょうね」

「しかしバルの事だから、真っ直ぐにラーラの所に行くかと思ったな」

「そうだな。バルが帰って来たって報告を聞いたら、ラーラだって待っていたろうに」


 バルに伝えるなと命じたのは女性達だった。

 ここにいる男性達は教えて貰えなかったバルに同情したし、自分がバルの立場でも同じ扱いをされただろうと思って、また皆で溜め息を吐いた。



 髪に血糊が付いたままだったバルは女性達に阻まれ、ラーラに会うより先に風呂に入れられた。

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